一生に一度かもしれない映画を作る機会に自分の人生を入れたい…!『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』辻凪子さんと大森くみこさんに聞く!
コメディエンヌを目指す女性がピザの惑星を危機から救う顛末を描く『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』が関西の劇場でも公開中。今回、辻凪子さんと大森くみこさんにインタビューを行った。
映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』は、本作は世界一のコメディエンヌを夢見る主人公のジャムが、全銀河系の崩壊を阻止すべく“4つのピザ”を求めて奔走する活弁SFファンタジー。夢見る女の子ジャムは、毎日ピザ屋のアルバイトに明け暮れている。ある日、嵐に襲われた彼女は、気が付くとピザの惑星にいた。惑星の王様の話によれば、惑星のバランスを保っていた4ピースのピザが嵐で飛ばされ、銀河系に散らばってしまったという。そのせいでピザの惑星は面白みを失った、亡骸のような国になってしまっていた。ジャムはピザの惑星、ひいては銀河系の危機を救うため、出会った仲間たちとともに4ピースのピザを探し出す旅に出る。
本作は、俳優であり監督としても活躍する辻凪子さんと、関西を拠点とする活動写真弁士の大森くみこさんがタッグを組み、映画にまだ音がなく活動写真弁士による語り(活弁)と生演奏とともに上映されていた「無声映画」を令和の時代に復活させた長編作品。活弁付きの上映を前提に製作された(活弁を事前に吹き込んだ「活弁吹き込み版」での上映もあり)。辻凪子さんが主演・監督を務め、ジャムのお爺ちゃん役に間寛平さん、ピザ屋の店長とピザの惑星の王様を塚地武雅さんが1人2役で演じた。
プロデューサーを務めている岡本健志さんから「新作の活弁映画を作ってみませんか?監督は辻凪子さんを考えているんです」と依頼を受け、大森さんは「プラネットプラスワンに来ていた大学生だった辻凪子さんが!?彼女とだったらおもしろそう」とワクワクし引き受けることに。辻さんは、大森さんによる活弁を初めて観た時の感動が鮮明に残っており、オファーを受け「別の活動写真弁士さんだったら不安でお断りしていたかもしれない。大森さんは信頼しており実績があるので、是非!」と即答してしまう。
無声映画の新作として脚本執筆をするにあたり、辻さんは「活弁だからこそ出来る仕組みを作りたい」と大森さんと岡本さんと共に話し合い、活弁ならではのシーンを大森さんに書いて頂いた。最初に、辻さんがオリジナルストーリーを作り上げていく。そして、大森さんが字幕の入り方も含め活弁ありきの仕組みも盛り込んだ上に、サイレント映画へのオマージュやチャップリンの名言も入れ込んで活弁台本を作り込んだ。さらに、辻さんの撮影台本を書き上げていく。また、大森さんに渡していく…という行き来をしながら、作品を仕込んでいった。とはいえ、辻さんにとって、長編映画の単独監督作品は初めて。苦しんでいくことになったが、コロナ禍によって時間を作り出し、様々な作品を観て影響を受けながら書いていった。例えば、バスター・キートンの『キートンの探偵学入門』や『文化生活一週間』、『月世界旅行』や大林宣彦監督の『タンポポ』…とサイレント映画に限らない。「コロナ禍が無ければ、こんなに一生懸命に時間をかけながら書けてなかった。結果的に良かったのかな」と思い返しながら「学生の時は友達と映画を撮っていたので、様々な方と深くかかわって大所帯で大きな自主制作で長編映画を作る為のコミュニケーションも勉強させてもらった。限られた予算の中で京都で『オズの魔法使い』みたいなファンタジーな世界観を成立させるのは大変でした」と感慨深げだ。
活動写真弁士である大森さんは、普段から台本を書いており「同じ映画でも弁士によってどのシーンにどういう台詞を入れるのか全く違う」と説く。つまり、監督も出演者も全員が既にこの世に生きていない作品に対して書いている。だが、今回は皆が生きているため「自分勝手に書いているので、皆がどう思うかな、と顔が浮かんでしまう」とワクワクしていた。実際に活弁台本を書いて監督に見てもらうと、活弁ではやりにくい箇所を直して渡すとまた返されることとなり「普段はないことなので、大変でした。でも、共同で書きながら出来上がっていく感覚は新鮮でおもしろかった」と楽しんでいる。辻さんも「お客さんが入った時、回によって大森さんの活弁がアドリブで変わっていくのがおもしろい。お客さんの反応を見ながら変わっていく。活弁公演では完全に大森さんに託して観客として観る」と毎回楽しみにしていた。大森さんは、活弁がLIVEであることを意識しており「お客さんの反応を見ながら、台詞や間を変えながらやっている。普段でも変えることがありますが、お客さん参加型の作品は多くない。今回は、お客さんとのやり取りが仕込まれているので、弁士としてはやっていておもしろいし難しい」と柔軟な姿勢だ。
キャスティングにあたり、辻さんは充て書きをするため、以前から知っている方々にオファーした。その中でも、塚地武雅さんとは朝ドラ『おちょやん』で共演していることが大きい。「脚本を書いている時に出会った。昔からコントを見ていましたが、お笑いだけでなく演技力が素晴らしい」と絶賛しており「店長という怖い役でも愛嬌があり皆に愛されるのは塚地さんにしか出来ない」とオファーしている。なお、無声映画だからといってオーバーリアクションを御願いしておらず、自身で演じたものを見てもらい理解して頂いた。舞台経験をしている方が多い中で、眉村ちあきさんはシンガーソングライターとしてLIVEでのパフォーマンスを見込んでおり「全体的に、コメディが出来る役者を選びました。また、見た目がおもしろい人」と厳選している。なお、無声映画とはいえ、撮影では台詞を放っており、新作ならではのマジックも盛り沢山で「一生に一度かもしれない映画を作る機会に自分の人生を入れたい。今まで生きてきて考えてきたことや現実では叶えられない救いたいものを入れ込み目的を果たしていく。そして、好きなものを詰め込んだ」と話す。完成した作品は試写が行われ、『カツベン!』の周防正行監督にも観て頂いており「やりたい放題やりやがったな。ハチャメチャやなぁ。皆自由やなぁ」とまで言われ「自分は知的でもないし、好きなものを詰め込んだだけやのに伝わるんやぁ」と喜んだ。
劇場公開を迎え、既に、関西だけでなく、東京のポレポレ東中野でも2日間の活弁公演を行っており「両日満席で熱気があり、ドッカンドッカンとウケていた」と2人とも驚いている。大森さんも、お客さんの反応が大きいと活弁していて楽しく「場所とその日のお客さんによって笑いどころが違う。最初の5~10分程度で今日の空気感が分かる。偶に後半から乗っていく時もある」と空気感を掴んでいった。劇場には子供達も観にきており、辻さんは「自分が好きなものを書いただけなのに、子供達が喜んでくれる作品になった。ミニシアターで子供達が前のめりでキャハハハ笑ってる姿を日常で見ていなかったので、大森さんとの活弁公演で子供がとても笑って楽しんでいたのが嬉しかった」と感慨深く「初めて観る映画がコレという子が現れ出した。人生最初の一本になれたのが嬉しいですね」と感激している。無声映画として編集していたため「劇場では、どうなるのかな。大丈夫かな」と不安もあったが、お客さんが入りワッと盛り上がった時には「出来た!」という肌感覚があった。
今後も各地で活弁公演を予定しており、大森さんは「この映画は完成形がない」と考えており「弁士が変わったり伴走者が変わったりする可能性はいくらでもある。50年経っても100年経っても出来る。100年後の弁士が、その当時の世相に合わせた言葉でやっているかもしれない」と行く末を楽しみにしている。辻さんも「辞めたらあかんな」と最近は思っており「この上映をずっと続けていく」と計画中だ。これを受け、大森さんは「凪子さんがスクリーンの中では今と同じ年ですが、年を取っておばあさんになっても演じているかもしれない可能性もありますからね」とまで予想すると、辻さんは「皆でひょろひょろになりながらやりましょう。まずは、大阪万博と外国に行きたい」とやる気満々だ。
映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』は、関西では、京都・九条の京都みなみ会館や大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開中。また、12月17日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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