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誰しもが、正義を振りかざす人達を想像しなければならない…『誰かの花』奥田裕介監督に聞く!

2022年4月11日

徘徊する父と介護する母の住む団地で、植木鉢の落下による事故が発生し、身内に疑念を抱いてしまう主人公を描く『誰かの花』が関西の劇場でも4月15日(金)から公開。今回、奥田裕介監督にインタビューを行った。

 

映画『誰かの花』は、団地のベランダから落ちた植木鉢を巡る偽りと真実の数々を描いた人間ドラマ。鉄工所で働く孝秋は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父の忠義と、そんな父に振り回される母のマチが気がかりで、実家の団地を訪れる。しかし忠義は数年前に他界した孝秋の兄との区別がつかない様子で、孝秋を見てもぼんやりとうなずくだけだった。ある日、強風の中で団地のベランダから落下した植木鉢が住民に直撃し、救急車やパトカーが出動する騒ぎが起こる。父の安否を心配する孝秋だったが、忠義は何事もなかったかのように自宅にいた。ベランダの窓が開いたままで、忠義の手袋に土が付着しているのを見つけた孝秋は、父への疑いを募らせていく。
『ケンとカズ』のカトウシンスケさんが主演を務め、吉行和子さん、高橋長英さんが共演。横浜のミニシアターであるシネマ・ジャック&ベティの30周年に向けて企画・製作された作品であり、横浜のとある団地を舞台に、本作が長編2作目となる横浜出身の奥田裕介監督がメガホンをとった。

 

自主映画として短編作品を数本制作後、初長編として『世界を変えなかった不確かな罪』を撮った奥田監督。「短編を撮っていた時にワクワクしていた俳優部へのアプローチが長編ではできなかった」と反省点を感じていた。具体的には「俳優部にお芝居がブレることを敢えて仕掛け、現場で脚本を意図的に崩すということでした」と打ち明け「前作は、”このシーンはこういうシーンだ”という輪郭が見えすぎていた」と実感。今作では、俳優部と顔合わせの時から、前作での反省点を伝え「その上で、現場でいきなり脚本と違うことをやってもらうことがあるということを理解してもらいました」と話す。今回は、9歳から80代まで幅広い方が出演しており「役や芝居の作り込みもバラバラだし、脚本を崩すことの抵抗感がある人もいる、と思ったためしっかりと事前に伝えておきました」準備に余念がない。

 

故に功を奏し、相太を演じた子役の太田琉星さんの存在感が、本作を他作品と一線を画す作品へと押し上げている。奥田監督は、太田さんについて「感性、対応力、視野の広さが素晴らしい」と絶賛。相太役のオーディションについては、台本などは使わず、感性に触れる内容に注目して選んでおり「”好き”や”嫌い”という感情を言葉を使って表現する。次に言葉を使わないで表現するというのを行いました」と説く。「親も事務所も頼れない状況の中で、みんなが”だぁいすき”や”大っ嫌い!”と表現していったのですが、彼だけは”好き”という感情に対し”…別に好きじゃないし”という表現でした」と振り返り「表情・仕草・言い方、どれをとっても彼なりの”好き”が詰まっていたし、お題を出してからものの数十秒でそこにたどり着いていることが素晴らしかった」と絶賛せざるを得ない。撮影においては、”子役っぽい台詞の言い方”をしてしまう時もあったが「現場での対応力や修正力も素晴らしかった」と称え「大ベテランの吉行和子さんや高橋長英さんに緊張しつつも、カメラが回ると堂々とお芝居をするのも見ていて頼もしかった」と信頼を寄せている。なお、トークイベントに来ていただいた有名な映画監督達からは「あの太田君はどうやって見つけたの?」「次回作に出てほしい」と注目の的だ。

 

また、主人公の孝秋が、交通死亡事故被害者遺族の会である「あすなろ会」に参加するシーンにも注目したい。実は、各シーンには台本がなく、撮影の三週間前に、出演者を集め、丸一日かけてワークショップを行った。まずは、奥田監督が経験したこと、交通事故で家族を亡くした方から聞いた生の声、読んだ本の内容などを参加者に話す。最後に、”いつ”・”誰を”亡くしたか?という2つ事項を設定し、台詞の有無や内容は問わず、カメラの前で約5分間だけ話すワンテイクだけのNGを出さない撮影を実施していく。「役者ではなく当事者として感情が高まり5分経たずに詰まってしまう人もいれば、10分話す人もいました」と多種多様だったが「私が想像をするよりもはるかに人物の背景を感じられる豊かなシーンとなりました」と手応えがあった。

 

エレベーターを使った演出も画期的だ。団地のエレベーターは、他人でもどこか接点のある隣人同士という団地が生み出す特有の空間である。奥田監督は「団地で暮らしている者同士という曖昧な接点がある中でエレベーター内で一緒になるというのは面白い時間だ」と受けとめており、エレベーターだけでなく「喫煙所やトイレなど、”話してもいいし、話さなくてもいい”というところでこそ生まれる会話が好きだ」と気に入っていた。また「空間は変わらないのに、人が入れ替わり、空気が変わるという状況が主人公を効果的に追い詰めたり、”目的地に着くまで逃げられない空間”や”行ったり来たりする動き”というのが主人公の状況や葛藤とリンクする」と気づき、エレベーターを活かしている。

 

本作は、簡単には割りきれない善悪を描いた作品だ。事故の被害加害に関して第三者による正義の振りかざしについて、奥田監督は「一番危険なのは、”正義を振りかざす人と自分”を線引きしてしまうこと」だと考えており、他者への想像を大事にしている。そして「私も含め誰しもが、正義を振りかざす人達を想像しなきゃいけないし、なによりも自分達が正義を振りかざしてないのか?自分が相手の家族ならどう思うのか?ということを振り返って想像しなければならない」と真摯に語った。

 

奥田監督自身は、本作について「”わからない”ということに不安を持っている人達に届いてほしい」と願っている。「日々生活をしていて、人と接して、ニュースを見て、感じる違和感や感情があると思います。そういった感情が不安だからネットで検索してみたり、SNSで似たようなことを声高らかに言っている人を探したりします。そこには答え”のようなもの”があり、白黒つけられた気になって安心したりする気持ちが僕にはよくわかります」と理解を示したうえで「でも”グレー”という場所を許容することは大事だと思います。そこに向かっていった映画なので、観た人の名前のない言葉にできない感情に置き場所ができたら嬉しいです」と思いを寄せてもらった。

interview conducted byねむひら

 

映画『誰かの花』は、関西では、4月15日(金)より京都・九条の京都みなみ会館、4月16日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォと神戸・元町の元町映画館で公開。4月16日(土)には各劇場にカトウシンスケさんと奥田裕介監督を迎え舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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