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街が抱えている課題に映画が処方箋を提案する…『いのちスケッチ』瀬木直貴監督に聞く!

2019年11月17日

福岡県大牟田市に実在する“動物福祉に特化した動物園“として知られる大牟田市動物園を舞台としたヒューマンドラマ『いのちスケッチ』が11月15日(金)より全国の劇場で公開中。今回、瀬木直貴監督にインタビューを行った。

 

映画『いのちスケッチ』は、国内で初めて無麻酔採血に成功するなど、動物福祉に特化した動物園として世界からも注目されている福岡県大牟田市に実在する動物園を舞台にした人間ドラマ。漫画家を目指し上京しながら、自身に限界を感じて故郷の福岡に帰ってきた田中亮太は、友人から地元の延命動物園でのアルバイトを紹介される。その動物園は動物の健康と幸せを第一に考える、世界でも珍しい「動物福祉」に力を入れる動物園だったが、予算縮小で園の運営は危機的状況におかれていた。園長の野田や獣医師の彩たちとともに働き、動物福祉の重要さを痛感した亮太は、この取り組みを自らの漫画で伝えるため、再びペンを握ることを決意する。
亮太役を『走れ!T校バスケット部』『今日も嫌がらせ弁当』の佐藤寛太さん、ヒロインの彩役を連続テレビ小説『まんぷく』の藤本泉さんが演じ、武田鉄矢さん、渡辺美佐子さん、浅田美代子さんらが脇を固める。監督は『恋のしずく』『カラアゲ★USA』の瀬木直貴さん。

 

現在から10年前、瀬木監督は、映画『ラーメン侍』の撮影時、一部を福岡県大牟田市で撮った。大牟田市は、2008年に34歳の若さで急逝した漫画家の三隅健さんの出身。御実家で両親が「やきとり二番」を経営しており「将来、大牟田市で映画を撮ることがあれば、漫画家志望の青年を主人公にしよう」と10年前から決意していた。だが、大牟田市出身の知人から「大牟田市は財政赤字を抱えている炭鉱の街。石炭の街が事件や事故でクローズアップされ、炭鉱の閉山があり、財政赤字を抱えている」と良くないイメージの街になっていることを聞く。

 

しかし、明るい材料として、高齢化社会への支援が素晴らしい街であると発見。5年前には、認知症老人に最も優しい街として「大牟田モデル」が形成され、全国でも先進地域となっている。さらに、調べていくと、高齢化率は福岡県でもトップクラス、人口減少率も激しく、経済的にも疲弊化していたが、プラス要素として、出生率が高く。全国平均、福岡県平均の2倍であると知る。そこで「子育てファミリー層をこの時代に街に繋ぎとめておく求心力が必要」だと課題を掲げ、動物園はリピーターを獲得する場所であると提案した。

 

「大牟田の街づくりを考えるのであれば、動物園を核にしながら広げていく方が早い」と話す中で、次第に映画制作の話が盛り上がっていく。瀬木監督は、これまでオールロケで地域に根差したオリジナルのストーリーを撮ってきており「ご当地映画という意識は全くない」と語る。街が抱えている課題に映画として何らかの処方箋を出す取り組みをしており「光と影の両方を見つめていくことが必要。その街にしかない何かを拾い上げようとしている」と目的は明確。「地産地消の映画にはすべきではない」と考えており「映画は撮影した場所以外でどれだけ広く観られて興行収入がついてくるか。地元の方々は、映画制作のプロセスをより良い地域社会づくりに活用することが目的」だと捉え、Win-Winが可能になるように継続して取り組んできた。

 

撮影の8ヶ月も前から瀬木監督は大牟田市に滞在し、街の歴史を勉強している。「現地で長期間暮らす非効率な映画作りをしています」と告白するが「コミュニケーションを重ねて人間関係を理解しながらチームワークを構築し、自分が描きたいものと街の人が描いてほしいものを調整していきます」と、監督兼プロデューサーとして、資金繰りも含め、撮影に向けて協力体制を組み立ててきた。チームになって作ることを作品毎に大切にしており「関わった人が誰も痛むことなくハッピーになるようにしています。皆が出来るわけではなく、覚悟が必要」と心得ている。

 

動物園を舞台にした本作にあたり、瀬木監督自身は昨年から飼育員の体験もしており、その内容を俳優達に伝えていく。俳優達も、かなり早くから現地入りしてもらい、飼育員と一緒に行動させた。劇中に登場するライオンとの撮影では、檻があるとはいえ、30cm目の前に200Kg近いライオンがおり、鼻息がかかる位置にいる。まさに命と向き合った撮影だが「それを味わった俳優達は『こんな凄いことをあの人達はやっていたんだ』と打ちのめされていた」と明かす。医療行為を除き、俳優達が全て手掛けており、嘘がない映画となっている。何かを誇張したダイナミックなストーリーにはせず、登場人物の成長を繊細に描き切った。

 

脇を固める出演者は錚々たる俳優を揃えており「監督冥利にと尽きる」と感じている。役者の挑戦に対し、さらに挑戦し返すヒリヒリとした空気感がある現場で、ほんわかとした作品を作り上げ「これぞ映画撮影だ」と実感していた。瀬木監督は現場で細かい指示は出さず、空気感を作ることに専念しており「その場にいられれば、軌道修正はするが自由に演じてほしい。小さな工夫を積み重ねていき本作が出来上がっています」と振り返る。監督として撮りたい画はあるが「動物達は皆繊細。動物園の駐車場でシミュレーションを重ねた上で、撮り直しが出来ない一発勝負しか出来ない」と心得て、10日間のの撮影に挑んできた。

 

これまでの作品を振り返り「年齢を問わず、人生で一歩前に出ようとている人の肩を押してやる作品を描いてきた」と気づく。また、食べ物については、ラーメンと唐揚げに関する作品を手掛けており「次はカレーの映画を作ろう」と話しながら、自作に眼を輝かせていた。

 

映画『いのちスケッチ』は、大阪・十三の第七藝術劇場、四条畷のイオンシネマ四条畷、京都・桂川のイオンシネマ京都桂川、兵庫・尼崎の塚口サンサン劇場をはじめ、全国の劇場で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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