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自分の気持ちに正直になりながら生きられるようになってきた…『his』宮沢氷魚さんと藤原季節さんを迎え舞台挨拶付先行上映会開催!

2020年1月17日

同性愛者であることを隠して生きる青年が恋い焦がれる男性と、その子供と生活する中で抱く葛藤を描く『his』が1月24日(金)より公開。1月17日(金)には、大阪・難波のなんばパークスシネマに宮沢氷魚さんと藤原季節さんを迎え、舞台挨拶付先行上映会が開催された。

 

映画『his』は、男性同士のカップルが親権獲得や周囲の人々への理解を求めて奮闘する姿を描いたドラマ。春休みに江ノ島を訪れた男子高校生・井川迅は、湘南の高校に通う日比野渚と出会う。2人の間に芽生えた友情はやがて愛へと発展するが、迅の大学卒業を控えた頃、渚は「一緒にいても将来が見えない」と別れを告げる。出会いから13年後、ゲイであることを周囲に知られるのを恐れ、田舎で孤独な生活を送る迅の前に、6歳の娘・空を連れた渚が現れる。居候させてほしいという渚に戸惑う迅だったが、いつしか空も懐き、周囲の人々も3人を受け入れていく。そんな中、渚は妻と娘の親権を争っていることを明かし、ずっと抑えてきた迅への思いを告白する。
迅を『映画 賭ケグルイ』の宮沢氷魚さん、渚を『沈黙 サイレンス』の藤原季節さんが演じ、『愛がなんだ』の今泉力哉さんが監督を務めた。

 

上映前に宮沢氷魚さんと藤原季節さんが登壇。今回の先行上映会は、発表されると直ぐにチケット即完売となり、2人もご機嫌。藤原さんは「まいど!」と景気よく挨拶を行った。

 

岐阜県白川町にあるロッジで2人は共同生活を送りながら撮影された本作。宮沢さんは「10日間一緒に住んだんですよ。最初は凄い嫌で。朝から晩まで一緒にいるのに、寝る時まで一緒かぁ。マジですか!?」と告白。藤原さんも「ちょっとでもいいから一人の時間とかあるといいなぁ」と内心では期待していた。だが、撮影が始まると「合宿のような濃い時間を過ごしましたね」と満足している。毎日の撮影後はお互いクタクタに疲れていたが「あと30分話したら寝よう、と言っていたら、1時間になっていた」と藤原さんは懐かしむ。撮影期間中には、アメリカ・メジャーリーグでイチロー選手が引退発表した週だとったこともあり、野球が大好きな宮沢さんは「イチロー選手をテレビで見ながら感慨深くなっていた。その時、季節君はお風呂に入っていて…大事な記者会見の時間にお風呂入るなんてありえない」と、藤原さんを呼び出したこともあった。だが、宮沢さん自身が無意識にテレビに向かって話していたことを明かすと、藤原さんは「素朴な一面があるんだなぁ、この人は」と微笑ましく眺めていたことを思い出す。

 

本編では、迅と渚は何年も会っておらず、冒頭の2人は、ぎこちなく距離感を感じている。宮沢さんと藤原さんにとっても同じような距離感があり、今作では順撮りしながら「僕達が仲良くなっていくのが役にも上手く反映できた」と宮沢さんは納得。四六時中を一緒に過ごしたことで、藤原さんは「いない時間も感じることが出来た。お互いに存在の大きさは居なくなって初めて知るんだな」と実感。白川町での撮影が終わった後、東京での撮影が待っていたが「迅がいない中で撮影する時間が多く、心が一番重かったですね」と吐露した。

 

迅について、宮沢さんは「結構似ている」と感じており「僕は自分の本心や悩み事を自分で解決したい人間なんです。人に相談したくても出来ないので、自分で苦しんで自分を追い詰めてしんどくなる時がある」と自らの性格を述べ、同じような瞬間があった迅に共感を表す。迅は毎日を生きづらい状態で過ごしていることに対しても「僕がクォーターということもあり、いじめられていた。通っていたインター(ナショナルスクール)だと様々な子がいて、オアシスみたいな環境だった。だが、一歩出ると凄く辛い現実がある。日本にいると僕は外国人扱いされたこともあり、生まれたアメリカに戻ればホームだと思っていると、ジャパニーズだと揶揄され、自分の居場所はどこにあるんだろ?」と幼い頃に悩んでいた時があったことを思い出し「迅と共通している。役作りする上でも思い出しながら、生きづらさって何だろ?」と考えながら迅を想っていた。宮沢さんの姿を見ながら、藤原さんは「最近、氷魚に会う度に、なんてピュア、ストレートで裏表がないんだろ」と感動。だが、同時に羨ましさも感じており「自分は物事をこねくり回して考えてしまう。羨ましいと思ってしまう気持ちが渚にもあったんじゃないか。渚は、一見すると行動が無茶苦茶で発言が軽い時があるが、裏側にある臆病さや弱さが似ているな」と共感していく。

 

通常の映画撮影では、役者も監督と共にモニターを見ながら演技をチェックするが、今作では2人とも演技に集中してモニターを一切見ていなかった。完成した作品を昨年の夏に初めて観て、宮沢さんは「本当に感動した。こんなに美しい世界観のある作品が生まれたんだ」と素直に感じると共に「早く皆さんに観て頂きたい」と自信を持つ。藤原さんも「エンディングロールが流れた時に感動が込み上げてきましたね」と話す。主題歌の「マリアロード」を聞くと、胸が物凄く痛くなり「『his』に取り組んでいた頃を思い出していた。それは豊かなこと。誰かを好きになることは凄く苦しくて、好きにならなきゃ良かったと思うぐらい悲しかったり怒ったりと様々な喜怒哀楽がある。でも人生を豊かにしてくれる」と語った。そして「初めて観終わった時は、隣で観ていた氷魚君と目が合い、しっかり握手しました」と振り返る。

 

宮沢さんは、藤原さんについて「とにかく熱い男。真剣に物事に向き合う男」だと感じており「台本がボロボロになるほど読み込みんで書き込んでおり、作品に向き合っている人は素敵だな。同じ役者としてこうありたい」と尊敬の念を表した。藤原さんは「僕はメモ魔。なんでもメモしちゃう。あの時に何を書いていたのか読み返したいですね。渚はこんな詩が好きだろうな、と思って書いていた」と振り返る。役名についても「渚の娘が空、なぜ渚は娘に空と名付けたのか考え、”太陽と海がつながった”というアルチュール・ランボーの詩が好きだったのかな」と思いながら「全部メモしていくと台本がぐちゃぐちゃになっていく」と述べていく。また、宮沢さんについて「一言では難しい。『his』では、内側から発光していく様子が凄く好きなんですよ」と伝えた。

 

最後に、宮沢さんは、本作について「本当に楽しめる映画です。愛に溢れていて、かつ、答えのない作品」だと述べ「皆それぞれの感じ方や感がることが違うことがある種の正解だと思っています。様々な意見があって良い。思いや疑問を持って考えるきっかけになればいいなと思う作品です」と伝えていく。藤原さんは、頭が真っ白になりながらも「僕はこの映画を経て、自分を変えることが出来た。自分の気持ちに正直になりながら、少しずつ生きられるようになってきています。これからは、もっと自分の近くや傍にいる人を大切に出来るような人間になりたいな」と表明し「映画の登場人物のことを好きになったり愛して頂けると凄く嬉しい。愛を与えてくれたら。今日は来てくれておおきに~!」と感謝を伝え、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『his』は、1月24日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、難波のなんばパークスシネマをはじめ、全国の劇場で公開。

LGBTQを題材にした映画が多い昨今、本作は他作品とは違い、マイノリティVS.マジョリティの対立構図も物語の必要最低限に抑え、優しい時間を終始画面から溢れさせていた。一番印象に残るのが「環境」である。マイノリティとマジョリティの構図の煩わしさも、主人公達が身を置く田舎の人達からの優しさがあるからこそ、観ている我々にとっても、人々の温もりを再度実感させてくれた。勿論、優しさに触れるのは我々観客だけではなく、主人公の迅も。

 

性的マイノリティに対するマジョリティ側の決めつけが問題視されるように、マイノリティ側がマジョリティを一括りにして決めつけを行なってしまう状態に迅の心情は陥る。本作は、敢えてLGBTQに関する要素を取り入れ、観客の考える「一般的」とは何なのかを作品全体を通して問いかけていく。終盤のシーンでは頻繁に「一般的」という言葉が使用され、問いかけと物語がシンクロする。結末を迎える時、人類の共存への希望が感情の波として込み上げてくるほどに素晴らしかった。

fromねむひら

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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