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日本のおかげでアニメーションが好きになりました…『幸福路のチー』ソン・シンイン監督に聞く!

2019年11月28日

蒋介石の死をはじめ、学生運動、大地震などの台湾の現代史を背景に、祖母の死をきっかけに帰郷した女性が思い出を振り返りながら、自分を見つめ直す姿を描く『幸福路のチー』が、11月29日(金)より全国の劇場で公開される。今回、ソン・シンイン監督にインタビューを行った。

 

映画『幸福路のチー』は、台北郊外に実在する「幸福路」を舞台に、祖母の死をきっかけに帰郷した女性が幼少時の思い出とともに自分を見つめ直す姿を、台湾現代史を背景に描いたアニメーション映画。台湾の田舎町で必死に勉強し、渡米して成功を収めた女性チー。ある日、祖母の訃報を受け、故郷である幸福路へ久々に帰ってくる。子ども時代の懐かしい思い出を振り返りながら、自分自身の人生や家族の意味について思いをめぐらせるチーだったが……。『藍色夏恋』などで知られる人気女優グイ・ルンメイが主人公チーの声を担当している。

 

シンイン監督自身の経験を基にして描いている本作。監督自身は、あくまでフィクションであることを踏まえ「他の人に『これはあなただ』と言われても平気」と飄々としている。別の監督による作品を観る時においても「ストーリーが監督自身のことではなくとも、作品を通してあの監督はこのような人間かな」と冷静に判断していた。

 

日本の朝ドラが好きなシンイン監督は、特に『あさが来た』を気に入っており「あさに共感しました。こんな作品を作りたい」と心に秘め、台湾の歴史を今回のアニメーションに積極的に取り入れている。監督が幼い頃には、台湾の中で日本という国は不在だったが、今作の中には『ガッチャマン』の仕草が出てきており「日本のアニメーションの影響を受けて、今作を作ったかもしれません」と告白。台湾人は沢山の日本のアニメーションを観ており「『ちびまる子ちゃん』『ガッチャマン』『ONE PIECE』『名探偵コナン』…何でも観ます。もちろん、ジブリは小さい時に全部観ました」と振り返る。『火垂るの墓』と出会い、表現の自由を感じ、アニメーションに対する固定的概念を持つこともなく「アニメーションを好きになったのは日本のおかげです」と感謝せざるを得ない。

 

チーが学んだ小学校では台湾語が禁止され、北京語を強制させられる。シンイン監督の世代と同じ台湾人は皆経験しており「見せしめの処罰を受けたことがあります」と明かした。台湾は移民社会ではないが「親世代と話す言葉が違う。私は台湾語の聞き取りは大丈夫だけど、全然喋れない」とまで明かす。また、チーの祖母が噛んでいたビンロウと呼ばれるヤシ科の植物も象徴的に描かれている。元々、ビンロウとお酒とタバコは、先住民族が神様に捧げるための神聖なものであるが「彼等達は日常生活で使う。労働者達が目を覚ますためにビンロウを噛む。女性は絶対しない。つまり複雑な文化的差別関係がある」と説く。現在でも社会的にビンロウは悪いもの、と云われており「田舎から台北に出てきた私の母は、文化的で教養がある過程で育ったので、ビンロウが大嫌いです。私も学校教育の影響もあり、原住民に対する差別的な態度もあり、自分の祖母が大嫌いでした。ビンロウを噛んでいるおばあちゃんがいると恥ずかしいけど、彼らにとっては普通のもの」と正直に語った。

 

さらに、チーが学んだ小学校の先生が恐ろしい存在として描かれている。改めてシンイン監督は振り返り「先生は怖い存在だけど、悪い人間じゃない。それは戒厳令が解除される前の話」と解説。先生達は教育上の権威を振る舞い、悪いことしたら体罰になる空気を漂わせており、警察と同じぐらい権威を持ち、誰も疑わず正しいと思われていた。小さな女の子にとっては恐怖の存在でしかなく「私は勉強ができたのに何回も体罰を受けた。今は信じられない話」と打ち明ける。なお、監督がアメリカの大学に留学していた頃、クラスメイトからは「シンインは、小さい頃は北朝鮮みたいな生活を送っていたね」と云われ、ショックだった。アメリカに行くまでは特に意識していなかったが「私の国は民主的で、大統領を投票できる。ドラマチックな出来事があるかもしれません」と冷静に語る。

 

タイトルにある幸福路は、台北市内の西側にある新北市新荘区にある地名であり、この場所に基づいて監督が本作を描いた。だが、実際に幸福路というような地名は台湾に何十カ所もあり「幸福路は昔は農村で、経済が発展している時に急に工場が沢山出来て、工業の町になっていきました」と解説した。本作について「台湾の歴史を知らない人間も楽しめる映画」だと捉えており「愛の物語、自分の家族への愛と憎しみ、自分が成長する時に傷んだ痛みを交えたストーリー。台湾の歴史を知らず、台湾に行ったことない人も共感できる」と自信がある。「If you can find love and hateness in the film,you love it! 憎しみと愛は同時に存在するもの、それを見つけた時、一番おもしろい」と思いを込め、本作は出来上がった。

 

現在、次回作として実写作品を手掛けており「サイコロジカル・スリラー。日本のある事件(首都圏連続不審死事件)に惹かれて、着想した脚本です。犯人の木嶋佳苗による視点の物語ではなく、もう一人の女性から嫉妬を中心に描いています」と述べ、シンイン監督が見つめる先は注目せざるを得ない。

 

映画『幸福路のチー』は、11月29日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。また、2020年1月24日(金)より、大阪・梅田のテアトル梅田、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。なお、京都・出町柳の出町座でも順次公開。

台湾のことをあまり知らない人にこそ、ぜひ観て欲しい。その時代にもその場所にもいなかったはずなのに、なぜか共感できるノスタルジーがいっぱいの風景が、この映画の中には広がっている。

 

台湾が好きな人には当然ながら必見の作品。舞台となる一昔前の台北の街並みは、今までに台湾映画で何度も見たことのあるおなじみの風景。主人公チーの声はグイ・ルンメイが演じているとくれば、もはや観ない理由は無い。

 

過去の台湾映画でも度々描かれてきた、台湾民主化の時代。その真っ只中をチーが成長していく様子は、20世紀終盤の台湾の歴史を振り返ってゆく体験となる。白色テロ、蒋介石の死、戒厳令の解除、そして台湾大地震。情報量はとても多いが、必要な言葉はほとんど日本語字幕に訳されているので、見逃さないように画面を見つめていただきたい。

 

「あの頃の私、元気にしてる・・・?」と本作を締めくくる、エンディング曲も素晴らしい。 優しさと懐かしさと、そして少し寂しさがこめられた歌詞に、涙がこぼれてしまう。 きっと多くの人の心に届く、愛おしさに満ちた傑作だ。

fromNZ2.0@エヌゼット

 

『台湾の片隅に』かも知れない…台湾発の等身大アニメーション!

 

巷では、タピオカが大流行し、何かと耳にする機会が増えた国、台湾。しかし、台湾の歴史については、知らない人がほとんどではないだろうか。本作はチーの回想の中で、民族差別や貧富格差、様々な社会問題が露わになり、台湾の内情を垣間見ることができる。中でも、”アミ族”と言う原住民であった祖母のキャラクターが印象に残った。

 

全体的な絵のタッチは、”夜明け告げるルーのうた”の湯浅政明監督に近く、ストーリーとしては片渕須直監督の”この世界の片隅に。”に近く感じる。物語の中で、日本のアニメ作品が登場するのだが、日本のアニメ文化の影響が少なからず、あるようで日本のアニメファンには見やすい作品ではないか。

物語の中に登場する、台湾の文化。台湾をよく知る人には、『懐かしさや愛着』が、あまり知らない人でも、『台湾を知りたくなる』作品だと感じる。観賞後に復習する事で、深く楽しめる作品。シンプルに良い。

from関西キネマ倶楽部

 

物語の大筋は、社会に出た大人が一度は抱えるであろう”なりたい自分になれたかどうか”という悩みに対してのQ&Aである。親の敷いたレールを頑張って走ろうとする子供時代。夢と希望に溢れ、一緒に遊び、一緒に夢を見た仲間達。少年少女達の希望を映した瞳の潤沢さは、アニメーションである強みをひしひしと感じさせてくれるほど鮮明に感じ取ることができる。

 

都会で一人暮らしをする田舎者の応援映画とも受け取れる内容であり、我々の中にも『母親は絶対死なない』『おばあちゃんですら、ずっと自分のおばあちゃんとして側に居てくれるものだとおもっている』と心のどこかで考えている人は多いのではないだろうか。だからこそ余計に、家族の死に1人で直面すると、孤独感に押しつぶされてしまう。ましてや、孤独を感じる時に1人都会で細々と暮らしていると、本当に人は何に縋って生きていけばいいのかがわからず、途方に暮れてしまう。本作は拠り所がない人間に向けた田舎の温かさを再度感じさせてくれるようなステキな帰省ムービーとして仕上がっている。

fromねむひら

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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