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生きる方法を見つけようとしている彼等と向き合った…『プリズン・サークル』坂上香監督に聞く!

2020年2月10日

島根県の官民協働による刑務所を取材し、更生プログラム「回復共同体(通称“TC“)」の受講者たちに迫る『プリズン・サークル』が関西の劇場で公開中。今回、坂上香監督にインタビューを行った。

 

映画『プリズン・サークル』は、取材許可に6年をかけ、2年にわたり日本国内の刑務所に初めてカメラを入れて完成となったドキュメンタリー。官民協働による新しい刑務所であり、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを導入している日本で唯一の刑務所でもある「島根あさひ社会復帰促進センター」。受刑者たちはプログラムを通じて、窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死など、自身が犯してしまった罪はもちろんのこと、貧困、いじめ、虐待、差別といった幼い頃に経験した苦い記憶とも向き合わなければならない。カメラは服役中の4人の若者を追い、彼らがTCを通じて新たな価値観や生き方を身につけていく姿が描かれる。『Lifers ライファーズ 終身刑を超えて』『トークバック 沈黙を破る女たち』などアメリカの受刑者をテーマにした作品を手がけてきた坂上香さんが監督を務めた。

 

これまでアメリカの受刑者を取材し続けてきた坂上監督にとって、刑務所は「一番嫌な場所」だと明かす。皆と同じようにすることが強制される場所は肌に合わず「刑務所に行くと体調が悪くなる」とまで語る。1990年代に虐待に関する取材をしており「暴力が連鎖し、被害者が加害者になっていくことをどうやって止められるか」ということに関心があった。外国の様々な研究所を取材し「深刻な虐待を受け続け、全くケアを受けないと、精神病疾患や薬物依存になり自殺にまで至ってしまう」と考察。最終的に刑務所を訪れ「受刑者の八割が深刻な虐待を受けていた」というデータを知り、1990年代末から刑務所の取材を開始した。

 

通常、日本の刑務所にカメラは持ち込めない。テレビ局からの取材は受け付けていたが、映画撮影の場合は前例がなく、なかなか許可が下りなかった。更生プログラムの導入開始まで沈黙が強いられており「とにかく喋ってはいけない。作業している時は皆静か、食事中も誰も喋っていない。余暇時間以外は喋っていけない」と説く。もし刑務所の取材について許可が下りても「受刑者については取材が全く出来ず、彼等の生い立ちや現在の心境が分からない」と認識する。TCでは語ることを週12時間も取り組んでおり「多様なカリキュラムを用いて昔のことを思い出し、新しく生きる方法を身に付けようとしており、彼らの様々なことが言葉で分かってくる」と気づき、官民協働による島根あさひ社会復帰促進センターに関心を持った。

 

とはいえ、テレビ局による取材でなければ受け皿がなく、民間側は依頼されても決断できず、国側も前例がないから拒絶される。法務省に相談すると、話を聞いてくれるが「刑務所の所長にお願いするしかない」と云われ、ピンボール状態が4年間も続いた。なお、刑務所の所長は1,2年周期で次々に替わっていく。4年間の交渉後、新しい所長はTCへの理解のある方だったため、講師としても参加しワークショップを開催していた坂上監督に関心を持っていてくれた。この所長にアプローチし続け、次第に話せるようになり、企画書を作成するための事前取材を依頼し協力して頂く。最終的に企画書を提出したが、横槍が入り時期尚早と云われ、結果的に6年を要した。ようやく企画を通してくれたが、次の新しい所長へは上手く引き継がれず。また時間を要したが、新体制後4ヶ月を経て撮影が始まった。

 

しかし、受刑者と目を合わせたり喋ったりしてはいけない。本当に彼等が何を思っていたか、坂上監督でさえ分からなかった。受刑者の中から選ばれた8~10人と定期的にインタビューをさせてもらったが、出所後に改めて聞くと「楽しみにしていた」と話してもらう。「自分達は隔絶されたところにいるから、孤独だった。外部の人が来ることが楽しみだった。自分達は忘れられてない」と有難く感じる人もおり、意義があった。とはいえ「嫌だった人も勿論いる」と認識している。さらに、刑務官が立ち会わないと、TCの支援員達とも個人的に喋ってはいけなかった。TCの講師として参画しお互いに知っているはずだが、支援員が何を思っているかも分からずじまい。撮影の後半では拒絶されたこともあり「自分達の仕事をいきなり撮られるので、いい気分ではない。受刑者との関係を作っているところにカメラが介在すると違和感がある」と実感。昨年の秋、完成した作品の職員向け試写を実施し、本音を言ってもらい「お互いに信頼感がなかった。当時に話し合いが出来ていれば違っていましたね」と振り返る。

 

なお、編集作業も大変な工程となった。顔を全部隠すことが条件であり、当初は声も変えるように云われ、法務省と戦い死守していく。顔を出せた場合と出せなかった場合も含め両方のシチュエーションを考えながら撮っており「顔を観ながら編集していると、表情の機微な変化が見える。言葉がなくても伝わってくる」と明かし、臨場感によって監督自身が編集しながら泣いてしまう時もあった。最後の最後までモザイクをかけようとせず「彼らの個性がモザイクによって消されてしまい、精神的にも酷いことをしている」と自らを戒めながら、苦肉の思いを以て編集作業を進め、本作の完成に至っている。

 

映画『プリズン・サークル』は、大阪・十三の第七藝術劇場、京都・烏丸の京都シネマで公開中。また、3月7日(土)より神戸・元町の元町映画館でも公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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