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ぬいぐるみとしゃべる人が集まるサークルを舞台に、恋愛やジェンダーに由来するノリが苦手な男子と彼を取り巻く人々の姿を描く『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』がいよいよ京都の劇場で先行公開!

2023年4月4日

©映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

 

大学のとあるサークルを舞台に、男らしさや女らしさというものが苦手な大学生と、彼を取り巻く人々を描く『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が4月7日(金)より京都の劇場で先行公開される。

 

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』…

京都にある大学の「ぬいぐるみサークル」。「男らしさ」や「女らしさ」というノリが苦手な大学生の七森は、そこで出会った女子大生の麦戸と心を通わせる。そんな2人と、彼らを取り巻く人びとの姿を通して、新しい時代の優しさの意味を問いただしていく。

 

本作では、「おもろい以外いらんねん」「きみだからさびしい」など繊細な感性で紡がれた作品で知られる大前粟生さんの小説「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」を映画化。『町田くんの世界』以来の映画主演作となる細田佳央太さんが七森を演じ、七森と心を通わせる麦戸役を『いとみち』の駒井蓮さんが務めた。そのほか、新谷ゆづみさん、細川岳さん、真魚さん、上大迫祐希さん、若杉凩さんらが共演。原作者の大前さんにとっては著作の初の映像化作品となり、大前さんとは元々交流のあった『21世紀の女の子』『眠る虫』の新鋭監督である金子由里奈さんが自身の商業デビュー作としてメガホンをとった。

 

©映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

 

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、4月7日(金)より京都・烏丸の京都シネマや九条の京都みなみ会館で先行公開。また、4月21日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、4月22日(土)より神戸・元町の元町映画館、4月29日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。

「打たれ弱くていいじゃん。打たれ弱いの悪いことじゃないし、打つほうが悪いんじゃん!」
主人公の七森によるセリフが胸に刺さって共感するか、それともこの人は弱いな…と感じるか。本作は観た人によって見え方が大きく変わるはずだ。

 

主人公の七森は大学生、とてもやさしい人間である。周りはみんな恋愛の話をしているけれど、自分にはその感情がよくわからない。でも、誰かと付き合ったほうが良いのかなぁ?と密かに悩んでいる。なのに、ある人から告白されても「よくわからない」と断ってしまう。かと思えば、リスクの低そうな親しい人物に交際を持ちかけてみようとする。この優柔不断な様子を見ていて、「わかる!」と思えるか、「なにがしたいの?」と苛立ちを感じるか。正直に言えば、前半部分では、特に七森のコミュニケーションにフラストレーションを感じていた。だが、観終わった後、観客のそんな感情を揺り起こすところも本作の仕掛けだったように思える。そこでイラっとする類の人間が、七森のような心を持つ者を傷つけているのかもしれないのだろうか?とハっとさせられた。

 

補足しておくと、映画ではナレーションやテロップは使用されていないが、原作小説では七森のモノローグが多用されている。「どうしよう、これ正直に言ったほうがいいのかな、でも言ったら嫌な気持ちにさせるかもしれないし。。。」と心の中で悩みに悩んだ挙句、結局何も言えずじまいだ。そんな気遣いも、相手にはただもじもじと黙っているようにしか見えていない。こんな不器用な人、いる?そう、たくさん居るのだ。

 

本作は、映画化にあたって原作を忠実になぞっており、好感度の高い内容だ。そのうえで、映画として分かりやすくなるように時系列を再構成したり、削れる部分を省略してテンポよくまとめたりしつつ、終盤の重要なシーンにはたっぷりと時間を確保している。この全体を構成する金子由里奈監督の設計力に好感を抱いた。原作とは違い、「その画面」をファーストシーンを持ってくる脚色の上手さや、階段を駆け降りる長回しのショットをサラッと自然に撮るところ等、センスの良い方だ、という印象だ。

 

原作の見せ場だったラストシーンもそのままに映像化されている。原作者の大前粟生さんには、その意図があるのかどうかは分からないが、この締めくくりのくだりはタイトル回収するための大オチの場面であると理解し、大きなカタルシスがあった。本当に優しい人は…ということですよね、という話を観賞した方と語ってみたい。

fromNZ2.0@エヌゼット

 

ぬいぐるみと話す人が集う「ぬいサー」には、社会の休息所とも云える心地良さを感じた。牧歌的にも思えた場所と人物達であったが、皆等しく複雑な悩みを抱えている。本作は、寄り添う優しさもあれば、寄り添わない優しさもあることを教えてくれた。同時に、何もしなくても被害者になることがあれば、加害者になる恐怖も教えてくれる。生きていく上で欠かせない他人との関わり、肯定も否定も安易にできない世の中だからこそ、ぬいぐるみに喋りたい。だが、決して「ぬいサー」のメンバーは下を向いているわけではない。現状を考え、前を向いて生きる彼等が輝いて見える。悩みごとを相談する際の「相談相手をしんどくさせてしまうから、ぬいぐるみに喋りたい」という言葉が、鑑賞後も心の中に残っていた。相手の気持ちを何よりも思いやれる人の優しさが、結果的に孤独を生んでしまうなんて、不憫で仕方ない。神経質な世の中だからこそ、向き合って喋ることを諦めてはいけないのだろうか。本作の持つ”対話”というテーマの帰結するところが非常に興味深かった。

fromねむひら

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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