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表現者が葛藤している様子を撮りたい…!『漫画誕生』大木萠監督に聞く!

2020年1月31日

現代の漫画のルーツと言われながらも歴史に埋もれてしまった日本初の職業漫画家・北沢樂天を描いた人間ドラマ『漫画誕生』が関西の劇場でも2月1日(土)より公開される。今回、大木萠監督にインタビューを行った。

 

映画『漫画誕生』は、漫画を初めて職業とし、「近代漫画の父」とうたわれた北沢楽天の半生を描いた伝記ドラマ。西洋漫画の手法を学んで風刺画を近代漫画として確立し、明治から昭和にわたって活躍した楽天を、イッセー尾形が演じた。風刺画家として福沢諭吉にその才能を見いだされた若かりし楽天は、「日本初の職業漫画家」となり、一気に売れっ子の道を駆け上っていく。時代の寵児となり、政界からも一目置かれる存在となった楽天は、多くの弟子を養成して新しい表現方法にも次々に挑戦。「ポンチ絵」と呼ばれて蔑まれていた風刺画を、「漫画」というひとつのジャンルとして広く世に浸透させていった。しかし、時代が下るにつれて世の中には次第に暗雲が立ち込め、楽天や漫画はもちろん、日本全体が黒い渦の中へと巻き込まれていく。

 

北沢楽天顕彰会理事のあらい太朗さんからオファー頂いた大木監督は、中学生までは漫画家になりたかった。だが北沢楽天さんを知らず「表現することを考えていく上で、興味深い人だ」と衝撃を受ける。そもそも、大木監督の前作『花火思想』を鑑賞して気に入り、あらいさんは監督へオファーした。当初はドキュメンタリーを検討していたが、紆余曲折あり、劇映画の制作に至っている。知られざる著名人の映画をしっかり撮ろうとすると、時代ものとして超大作になってしまう。当初、大木監督は、北沢楽天さんの晩年のみにスポットを当てた会話劇を構想していた。「会話劇の展開について『ラストエンペラー』と『笑の大学』を足して2で割ったような構成を考え、分かりやすく綺麗にバックグラウンドも説明出来る」と着想し、エピソードを付け加えていったが「登場人物も最初は3,4人だったが、次第に追加しストーリーが大きくなっていった」と困惑。そこで「漫画に関するストーリーなので、様々な出来事があって良い」と考え、アニメーションやミュージカルも挿入し、おもちゃ箱のような映画にしている。

 

キャスティングにあたり、当初から「北沢楽天さんをフィクションで演じてもらうなら、イッセー尾形さん」とインスピレーションがあった。偉人伝にするつもりはなく「時代に逆らわずにやってきた人の代表だけど、腹に一物はあったと思う。そう感じさせずに『僕はやることやってるよ』と飄々と演じられる人はイッセー尾形しか考えられない」と意志は固く、スクリーンに映るイッセー尾形が北沢楽天に重なることを楽しみにしていく。なお、オファーを受けたイッセー尾形さんは即答で応じて頂いた。当時、スタッフまで決まっておらず、企画や台本が仮状態で、何もかもが未定だったが「実際にお会いした際に、イッセーさんが開口一番に『僕も知らなかった、この人』と仰った。『よく見つけてきたね、こんな人』『これは、おもしろい良い企画だ』と話して頂いた」と期待以上の反応である。また、北沢楽天さんの妻である、いのさんを篠原ともえさんが演じた。北沢楽天さんが若い時と老いた時で分かれて演じているので、奥さんも分ける案もあったが「篠原さんが、どのように演じられるか想像できなかった。だからこそ、おもしろく感じ、見てみたい」と考え、オファー。「いつまでも若々しく普遍的な女性像を映画では壊したくない」と理想があり「北沢楽天の傍にいる人は『ずっと変わらなかったな、お前は』というオチが必要」だと踏まえ、どちらも演じてもらっている。なお、昨年、31歳の若さで亡くなられた櫻井拓也さんが、北沢楽天さんの弟子である漫画家の小川治平さんを演じた。大木監督にとっては特別な存在であり「前作『花火思想』は櫻井を撮りたかったから、と云っても過言ではない。彼は特異な存在だった」と話す。「どこでも埋没しそうだけど、一度見たら二度と忘れない顔をしている。同じような人間は不思議といない。目立っているわけでもなく、哀愁がある」と述べ「小川治平という当時の楽天が一番目にかけていた弟子で、どこか腹に一物を抱えて活動し続け過労で38歳で亡くなっている。一瞬の夢や儚さは櫻井にしか演じられない」と思い、オファーし出演して頂いた。今回、スタッフの一人としても関わっており「こんな役者は二度と出てこない」とショックが残っている。

 

今作を描くにあたり、過去の資料は、北沢楽天さんが晩年に住んでいた家屋を用いた漫画会館に全部あったが、整理されていなかった。さらに国立国会図書館からも集め、苦労を重ねている。オール埼玉ロケでの撮影となり、ロケハンをしている中で、呑み屋で偶然知り合った方の知り合いが築170年の古民家を持っており、持て余して壊す予定があると知り、見学してみた。6000坪もある武家屋敷の佇まいで、そのまま残っており、本編のほとんどを合宿して撮影していく。「偶然が重なり全てタイミング良く撮れました」と振り返り「この予算と規模による時代モノなので、大変だったが、やればできる!」と自信となった。

 

なお、検閲官の振る舞いは、当時を描くうえで重要な立ち位置である。大木監督は「敵でも味方でもない。途中で指向が変わり、最終的に個人的な話になる。趣旨が変わっていく綻びから人間性をどのように表現できるか」とアレンジしていった。当初から「現代の私達の代弁者を具現化したもの」と捉え「漫画家になりたい、という夢がみられ、漫画家になれて売れたり売れなかったりする現代の恨み辛みの種を蒔いた人が『僕は書きたいものがないよ』と言われると”どういうことだ、俺達は被害者だ”と言いたくなる」と鑑み、その代弁者として検閲官を配置している。今作を撮り終え「『花火思想』とは違った角度で表現者の葛藤を、北沢楽天を通して描けた」と確信が持てた。次作として、トキワ荘に出入りしながら唯一売れなかった漫画家である森安なおやさんを描くことを構想しており「表現者が葛藤している様子を撮りたい」と目を輝かせている。

 

映画『漫画誕生』は、2月1日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、3月20日(金)より京都・九条の京都みなみ会館、3月21日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。各劇場での公開初日には大木萠監督による舞台挨拶を開催予定。なお、2月1日(土)の第七藝術劇場での舞台挨拶は、検閲官の古賀を演じた稲荷卓央さんも登壇。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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