負の遺産として終わらせず、次の世代にバトンを渡したい…!『Fukushima 50』佐藤浩市さんと火野正平さんを迎え舞台挨拶開催!
2011年3月11日に発生した東日本大震災時の福島第一原発事故を題材にした人間ドラマ『Fukushima 50』が3月6日(金)より全国の劇場で公開。2月10日(月)には、大阪・難波のなんばパークスシネマに佐藤浩市さんと火野正平さんを迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『Fukushima 50』は、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故で、未曾有の事態を防ごうと現場に留まり奮闘し続けた人々の知られざる姿を描いたヒューマンドラマ。2011年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0、最大震度7という日本の観測史上最大となる地震が起こり、太平洋沿岸に押し寄せた巨大津波に飲み込まれた福島第一原発は全電源を喪失する。このままでは原子炉の冷却装置が動かず、炉心溶融(メルトダウン)によって想像を絶する被害がもたらされることは明らかで、それを防ごうと、伊崎利夫をはじめとする現場作業員や所長の吉田昌郎らは奔走するが…
本作では、現場の最前線で指揮をとる伊崎に佐藤浩市さん、吉田所長に渡辺謙さんという日本映画界を代表する2人の俳優を筆頭に、吉岡秀隆さん、安田成美さんら豪華俳優陣が結集。『沈まぬ太陽』『空母いぶき』などの大作を手がけてきた若松節朗監督がメガホンをとった。
上映前に、佐藤浩市さんと火野正平さんが登壇。真摯な言葉で作品への思いを伝えていく舞台挨拶となった。
本作の一般試写が最初に開催されたのは福島。佐藤浩市と渡辺謙さんと若松節朗監督が訪れたが、3人とも本作を受けれ入れてくれるか危惧していた。現在、公共の放送ではテロップがないと津波の映像を流すことは出来ない。作中にはリアルな津波や地震のシーンが挿入されており、佐藤さんは「そういう映像を観て頂くことを強いることに、緊張感と怖さがありました」と打ち明ける。しかし「皆さんに踏ん張って観て頂くことで明日に繋げる作品」だと思い、今回のお客さんにも「最後まで観て頂ければ何か感じて頂けることがあると思います」とお願いした。火野さんも「当時、ニュースを観て『コレはエラいことだぞ』と分かっていたけど、実際は何をやっているか分かっていなかった。この映画はあの中で何をやっていたのかが分かる映画だと思う」と真摯に話す。原作未読の段階で、佐藤さんは若松監督とプロデューサーからオファーを受け「題材としても危険だな、まだ早いんじゃないかな」という正直な思いもあった。「どちらかのプロパガンダになっても嫌だな」と感じながらも「前線にいた現地雇用職員の方を中心に描きたい」という監督の思いを知り「そういうことでしたら最後まで一緒に走り切りましょうか」と出演を決心。火野さんも「いいのかな、こんな映画を作って」と危ぶんだが「逃げられないなら戦おうぜ、という役柄の心境だった。あそこにいた人達もそうだったんだろうな。そういうつもりで演じていた。観て頂戴」と自信がある。
撮影は、実際の時系列に沿って、ほぼ順撮りで行われた。現場に身を置いていると、佐藤さんは「皆の顔がどんどん変わっていく。ほとんどノーメイクでやっていますので、顔が変わっていく。人の顔が変わっていくと、自分の顔も変わっていく」と気づいていく。火野さんも「同じセットに50人の男がいると、むさ苦しくて顔が変わっていきますよ。おっさんばっかり。演技どころじゃないよ、ホントに」と振り返りながら「中には愛情も…」と冗談を交える。現場では、防護服を着て駆け回っっており「あれ、俺じゃなくてもいいでしょ。最後の日に気づいたけど、ずっと横に吹き替えがいたんですよ。なんで初日に言ってくれないのかと…」とぼやき「最後の最後までやったよ、苦しかった。演技力は何も要りません」と言い放ってしまう。さすがに、佐藤さんも「72歳ですよ」と労うが、火野さんは「71やって」とツッコミ。暗い空間での演技もあり、佐藤さんは「照明部も撮影部も困っていました。中盤からは皆が防護服を着けるので、当然、台詞もどんどん不明瞭になっていく。ましてや専門用語が飛び交う中で分かりにくい」と困惑。だが、マイナス要素に対し「全てが良い方向に転化したとは云わないけど、表情が分からなくても何かは分かる。台詞も不明瞭でモゴモゴした感じが不思議とリアルに聞こえてくるんですよ」と前向きに捉えられるようになり「映画の神様がいたな」と体感する。火野さんは「何を言っているか分からへんし自分でも。台詞苦手なんですよ」とベテラン俳優ならではの振る舞いをしていく。
NHK BSプレミアムで不定期放送されている紀行番組「にっぽん縦断 こころ旅」に出演し、日本全国を自転車行脚で旅している火野さんは「日本どこ行っても被災地やからな。北海道行こうが九州行こうが日本海側に行こうが、どこ行っても元被災地だから。どこ行っても以前に起きている」とふまえ「そういう国に住んでいる自覚と日本人って強いなと思う。立派やなぁ」と力説。被災2年目を迎えた福島を訪れた際には「火野さん頑張って!」と言われ「違うんちゃうか。『福島頑張れ』と思っているのに『頑張れ』と言われた。日本人って良いな、美しいな、強ぇな」と実感した。
年齢が一回りも違う佐藤さんと火野さんは、旧知の仲。佐藤さんは「他の世界ではありえないけど…僕等の世界だと、先輩後輩ではあるにしても、映っている時は同じ仲間なんですよね。30数年前に共演してから、ずっと一緒に呑まさせて頂いて、今はもう『正平ちゃん』と言っています」と告白。これを受け、火野さんは「この人だけやで、年下で『正平ちゃん』と呼ばれるのは。腹の中では『しばいたろ』とか思っている」と言葉を裏返して、仲の良さを表す。佐藤さんは、火野さんのキャスティングを知り「ちゃりんこ乗っているだけじゃないんだ。普通の映画も出てくれるんだ」と喜び、火野さんや平田満さんといった旧知の先輩が同じ現場に一緒にいることに対し「ホントに気持ちの上で助かるんです。救ってくれる」と信頼している。実際、前線の中央制御室にいた方達は現地雇用の地元の方々であるため「中学・高校の先輩、隣町の知り合いからの関係ばかりなんですよ。それと全く同じような関係の中で火野さんや平田さんが僕と一緒にいてくれる。それがホントに映画の中と同じように有難かったです」と感謝していた。火野さんは、佐藤さんについて「やんちゃだけど、良い男なんだ」と称え、数十年前に、怪我をしていても地方の草野球を伺ったエピソードを明かし「それ以来、頭が上がらない」と謙遜する。
なお、2011年3月11日、当時の佐藤さんは、目黒での撮影が早く終わり、家に帰る途中に寄った近所のコンビニにいた。「コンビニの品物が、自分達が撮影していると見紛うごとく崩れ落ち、アッと思って外に出たら信号機が揺れていた。それを見た時、家族は大丈夫かなぁと思った」と振り返り「撮影に入る前、合言葉のようにキャスト・スタッフ皆が『あの時に何してた?』と話していた」と明かした。火野さんは、当時は日本海側におり「ラジオやテレビから『来たな』と思った」と思い出す。阪神淡路大震災の時は、京都の撮影所からロケで琵琶湖に行く最中で「その間はラジオでずっと実況しているんだけど『こんな時に撮影してていいの?』って思っていた。撮影所って怖いところ。神戸から来る人が来れなくても撮影はちゃんと行われた」と思い返していた。
世界73ヶ国で上映が決定した本作。佐藤さんは『Fukushima 50』というタイトルについて「外国のメディアは、作業員50人という意味と、50歳以上の人間が残った、という両方の意味をかけて云っている」と説明し「外国の方にしてみれば、そのメンタリティは分かりづらいですよね。何故そこに残るのか、残っても原子力を前にして何が出来るのか。そういう思いもあったと思うんです」と理解を示す。さらに「何が出来るかわからない。何も出来ないかもしれない。でもいなきゃいけない。そのメンタリズムをどのように理解して頂けるか分からないけど、まず外国の方がどういう風に観て頂けるか」と説き「この国で生活する方々にどう観て頂けるか」と期待している。今回、福島で撮影し「何も終わっていない。始まってないかもしれない」と痛感。帰還困難区域である福島県富岡町の桜を撮りに向かったが「日本にゴーストタウンがある、生活の匂いがまったくない町がある。これを今どれぐらいの人が知っているんだろう」と複雑な思いを抱えながら桜を見たが「僕自身と役の中の彼の心情と必ずしも一致しなくとも、桜を見ながら複雑な思いが映ってくれてる」と本作に思いを寄せた。
最後に、火野さんは、本作について「観て判断してもらいたい。とにかく沢山の人に観てもらいたい」とお客さんに思いを込めていく。佐藤さんは「桜は人間の為に咲いているんじゃないんですよ。自分達の為に実を作り花を咲かせて、そして、生きている。だけど、人間は桜を見て勝手に、その美しさに色んな思いを馳せる。散り際の桜を見て、その刹那的な美しさに思いを馳せる」と気持ちを重ね「人は色んなことを自分で考えることが出来ます。災害は深い爪痕しか残しません。今回のような二次的な災害もあります。その災害を負の遺産で終わらない。ちょっと考える。少しだけ形を変える。そうやって遺産として次の世代にバトンを渡したい。そう思える映画だと思います」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。
映画『Fukushima 50』は、3月6日(金)より全国の劇場で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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