Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

訳が分からない方向に突き進み、1年後に全く違う作品を撮っているかもしれない…『渇いた鉢』 『宇賀那健一監督短編集:未知との交流』宇賀那健一監督らに聞く!

2023年4月2日

クリーチャーをめぐり三者三様の物語が紡ぎだされる『宇賀那健一監督短編集:未知との交流』と最愛の家族を奪われ、世間からは“被害者遺族”として好奇の目に晒される男性の行き場のない心情を描く『渇いた鉢』  が大阪・十三のシアターセブンで公開中。今回、宇賀那健一監督、詩歩さん、平井早紀さん、安部一希さんにインタビューを行った。

 

『宇賀那健一監督短編集:未知との交流』は、連作短編『異物 -完全版-』の一作として公開もされた「適応」、「モジャ」、「往訪」の3作品で構成。

「適応」…いつもと変わらない下らない日常にイライラしながらバイト先のバーで働くトモミ。一方、元彼女のミナにあるものを見せたいコウダイは、急いでバーへ向かっていた。石田桃香さん、吉村界人さん、田中真琴さんが出演。

「モジャ」…ある日、誰かの役に立たちたくてビルの屋上で「オレオレ詐欺」ならぬ「オレオレありがとう」の電話を繰り返していたセイヤの前に、突然隕石が落ちてくる。そして、その中からモジャモジャのエメラルドブルーの毛をまとった謎の生物が現れる。兵頭功海さん、小出薫さん、内木英二さん、関本巧文さんが出演。

「往訪」…バンドメンバーのハルカ、ナナ、タカノリは連絡のつかなくなったソウタのもとを訪ねるが、そこにいたソウタはどこか様子がおかしかった。詩歩さん、平井早紀さん、板橋春樹さん、遠藤隆太さんが出演。

 

元々、クリーチャーが登場する映画を撮りたかった宇賀那監督。とはいえ「売れたい」という思いを優先し、ひた隠しにしていた。だが、『魔法少年☆ワイルド・バージン』を手掛けていた頃から思いは徐々に漏れてきてしまう。『異物』については、外国の映画祭で反応が大きく「コロナ禍の中で、撮りたい作品は撮り切った方が良いな。好きなことをやりたい」という気持ちが強くなり、先に『渇いた鉢』で人間ドラマを突き詰めた後に、逆方向に向かい「往訪」を撮影することに。当初は、森に巨大でサイケデリックなキノコが現れて、病んで自殺を考えている子がそのキノコを食べてトリップするストーリーを検討したが「おもしろい話だが、主人公に共感して感情移入できなかった」と断念。そして、詩歩さんに相談しながら、やりたいことを突き詰めていく。詩歩さんも「ホラーとコメディの定番である、やんちゃな人達がどこかの家に行って何かが起こる、という形式にした方がやりやすい」と話し合い「何故だか遠藤隆太さんが登場した。遠藤君ならハマるなぁ」と発見。世界各国でホラー映画が制作されているが、宇賀那監督が映画を観て育っていた頃は、ジャパニーズホラーの勢いについて弱さを感じており「洋画ホラーが大好きだった。それらのオマージュを捧げた作品だけど、日本で撮っている時点で日本的要素が現れる」と説く。映画が誕生して100年以上が経過し「同じような物語は消化し尽くされた。観たことない作品を手掛けたいけど、既存のホラーへの愛を詰め込みたい」という相反する自身の感情があり「これらを詰め込んで、説明度外視で突っ走るジェットコースタームービーにしよう」と決断。詩歩さんも、映画で実現させたいことを箇条書きにして挙げていった。

 

雑誌「Cut」のインタビューより「物語より殺し方から先に考える」という北野武監督の言葉を引用し、宇賀那監督は「なるほど。今回、突飛な殺し方はしていないが、やりたいことをやっている。殴って起き上がることの繰り返しが長いシーンが好きで、普通なら短くするけど、しつこくやることを手掛けたい」と納得。「荒唐無稽なことを実現させたい」という意見の蓄積から「往訪」が生まれた。また、CG技術で様々なことが表現できるようになった現在だが「実際に活用しているが、CGのゴールは現実に近づけることであるが、現実には勝てない」と実感しており「稚拙な映像の中には温かみがある。アナログで出来ることを様々に実践したい。スクリーンの中だからこそ感じられるおもしろさをどれだけ突き詰められるか勝負したのが『未知との交流』」だと解説する。

 

各作品には、”可愛らしい”クリーチャーが登場していく。「『異物』では、アイツがずっと家にいるので、愛着が湧いてくる」と話し「映画を撮る時の絶対的な信念として、メインストリームに立てない人にカメラを向ける、と決めている」と明かす。「『黒い暴動♥』ではガングロギャルやアラサーで自己嫌悪を持っている人、『サラバ静寂』では禁止されている物事に魅了された人達、『魔法少年☆ワイルドバージン』では童貞で上手くいかない人達、『転がるビー玉』では、上手くいってそうに見えて悩みを抱えている人達。そういった対象が、最近はクリーチャーという比喩」と表現し「意図として伝わりやすい。『異物』で得た不条理という言葉、メインストリームに立てない人への愛が進化してクリーチャーへの愛になり、今回は強くなっている」と説明。「往訪」では、言葉で説明しない物事を何かで伝えようとしており「サイレント映画時代から重要なこと。字幕が不要でアクションだけでほぼ伝わるので、外国の映画祭でもウケる」と自信があった。次に、逆方向として、対話の可能性を探っていき「対話は、話すことではなく聞いてもらうことが重要。コロナ禍でコミュニケーションが断絶されたので、どのようにして埋めていくか。実は近しい人より全く知らない人の方が話せることがある」と認識し「宇宙人がやれば、人間の愛らしさや駄目なところが浮き彫りになる」と着眼し、パペットを用いて不自由さがありながらも「モジャ」が生まれた。

 

撮影は、「適応」が1日、「往訪」が3日、「モジャ」が1日、と全体で5日と短時間で行っており「ミニマムな体制で撮っています。基本的に絵コンテはない。現場で決めたい」と独自の手法だ。「往訪」はCGとの兼ね合いがあり、要所で絵コンテを使っているが「ほとんど書かない。なお、リハーサルは絶対にやらない」と拘っている。平井さんとしては「感覚的には、凄く楽しい。ナナの首が切られて以降、不安や悩みがなかった。3日間全てが楽しい。台本では端的に書かれている」と馴染んでいた。詩歩さんも「映画の中には感情を理解できる人がいないといけない。ハルカの気落ちを理解し、後半はテンションを挙げて演じていた」と振り返る。宇賀那監督は「ほぼ順撮り。取り返しがつかないので、1テイク」と研ぎ澄ましており、詩歩さんは「2番手の衣装も準備していましたが、緊張感がありながら、やるしかねぇ、と臨んでいました。演じている時は楽しんでいましたが、終了後は、ドッと疲れが出ていました。筋肉痛もありました」と苦笑い。宇賀那監督は「短編作品の連作は様々な意味で良い。予算的には一度に撮った方が良いが、時間経過の良さが良い。皆がフレッシュな気持ちで臨める。走り切って終えられる」と達成感がある。

 

映画『渇いた鉢』 は、家族を奪われた男の喪失の物語。理不尽な処遇や周囲の身勝手な好奇にさらされる不条理、そして大きな喪失感にさいなまれながらも生きる男の姿を描いた。3年前、理不尽な事件で愛する家族を奪われた松村大地は、幼い娘を手にかけた犯人や、いたずらに家族を責めたて妻を追い詰めたマスコミや野次馬を憎み、そして何より妻子を守れなかった自分に対するどうしようもない自責の念にかられながら生きていた。しかしは時が過ぎることで事件はいとも簡単に忘れられ、風化していく。深い孤独を抱えた大地は、街をさまようが…

主人公の松村大地役はこれが映画初主演の安部一希さん。共演に『岬の兄妹』『さがす』の松浦祐也さん、『シュシュシュの娘』の三溝浩二さんらが出演。

 

「愛を描く作品を作りたい」と考えていた宇賀那監督。「『サラバ静寂』では音楽への愛を描く方法論の一つとして、音楽がない世界を描くからこそ音楽への愛が浮き彫りになっている」と表し「今回は、喪失の物語にしている。脚本家の木村暉さんは様々な事件を参考しているが、僕は敢えて踏み込んでいない。喪失の物語としてこんなストーリーにしたい」と伝えた。安部さんは「ざっくりと3人で話しながら、形にしたのは監督」と述べ、宇賀那監督は「木村君は脚本家として素晴らしいから、様々なことが説明されている。僕はそれが嫌で全部カットしてもらった」と明かす。「意外と被害者は分からない。因果関係がないこともある。現実的な不条理を描いている」と捉えており「木村君が実際の事件を参考にして、様々なリアリティを取り入れてくれた」と汲んでいる。

 

安部さんとしては、木村さんが別作品で現実の被害者へのインタビューや取材をしたことを活かしてもらっていることを知っており一任していたが、自身への宛て書きになっていると気づいた時は抑えていった。役作りにあたり、まずは痩せることに拘り「ストーリーの大枠が決まった時点で、3年間は世捨て人状態であったことを体現しないといけない。外見から作っていた」と振り返る。事件のルポタージュを観るのが好きであり、改めて見返していき「ひもじい思いをすることも必要。空腹に耐える時間は自分にいらつく。それを運動の衝動に変えて痩せる」とストイックな役作りだった。

 

撮影は、コロナ禍で緊急事態宣言が発令される前の2020年3月。群馬県高崎市で撮っており「ロケーションエリアはまとまっていた。高崎フィルムコミッションが優秀で、限られた条件の中で、ベストなものを提案してくれた」と感謝している。安部さんとしても「徒歩圏内で撮っていたところもある。楽でしたね。宿泊地にもなっている」と重宝した。撮影は10日程度で行っており、宇賀那監督は「タイトですね。大変だったけど、時間がプレッシャーにはなっていなかった。健全な時間に終わっていた」と俳優やスタッフの気持ちを鑑みている。

 

キャスティングは、子役や松浦祐也さんを除けば、ほぼワークショップから選んでいった。あくまでリハーサルは行っておらず「僕は元々俳優だったので、相手の演技を想像し、自然と演じられる。これが良いことでもあり、飽きてしまうこともあるので、出来るだけ避けている。クリント・イーストウッドが、1回目の演技が良い、というのは十分に共感できる」と説き「1回目で良い演技が出来るように声をかけていたり現場を作ったりしている。信頼できるキャストを選んでいるなら、一発目が一番良い」と断言する。脚本至上主義に拘っており「台本から変えていいよ、と伝えるが、基本的には台詞通り」と徹底していそうだが「現場で思いついたことは変えさせる。方向性が違うことは嫌ってしまう。瑞々しさを求めるならアドリブも入れる。脚本の段階で見えた後に、現場で気づかされることがある」と作品に真摯に向き合っていた。平井さんは「宇賀那監督の台本は、テンポがあり映像が見えてきて、おもしろい。爆笑しながら読んでいます」と伝えると、宇賀那監督は「ト書きが嫌い。出来るだけト書きは書かない方が良い。僕が100%正しいとは限らないので、意外性に驚きたい。コンセンサスをとり、理由を突き詰めていくのが好きなんです」と明かす。

 

今後は、「往訪」「モジャ」の長編作品を予定しており「「往訪」が凄い作品になっている。「モジャ」は全体像が見えていないが、クリーチャーを作り出しているので止まれない」と期待を寄せてしまう。また、他にも数本の作品を準備しており「自分でも訳が分からない方向に突き進んでおり、1年後に全く違う作品を撮っているかもしれない。見えない感じがおもしろいですね」と未来を楽しみにしている。

 

渇いた鉢』 『宇賀那健一監督短編集:未知との交流』は、大阪・十三のシアターセブンで4月9日(日)まで公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts