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第10回田辺・弁慶映画祭グランプリ作品『空(カラ)の味』塚田万理奈監督が込めた想い

2017年9月21日

第10回田辺・弁慶映画祭で弁慶グランプリ・映検審査員賞・市民賞・女優賞を受賞した塚田万理奈監督による『空(カラ)の味』が9月16日(土)より大阪・十三のシアターセブンで上映。6月に開催されたシネ・リーブル梅田での特集上映『田辺・弁慶映画祭セレクション2017』以来に大阪での上映となった今回、塚田万理奈監督にインタビューを行った。

 

映画『空(カラ)の味』は、摂食障害に悩む女子高生が、ある女性との交流を通して解放されていく姿を描いたドラマ。女子高生の聡子は優しい家族や仲良しの友人たちに囲まれて何不自由ない毎日を送っていたが、いつしか自分が摂食障害に陥っていることに気づく。理由もわからないまま不安を募らせる聡子は、家族や友人との関係もぎくしゃくするようになり追い詰められていく。そんなある日、聡子は街で出会った危うげな女性マキと親しくなるが…

特集上映以降、東京のUPLINKや塚田監督の地元、長野県の長野松竹相生座・ロキシーでも上映された。地元での上映の際には、幼い頃の塚田さんを知っている友達が観に来てくれた。塚田監督は「私が摂食障害だった時には会っていなかった。その子達が泣いていて『(摂食障害の頃を)知らなかったけど、とにかく生きていてよかった』と言われて嬉しかった」と感激した。

 

塚田監督は、自身が患った摂食障害の経験を演じてもらうことについて「撮影中はとても心苦しく、毎日泣いていた。脚本執筆中は書きたくなくて何日か逃げることも度々あった」と告白する。現在は克服したが、摂食障害のことは今でも積極的に話そうとはしていない。患っていた当時は「自分自身のことは絶望していた。ごはんが食べられず、周りの皆に迷惑をかけ、自分でどうしたらいいかわからない。私はゴミみたいな人間だと思っていた。生きる気力もなかったので直す気力もなく、毎日ダラダラしてご飯も食べず痩せていった」と振り返る。それでも「病気だろうが頭がおかしかろうが、私に優しくしてくれた人に生きていてほしいと想いを伝えたい。自分のことを話すことで相手も優しく話せると思ったら、気にならなくなった」ことで自身を強くした。現在は、摂食障害を武器ではなく弱みだと思っており自分からは話せないが、映画は武器だと思っており「摂食障害を映画という武器にできれば、自分が強く生きれる」と想いを持っている。

 

堀さんについて、塚田監督は「役者さんにも心があるので、演技について話し合うのがおもしろい。堀さんと母親へのコンプレックスについて一緒に泣きながら話し、堀さんの人間性を信用でき、堀さんが演じることに意味がある」と確信した。堀さんと話し合い、演技しやすいように集中できれば動きは考えなくても大丈夫だと感じ「話し合ったら一発で撮るようにした。何回もやっていると慣れてしまう。堀さんが一番集中している瞬間に撮ったほうがいい」と考え、演技はなるべく切らず繰り返さないようにと撮影された。塚田監督から演技指導をしていた覚えはなく、現場で毎日のように泣いた。塚田監督の横では堀さんが泣きながらいつも聞き、スタッフや役者さんが待ちながら支えてくれた撮影現場だった。作品への反応について「どう思われるかは気にしていない。私が作りたくて死に物狂いになり、大好きな人達が全力でやった作品なので賞は気にしていない」と応える。だが、映画祭で受賞し喜んでいる堀さんとスタッフを見た時に「私に使ってくれた心にお礼が出来たと思い嬉しかった」と漏らす。

 

『空(カラ)の味』というタイトルについて、塚田監督は拘りがある。ひらがなと漢字とカタカナを混ぜており「カタカナは日本語なのに外国の言葉を表現する、どっちつかずの存在が好き。カタカナを守りたくてカッコをつけた。中途半端な存在だと思っている主人公とカタカナは同じ」と捉えた。文字のフォントは、デザイナーと話し合い少し崩した文字のデザインにしており「そのままではなく、離れていたり斜めだったり。よく見ないと気づかないが、本当は崩れている主人公と同じような形にしたい」ときめた。文字の色も「何かの色でもないような、空や水中のような色だけど、白でもグレイでもない色が混ざっていて中途半端な色にしてほしい」とデザイナーにお願いし、今作の題字が出来上がった。

 

現在の塚田監督は、中学生時代のエピソードを基にして、脚本執筆中。「私は納得するまで書き準備をし続けるタイプなので、いつになるかわからない。『空(カラ)の味』より長くなりそう。4時間ぐらいの作品を撮りたい」と構想している。『空(カラ)の味』上映中、中学の同級生が観に来てくれた。塚田監督は「その子を3日に1回ぐらい思い出すぐらいどうしているのか気になっていたが、連絡が取れなかった。劇場で再会し、感動して泣いてしまった。その人が今日までどうやって生きてきたか知らなかったけど、生きていたことが嬉しかった」と喜んだ。「中学の頃のみんながどうしているかなと思ったら、皆のことを思い出して撮りたい」と現在の心境を話す。

 

作品ごとに過去に遡っている塚田監督は「言っていないことを伝えないと前に進めない。あの時言わなかったことを今までは流してきたが、自分がこれから生きていくために、自分が悔しかったことや言えばよかったこと、形にしておきたかったことを回収している」と考えている。「これから先のことは未来の自分が考えればいい。今を生きているのに、あの時言わなかったことが気になって振り返ってしまう。それを回収しに戻らないとスッキリしない」と自身を見つめる。現在の塚田監督自身について「強くなっているかわからない。摂食障害に二度となりたくないが、なったおかげで180度ぐらい考え方が変わり優しくなった」と分析。「周りの人を自分の尺で考えていたが、今は違う尺の人がいてもいいなと思える程優しくなれた」と感じ、映画が強い武器になった。「映画にしなかったら、その武器を研げなかった。優しくなった材料は持っているが、盾にはできなかった。映画にして自分を遡り、武器にしている」と今作が自身に与えた影響を表した。

 

今後の塚田監督は、各地で上映を行うべく活動するとともに、次作の脚本を執筆している。その展開を大いに楽しみにしたい。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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