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”とんでもないばあさん”を日本中のばあさん達に届けて元気になってもらいたい…『雪子さんの足音』吉行和子さんと浜野佐知監督を迎え舞台挨拶開催!

2019年6月29日

“月光荘“という洋館を舞台に、大家の女性と洋館の常連女性、そして下宿人の男子大学生という3人の思惑が複雑に絡み合う様を映し出す『雪子さんの足音』が、京都・烏丸の京都シネマでも、6月29日(土)より公開。初日には、吉行和子さんと浜野佐知監督を迎え、舞台挨拶が開催された。

 

映画『雪子さんの足音』は、第158回芥川賞候補になった木村紅美の小説「雪子さんの足音」を、吉行和子さん主演で映画化。「月光荘」という名の洋館で2階を下宿人に貸している大家の川島雪子は、放蕩息子の死をきっかけに月光荘の大部屋ををサロンとして開放する。サロンの常連でテレフォンオペレーターをしている小野田香織は、肉親や職場の人間関係に対して屈折した感情を抱いていた。ある日、香織は男子大学生の湯佐薫をサロンに招き、その日から夕食会や部屋への食事の出前、ぽち袋に入ったお小遣いなど、雪子と香織の過剰なまでの善意と援助が薫に向けられる。やがて薫は月光荘から逃げ出してしまうが、それから20年が過ぎ、雪子が孤独死したということを知った薫は、再び月光荘を訪れようとする。監督は『百合子、ダスヴィダーニヤ』の浜野佐知さん。吉行さんのほか香織役で菜葉菜さん、薫役で寛一郎さんが共演。寛一郎さんの父でもある名優・佐藤浩市さんも友情出演している。

 

上映後、吉行和子さんと浜野佐知監督が登壇。京都シネマでは、2010年に『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』『百合祭』『こほろぎ嬢』を浜野佐知特集として1週間上映しており、今回、吉行さんとの登壇を浜野監督は渇望していた。吉行さんは、雪子さんと出会い「私の女優生活はこれでいいと思えるぐらい嬉しかった。素敵な役をこの歳でやらせて頂くことはない」と感激している。本作での主演をチャンスだと捉え、撮影時は恍惚と演じていた。

 

2017年、浜野監督は、小野田さんを演じた菜葉菜さん、吉行さんのマネージャーさんと東京の居酒屋さんで呑んでいる際に「私、とんでもない婆さんがやりたい、と伝えてね」と吉行さんからLINEメッセージを受け取っている。浜野監督は「吉行さんの気持ちを直球で受取った気がした。私しかその役目はできない」と受けとめ、本作の企画に乗り出した。吉行さんは、本当に実現するとは思っておらず「本当は”素敵なとんでもない婆さん”の役をやりたい気持ちがずっとあった。一応、”素敵な”は図々しいと思ってカットした。雪子さんの話を聞いて、素敵を通り越して、何倍も素敵な雪子さんが現れた」と感激し「私はこれが遺作で良い」とまで話してしまう。浜野監督は「遺作と言わないでくださいよ」と心配しながらも、吉行さんとの作品を振り返っていく。1998年の『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』で吉行さんと関わり「一見物静かですが、芯が強く主張があり、しっかりとした俳優だと思っていた。吉行さんとガッツリと1本撮ったのが『百合祭』。高齢女性の性愛をテーマに撮った。そこから、死を直前に向かえた女性にあるエロスや欲望を吉行さんと共に表現したく『雪子さんの足音』と出会った」と解説する。

 

現在、83歳の吉行さんは、今では年寄りの役しかこなくても気にしていないが「年寄りを描く時、生まれた時から年寄りのような婆さんばかり出てくる。小説ではあまりないが、映画になると、年を取った女性が何を考え、どんな人生を送っているか、と監督達は考えない」と諦めていた。雪子さんを知り「年を取っても心の中は瑞々しいのが女性。そんな女性を演じられるので毎日ウキウキしていました」と撮影の日々を楽しんでいる。寛一郎さんと共演し「長年をかけて女優をやっている、と感慨深い。佐藤浩市と共演していると三國連太郎さんと演じているみたい。寛一郎と演じていると佐藤浩市とやっているみたい」と嬉しい気持ちにもなった。寛一郎さんに対し「良い俳優。見ているとアイドル顔ではないので、本物の俳優が出てきたと感じる。今後、良い役者になる」と称えていく。浜野監督も「寛一郎はデジタル世代。自然体で、カットをかけるのを迷ってしまう流れるような演技をする。編集してみると改めて素晴らしいと感心しました」と絶賛する。さらに、吉行さんは「普通はリアクションを以て表現するが、何をしないで心で受けとめて、表に出さないで目で表現する。最初は慌ててしまいました」と告白。「『この人とどうすればコミュニケートできるかしら』と思いながら、雪子さんの様々な思いを受け止められない間柄を表現できる演技になるかもしれない」と期待した。2人の芝居を見ながら、浜野監督は「監督なのにホロっときてしまう。寛一郎さんが吉行さんを見る眼差しの優しさや眼差しに感心しました」と太鼓判を押す。

 

女性監督として、浜野監督は「女性の性愛を、男性目線ではなく、女性から自分の欲望を語るような作品を撮りたくてずっと活動してきました」と説く。吉行さんについて「格好良い女優。『私の部屋の中で動いているのは私と時計だけ』と自然に言ってくれる。吉行さんの演技によって、現実生活から少しだけ浮遊したような雰囲気が雪子さんにあった」と表現する。吉行さんは「ほぼ妄想で生きている人間ですので」と応えながらも「楽しいことは私の実生活には無い。役を演じさせて頂いて時間を過ごしていることが多いので、素敵な役を頂くと嬉しい。生活は無で良くて何も要らない。ただ素敵な役を演じたい」と切望した。浜野監督は「これからも毎年を素敵な役で輝いてもらいたい」と願っており、吉行さんは「次第に凄いお婆さんになってしまいますが、生きていれば何か出来るかな」と楽しみにしている。さらに、浜野監督は「この2人でこれから先もずっと”とんでもないばあさん”を日本中のばあさん達に届けて元気になってもらいたい。それまでずっと元気でいて下さいね」と念を押す。吉行さんも「人生長いから楽しまないとね」と揺るがない。最後に、浜野監督は「観てくれた人が自分の心の中にあるリトマス試験紙をつけて、心の底を少しだけ疑ってかかるような映画に仕上げました。雪子さんの謎も含めて楽しんで頂ければ」と思いを込め、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『雪子さんの足音』は、京都・烏丸の京都シネマで上映後、7月13日(土)より、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで、8月3日(土)からは、神戸・元町の元町映画館で公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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