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父と母が自分達の命を削ってでも作品を生み出してくれた…『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』信友直子監督に聞く!

2022年3月31日

認知症の母と、耳の遠い父を映しだし、老老介護や認知症をめぐる問題の実態を浮き彫りにする『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』が関西の劇場でも4月1日(金)から公開。今回、信友直子監督にインタビューを行った。

 

映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』は、認知症の母と老老介護する父の暮らしを、ひとり娘である信友直子監督が丹念に記録した2018年公開のドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。』の続編。信友監督は前作完成後も、広島県呉市で暮らす90代の両親を撮り続けていた。2018年、母の認知症はさらに進行し、ついに脳梗塞を発症してしまう。入院した母に面会するため、父は毎日1時間かけて病院へ通い、いつか母が帰ってくる時のためにと筋トレを始める。一時は歩けるまでに回復した母だったが、新たな脳梗塞が見つかり、病状は深刻化していく。そして2020年3月、新型コロナウイルスが世界的に拡大し、病院の面会すら困難な状況が訪れる。認知症とともに生きることの大変さや家族の苦労、日本全体が抱える高齢化社会の問題を浮き彫りにしながらも、幸せな夫婦の姿を家族ならではの視線で映し出す。

 

2000年頃からずっと両親を撮っていた信友監督。今までTVドキュメンタリー制作の仕事をしており、以前は、カメラマンと同行していたが、皆さんが緊張している、と感じていた。家庭用ビデオカメラの音質や画質が良くなり、放送可能なレベルにまで到達しており「ヒューマンドキュメントの場合、私が撮りながら話した方が普段らしくなるので、撮影スタイルを変えた。ビデオカメラを購入したが、撮り慣れていない」と気づき、両親に練習台になってもらう。「父と母なら文句は云わないだろう」と感じ、家での出来事を撮ることから始めた。その後、信友さんが乳がんを患い、母親が看病している姿を撮影した素材を作品として完成。自宅で留守番をしていた父親がどう思っていたか、後からインタビューもしており「父も母もTVに出ることに対してのハードルがクリアできた」と受けとめた。

 

だが、その後に母親がアルツハイマー型認知症を患い、撮ることを止めてしまう。すると、母親から「あんた、最近はビデオを回さんようになったけど、お母さんがおかしゅうなったけん、撮らんようになったん?」と寂しそうに聞かれた。「今まで10数年撮ってきたから、撮らなくなったことが母にはショックだったのか」とハッとして「母に対して良かれと思って撮らなかったが、逆に、取り続けた方が良いんだな」と実感し、撮影を再開。「TVドキュメンタリーの制作をずっとやってきたので、映画を撮るつもりは全くなかった」と打ち明けるが「偶々、大島新さんに声をかけてもらい、映画化の提案を受け、出資してもらい映画の企画が始まった」と振り返る。

 

とはいえ、両親の喧嘩を撮影していた時には、母親から「写真ばっかり撮らないでよ」と怒られたこともあった。「母も、あんな風に父に怒られたのは初めてで、動揺していたと思う。当時はディレクターモードになっていたので、襖を閉めて撮っていた」と思い返し、デリケートな場面は撮っても、作品には入れてない。基本的に撮影中はディレクターモードになっており「娘モードになっていたら、悩んで撮れない。娘モードになると、どんどん寄ってしまい、全体が見えなくなる」と認識している。「引いて全体がどうなっているのか、自分でも客観的で冷静になり、おもしろい画に気づくことが出来て、状況を楽しめる。辛くない」と考えており、チャップリンの言葉である「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」に賛同。「引いてみることで自分も楽になるし、ディレクターとしても正しい姿勢になる」と自らを見つめ「編集時には娘モードが出てきて、お母さんに対する感情で止めたことがあります。でも、撮っておかないと、映像がないと幻になってしまう。心を鬼にしてでも撮ろう。撮った後で考えよう。いつでも止められるから」と、いつも心に留めている。

 

撮影に一区切りをつける出来事があり、その後の編集作業を続けていく中で「正解が見えてくることがある。繋がってみると、これ以外はないと思えるところまでやってみる。何回もプレビューして細かいところまで詰めていった」と話す。また、プロのカメラマンが撮った両親の映像が偶然にも見つかり「コロナ禍でステイホームとなり、ゴールデンウィークはやることがなく、家の中を掃除していたら見つかった。観てみたら、私より明らかに上手い映像があり、郷愁を掻き立てた。父と母らしさが出ていて光の雰囲気があり、作品に使える」と直感し、本作を映画にすることを決断した。本作の制作にあたり「父と母が自分達の命を削ってでも作品を生み出してくれた」と感謝しており、現在は「恩返しの意味も込めて、娘業に専念しようと思っています。半分は呉に帰っているので、取材対象にはあるので、何かあったら直ぐに撮れる」と親孝行に励んでいる。なお、映像配信も行っており、2021年最後の配信をやっている時に父親から「ワシもエェ人生でした」と言葉をもらった時、自身の中でも印象に残っている。

 

映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』は、関西では、3月18日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田や心斎橋のシネマート心斎橋、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸などで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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