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夏目さんは現場にしっかりと足を運び、寛容に人を受け入れていく…『チョコレートな人々』鈴木祐司監督と阿武野勝彦プロデューサーに聞く!

2023年1月1日

全国に拠点と店舗を持ち、百貨店の催事でも常連になった愛知県豊橋市に店を構えるチョコレート専門店“久遠チョコレート”が、理想を追い求めた山あり谷ありの19年を描く『チョコレートな人々』が1月2日(月)より全国の劇場で公開。今回、鈴木祐司監督と阿武野勝彦プロデューサーにインタビューを行った。

 

映画『チョコレートな人々』は、様々な人が働くチョコレートブランド「久遠チョコレート」を取材したドキュメンタリー。「人生フルーツ」などの東海テレビによる劇場公開ドキュメンタリーの第14弾で、2021年日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリを受賞した番組に追加撮影と再編集を施して映画版として完成させた。愛知県豊橋市に本店を構え、こだわりのフレーバーと彩り豊かなデザインで人気を集める「久遠チョコレート」。今では全国に52の拠点を持つ同ブランドでは、心や体に障がいがある人、シングルペアレントや不登校経験者、セクシュアルマイノリティなど多様な人たちが、働きやすくしっかり稼げる職場づくりを続けてきた。その始まりは2003年、当時26歳の夏目浩次さん(現・久遠チョコレート代表)が、障がいのある3人のスタッフと始めた小さなパン屋だった。そこから、理想を追い求めるチョコレートブランドの波乱万丈な19年間を描き出す。宮本信子さんがナレーションを担当した。

 

2002年の後半、TVニュースの記者として愛知県豊橋市の花園商店街に取材に伺った鈴木さん。車椅子の利用者の方が車椅子専門店を起ち上げる、という報せを聞き「痒い所に手が届く良いお店が出来るんじゃないか」と楽しみにして向かうことに。その隣に空き店舗があり、パン屋の開業を準備していたのが夏目さんだった。取材の依頼を受け、話を聞いてみると「障碍の有無に拘わらず、皆で作るパン屋を開く。障碍があるからといって低賃金はおかしい。皆は『仕方がない』というが、仕方がない、とは思わない。やり方を上手く作れば、もっと稼げる職場が作られるはずだ。それを示したい」と志しており、興味を持ち始めていく。だが、当時のTV局は、障碍者を映すことを嫌がっていたのが現実だった。しかし、夏目さんが手掛けるパン屋は「表に立って自分達がモデルとなって発信していこう」というスタンスであり、働いている方の親御さんも新しいことをやろうとしていることを理解しており、快く受けて頂いた。

 

プロデューサーの阿武野さんは、花園商店街の再生を目指す人達を捉えた群像劇の中の1人として夏目さんを捉えており、当初は特に意識していなかった。だが、完成した映像を観た時、七転八倒の出来事含め大変なシーンが沢山撮れていることを知り「取材OKしてくれるんだ」と衝撃を受けつつも「それでも、やはり夏目さんの意思が伝わってきた。鈴木さんは、夏目さんの伴走者、というスタイルで撮り続けていたんだ」と感心。夏目さんについて「人間性を赤裸々に見せてくれる。胸の内を話し。過去とも向き合ってくれた。長い目を以て自身を見られる。格好悪い自分も含め、取材対象としてしっかりと立っていてくれる。覚悟のある人」と信頼している。

 

まずは「TV版ドキュメンタリーを作ろう」と放送日を決め、第一稿版として編集した段階で、映画化を提案した阿武野プロデューサー。「これは全国の人に観てもらいたい、の一点に尽きる。この時代を象徴している。この世の中にある、突破していかなければならないもの、を明示している人」とスタッフに伝えた。鈴木監督は「こういう人がいることを知ってほしいから取材してきた。それが映画となって全国に放送される、ということは凄く嬉しい」と、やる気に満ちていく。TV版の放送後、多くの反響があり、良い反応が満載だった。夏目さんのところにも、600もの手紙やメールなどの反応を受けている。とはいえ「軽度の障碍者しか雇用していない」という批判もあった。すると、夏目さんは「そういった図式を壊そう」としていたところで、重度な障碍を持った方も働ける「QUON chocolate パウダーラボ」をオープン。阿武野さんは「世の中が決めつけようとしていることや型にはめられようとしていることに対して、冗談じゃない、ともがいている。新しい時代を切り開ていく力のある人が夏目さんなんだな」と見抜き「丹念に取材を重ね、パウダーラボの中で起こっていることを見ていくと、今の時代に私達が必要な考え方が沢山ある」と判断した。

 

取材にあたり、鈴木監督は十分に気を遣っている。だからこそ、夏目さんは、あまり文句を言うこともなく「ここも撮るんだ」と驚かれながらも、駄目だとは言われていない。「QUON chocolate パウダーラボ」まで伺っており「重度の障碍者は自身のプライベートをあまり気にしない。話しかけてきて、アピールしてくる」といったこともあったが「軽度の障碍者の方が気にしているので、気を遣っている。写りたくない方もいる」と十分に配慮している。「夏目さんが人生をもがいている姿を捉えたい」という意向もあり「もがいている姿を観た方が何かを感じ取ってもらえたらいいな」と期待も含めて撮影していった。なお、夏目さんは発信したい意図を以て、ガラス張りのラボにしており「皆さんに見えるようにしているので、隠そうとしていることがない。スタッフやお母さん等も理解している」と透明性をアピールしており、阿武野さんは「やましいことはない。オープンであることはとても大事。覚悟がありますよね」と真意を掴んでいく。2021年には、TV版ドキュメンタリーが日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリを受賞した際に受け取ったトロフィーを”大感謝状”と共に贈呈しに伺った機会があり「ラボで働いている方が皆で小旗を持って迎えて下さった。父兄の皆さんも集まってくれた。まるで、旧知の仲のように皆が迎えてくれて、受賞や放送内容、贈呈や映画化に喜んでくれた。こんなに歓迎されるドキュメンタリーはあまりないかもしれない」と驚かされるばかりだ。

 

編集にあたり、鈴木監督は編集の奥田繁さんに制作の意図を説明しようとしていたが、その前に或る程度繋いでくれて見せてくれた。まさに「仕事が早く、僕以上に映像が持つ意味を理解してくれる先輩」と尊敬しており、驚くばかり。ナレーションは宮本信子さんが担当している。2004年、「あきないの人々~夏・花園商店街~」のナレーションを担当して頂いており「夏目さんのことも覚えていらっしゃった。夏目さんの成長ぶりも見て頂きたくて、阿武野さんからオファー頂いた」と説く。阿武野さんは「私達のドキュメンタリーでは、一番にナレーションを担当して頂いているので、是非」と依頼しており「大変に忙しい中だったんですが、応じて頂いた。思い入れがありましたが、距離感が適切だった。説明はなるべくしていない。ほんの少しの呪文のように唱えるスタイル」と絶賛した。

 

本作が完成し、鈴木監督は「阿武野さんがチャンスを作ってくれた。映画化について聞き、やれることをやるしかない」と責任を感じたことを改めて振り返る。阿武野さんは「障碍の有無は関係ない」とふまえ「今全ての日本人がどういう風に次の時代を迎えようとしているのか、立ち止まって壁の前にいるような気がする」と現実を鑑みていた。「沢山の会社で若者が心の病を抱え辞めていたり、中高年の人達が働き方の行く末を悩んでいたりする。働き方や生き方に悩んでいるのに、この国の社会は依然として情報やお金に携わる世界の方が優先で、モノづくりの世界が大事にされてこなかった。そこで壁にぶち当たっている気がする。どうやって働いていったらいいのか、働かせる側も考えないといけない」と述べ「夏目さんのように現場にしっかりと足を運んでスタッフの状態を観察して適切に対応していくことで寛容に人を受け入れていく、という会社の組織の在り方を作っている。企業の皆さんやっていますか?この時代をどうやって切り開いていくか」と問い質す。「多くの方に観てもらって、これからの世の中について考えていければ」と願っており「背骨の通った映画になっている。多様なものの見方をしてくれて、沢山の人に観てもらえるかもしれない」と期待している。

 

映画『チョコレートな人々』は、1月2日(月)より全国の劇場で公開。関西では、1月2日(月)より大阪・十三の第七藝術劇場、1月6日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、1月28日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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