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モトーラさんは本物の俳優です…!『風の電話』諏訪敦彦監督に聞く!

2020年1月15日

岩手県大槌町に設置され“天国に繋がる電話“として知られるようになった“風の電話“を題材に描く人間ドラマ『風の電話』が1月24日(金)より公開。今回、諏訪敦彦監督にインタビューを行った。

 

映画『風の電話』は、震災で家族を失った少女の再生の旅を描いた人間ドラマ。今は亡き大切な人と思いを繋ぐ電話として、岩手県大槌町に実在する「風の電話」をモチーフに映画化した。8年前の東日本大震災で家族を失い、広島の叔母のもとで暮らす17歳の少女ハル。ある日、叔母が突然倒れ、自分の周りの人が誰もいなくなってしまう不安にかられた彼女は、震災以来一度も帰っていなかった故郷・大槌町へ向かう。豪雨被害にあった広島で年老いた母と暮らす公平や、かつての福島の景色に思いを馳せる今田ら様々な人たちとの交流を通し、ハルは次第に光を取り戻していく。道中で出会った福島の元原発作業員・森尾とともに旅を続けるハルは、「もう一度、話したい」という強い思いに導かれ、故郷にある「風の電話」にたどり着く。『ライオンは今夜死ぬ』の諏訪敦彦さんが監督を務め、主人公ハルを『少女邂逅』のモトーラ世理奈さん、森尾を西島秀俊さんが演じる。

 

当初、本作は、一人の少女が熊本地震で被災して父親を亡くした後、風の電話を知り旅に出る、という原案があった。諏訪監督が参画し「熊本地震の2年後には西日本豪雨があった。次々と被災地が生まれていく日本で今のタイミングなら、西日本を舞台にしよう」と提案。久々の日本国内での映画撮影であることを意識し、今ある日本の風景を撮りたかった監督は「震災から8年、西日本豪雨からは1年未満だったが、復興はまだまだ。8年前にあった大槌町は失われている」と認識する。現在は見えないものが多くあり「多くのものが失われ、異様な風景がある。ただ様々な時間の層があり、カメラには映らなくとも映画で表現できる」と実感。ハルが旅していく過程を考え「見えない8年があることを映画で表現できるか」と意識していった。

 

主人公のハルは、本作では十分に傷ついた存在。また、旅の中で出会う人達もどこか傷ついている。諏訪監督は、ハルが生きる力を得られるように、作品自体が寄り添っていくようにした。今回、日本各地をロケハンしながら「被災地だけが傷だらけではない。日本はずっと以前から崩壊していっている。傷ついた国の中で人々は毎日生きているから、それを称えたい」と考えるようになり「食べることが生きることへのメッセージとなる」と食事シーンも大切にしている。

 

ハルを演じたモトーラ世里奈さんについて、諏訪監督は「彼女は本物の俳優ですね」と絶賛。西田敏行さん、三浦友和さん、西島秀俊さんら大先輩と共演しながら、彼女は緊張しておらず「私が皆さんと話した記憶はない。ハルが話した」と飄々と語っている。西田さんは「あの歳で受けの芝居が出来るのは凄い」と述べ、西島さんは「彼女の演技には嘘がない」と驚いていた。三浦さんも「久々に映画女優を観た」と話し、皆が絶賛している。モトーラさん本人は特に意識しておらず、監督は「彼女は、役作りをしている雰囲気はない」と言わざるを得ない。とはいえ、彼女にとって家族が失われる物語は最も苦手な題材であり、最初は辛くて台本が読めなかった。難しい役だが「ハルも昔は普通の女の子だったはず」だと気づき、ハルに近づいていった。

 

モトーラさんの演技力について、諏訪監督は「事前に演技を組み立てるのではなく、その場にいる相手を感じて自分を表現できる。周囲の環境や人を大事にして演技を作っている」と捉え、即興演技を求める本作には合っている、と直感。作中には激しい感情表現があり「最初のシーンでは彼女も悩んで直ぐには出来ず、作品全体を考え何を表現すべきか悩んでいた」と打ち明けるが「今ある感情を正直に出してもらった。結果的に素晴らしい演技が出来上がった」と大いに満足していた。

 

なお、本作において最も重要なラストシーンも台本はなく、諏訪監督は、モトーラさんに全てを委ねている。撮影最終日だったが、良く晴れた天気にも関わらず、突風で雲が流れ光が次々と変化していく希少な環境となり、神がかった光景がひろがった。モトーラさんは本番で初めて電話ボックスに入ったが、監督は「本番では、自身の旅を振り返りながら、自然に言葉が紡ぎ出され、新しい感情が生まれた」と鑑み「今回のシーンがOKかNGか、モトーラが決めるべきだ」と思い、尋ねていく。彼女は「出来たと思います」と云い、本作の撮影を終えている。まさにハルと共に旅したような軌跡が本作には刻まれていた。

 

映画『風の電話』は、1月24日(金)より全国の劇場で公開。

フィクションともドキュメンタリーとも異なった独特の風合いがある作品である。ハルと一緒に旅をさせてもらった。出会った皆が心の傷を抱えながらも、懸命に生きている。また、出会った人達との食事を共にするシーンに多く出くわす。皆が虚ろな目をしたハルに向かってこう言う。「早く食べな」と。たまらなく苦しくても、死にたくなっても、お腹は空く。体が生きろと言っているんだ。

 

わずかに揺れる彼女の表情の変化を見るたびに何度も感情が染み込んできて、胸が熱くなった。最後の10分間は瞬きすら惜しくて、涙を垂れ流したまま彼女を見つめてしまう。ハル、どうか生きて。

fromナカオカ

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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