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一つの言葉には無限の可能性があり、イマジネーションを拡げ作品を作っていく…『うつろいの時をまとう』堀畑裕之さんと関口真希子と三宅流監督に聞く!

2023年4月20日

服飾ブランドmatohuのデザイナーに密着したドキュメンタリー『うつろいの時をまとう』が4月21日(金)より関西の劇場でも公開。今回、matohuのデザイナーである堀畑裕之さんと関口真希子と三宅流監督にインタビューを行った。

 

映画『うつろいの時をまとう』は、日本の美意識をコンセプトに独自のスタイルを発信する服飾ブランド「matohu(まとふ)」の創作を追ったドキュメンタリー。2005年にデザイナーの堀畑裕之さんと関口真希子さんが設立したmatohuは、2010年より「日本の眼」というタイトルのもと、「かさね」「ふきよせ」など日本古来の美意識を表す言葉をテーマに全17章のコレクションを発表してきた。2018年、matohuはシリーズ最後のテーマとなる「なごり」コレクションの制作に取り掛かる。堀畑さんと関口さんはアトリエで議論を繰り返しながら妥協することなくデザインを完成させ、やがてファッションショーの日を迎えた。身近な風景や物から得たインスピレーションを“ことば”に変えて服に昇華する彼らの創作の過程を丹念に捉え、日常の中に潜む美や豊かさを再発見していく。監督は『躍る旅人 能楽師・津村禮次郎の肖像』など伝統芸能がテーマのドキュメンタリーを手がけてきた三宅流さん。

 

元々は、ドキュメンタリーの国際共同製作を支援するための国際フォーラムである「TOKYO DOCS」への企画応募として検討していた三宅監督。『躍る旅人 能楽師・津村禮次郎の肖像』によって津村さんとの出会いがあり、言葉に関心を持ち、企画を立ち上げていた。まずは、3分間のトレーラーを制作し、プレゼンを行ったが「ヒューマン系作品に期待する質問が多く、違和感があった。アート系作品は逆風だった」と感じ取ると共に、世界的にはドキュメンタリー作品はTV向けの印象が強く実を結ばずに終わってしまう。そこで、matohuの1シーズンについて、カメラ1つで撮っていきながら、最終的に、文化庁の文化芸術振興費補助金を申請して予算が目途がついた。

 

デザイナーとして取材を受けることがあった堀畑さんと関口さん。だが、映画制作として現場にカメラが入ることは初めてであり、関口さんは「どんな感じになるんだろう」と感じ、堀畑さんは「映画制作の依頼を受け、狐につままれたような気分。映画になることなんて滅多にないこと。本当にこれが映画になるのか」と手探りだった。とはいえ「『情熱大陸』みたいにならなくて良かった」と安堵し「人に執着していない。今までにないファッションドキュメンタリー」だと実感している。三宅監督はmatohuのホームページを見た際に「緻密な言語空間がテーマ毎にあった。言葉を紐解き、言葉と風景、言葉によって見えるものが、想像力を掻き立てていく。深いことをやっているけど、難しくしていない。開かれた言葉で語られている」と好印象で「言語空間の中に拡がる広大な空間が見えた。人物ではなく、言葉に対する関心から始まった」と思い返す。堀畑さん自身は「人物については、一番最後にチラッと見える程度」と感じているが、三宅監督は「言葉に共感することで、全く人物に触れないわけではない。思考の流れから、次第にモノ作りの神髄に入っていく。普段の語りとモノ作りしながら漏れる言葉では、言葉のテクスチャが変化していた」と受けとめている。

 

撮影中のアトリエでは、図面を書いていたり、パターンを引いていたりすることに遭遇することが多く、三宅監督は「前段からどのように作り、どのようになっていくか、撮っている時は分からない。撮っていった点が線にもならないことがジレンマだった」と明かす。とはいえ「聞いてみないと分からないことはあったが、一挙手一投足に聞くわけにはいかない。ポイント毎に聞いていました」と慎重だった。

 

堀畑さんは、三宅監督が気配を消していても、撮られている、と感じており「映画の後半、僕達がモノ作りをしながら葛藤しているシーンは、最初の頃に撮っていたので、映画全体が言葉に焦点を当て直されている。三宅さんの中で言葉が再構成された」と振り返り「もう一度、1つ1つテーマ毎にインタビューし直した。そこが良かったんじゃないかな」と好意的だ。モノ作りをしている時は1つ1つことを話さない。終わってから振り返るように、根掘り葉掘りインタビューしてもらい「三宅さんが最初に出会った言語空間を再構築し直して映画になっていった」と受けとめていた。三宅監督としては「分からないことを聞いたり新しい情報を知ったりするためにインタビューしているわけではない。既に、言語として完成されている世界。書かれた文字ではなく、如何に肉体を与えていくか、というプロセスだった」と説く。堀畑さんは「さらにピタッと合う景色を重ねている」と捉えており「観た方は、言葉が視覚的に言語化、身体化される感覚があったんじゃないか。僕達も改めて拝見して、話していることと同じイメージが映画の中で生まれていた。三宅さんの考えてこられた映画に対する構成原理や話法がありました」と感心。三宅監督は「一つの言葉は無限の可能性を持っている。そのもの自体には成れない。軸にしてイマジネーションを拡げて、映像として作っていくことが私の取り組みたいこと」だと述べ「言葉から映像の空間を作り上げていく。カメラマンの加藤孝信さんが参加することで、作品の重みとフォトジェニックな美しさが共存できる。誰でも撮れる画ではない」と謙遜する。とはいえ、堀畑さんは「脳内のイマージュがそのまま映像になっている。僕達にとっても、このイマージュが伝わる。素直に入ってくる」と実感。なお、三宅監督は撮影を進めていく中で「想定している言語空間がある程度見えてくる。独立した点だったものから、途中から線が見えてきた」と感じ、撮影の終え時が見えた。

 

編集にあたり、三宅監督は「現場で感じていた時間感覚で編集すると長時間の作品になり冗長になってしまう」と考えており「相当詰めないと時間が流れていかないので、試行錯誤していた。コロナ禍による影響があり、撮影や編集含め全体的な時間が延びたこともあり、試行錯誤の時間が増えた」と想定外なこともあり、1年間程度を編集に費やしていく。「要素の中から一つ一つを入れ子状態にしていき、全体的にポリフォニックな雰囲気になればいいのかな」と途中からポイントが見え、完成に向かっていった。

 

出来上がった作品を観た堀畑さんは「僕達は服を作っているので、その中で伝えきれない部分やこぼれ落ちてしまう部分、敢えて伝えていないことまで含め、映画にして頂いた。客観的に僕達のブランドを見る機会になった」と好意的で「僕達だけでなく、matohuのことを知っている人も、知らない方も、熱烈なファンの方も含め、こういうことだったのか、と改めて振り返る、発見する、もう一度出会う映画になっている」とお薦めする。関口さんは「自分達のことや裏側を見せたい気持ちはもともと無かった」と打ち明けながらも「『日本の眼』というテーマにについて私達が取り組んできたことに対して、テーマに隠されていて発見できた宝物を同じような感動を以って共有してもらえる機会があったら素晴らしい。映画という作品でテーマに対する感動を与えてくれる映像があるのが良かった。映像が美しいことで腑に落ちるように理解してもらえる」と気に入っていた。編集の段階から見せてもらっており「モニターと映画館で環境が変わることで違いが分かる。皆さんが感情を以って動かされるんじゃないかな」と興味津々だ。なお、試写会などでは、泣いているお客さんを見かけたこともあり、堀畑さんは「泣く映画ではないけれど、感極まってしまう。魂が共振している感覚がある。感情が動かされているのではなく、感情を超えたところで涙が泉のように溢れてくる。他の映画での涙とは違う。」と受けとめ、関口さんは「悲しみや感動とは違う。心が動かされた」と読み取っている。三宅監督は「表層的ではなく、深み。目の前ではなく、違う次元。ドラマ性ではなく、美に触れることで、琴線に触れられた。映画を始めた時も、ドラマチックな作品は好まず、そうじゃないものに触れた時、感動して涙する時、意外と感情は冷めている。感情は動いてない。そうった感覚の作品を作れたらいいな」と願っている。

 

映画『うつろいの時をまとう』は、関西では、4月21日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、4月22日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、5月13日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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