時間が掛かって良かった 8年掛かったことは何も後悔していない…「みずもとひろゆきアニメーションシリーズ『よるのたんけん それと2つの旅の映画』」みずもとひろゆき監督迎え舞台挨拶開催!
ちょっと不思議でこわくて、可愛らしさのあるドキュメンタリーと手作りアニメを横断する異才の作品を一挙公開する「みずもとひろゆきアニメーションシリーズ『よるのたんけん それと2つの旅の映画』」が11月24日(土)から大阪・十三のシアターセブンで公開。上映初日には、みずもとひろゆき監督を迎えて舞台挨拶が開催された。
『いぬごやのぼうけん』は、いがみ合う少年と犬が大海原を旅する過程で他者の大切さを知り、成長していく姿を描いたストップモーションアニメによる短編作品である。
2年かけて制作した本作は「CGを使えば早く作れるが、手作りでちょっとずつ動かすことに拘った故に2年掛かりました」とみずもと監督は告白。平たい人形の上からカメラで撮る手法で撮っており「2011年に完成して発表する間際に東日本大震災が発生した。映画に洪水のシーンがあるため、胸を張って見せられる状況ではなかった。去年から『きおく きろく いま』を上映した際にようやく劇場で上映できるようになった」と打ち明ける。2011年に完成し2017年にようやく上映出来たので、まさに「6年近く塩漬けになっていた映画」だった。
『きおく きろく いま』は、95歳のシスターによる長崎の原爆証言をアニメーションで描いた意欲作。長崎県・出津教会の95歳のシスター、橋口ハセさんが、貧しかった子ども時代や原爆被害の救援に駆け付けた当時の体験をカメラの前で語った。その様子を4000枚の写真に印刷し、長崎県大村市の人々が写真をなぞって絵を描き、橋口さんのインタビューをアニメーションに仕上げた。制作に関わった1000人以上の人々の手により、1人のシスターの記憶を浮かび上がらせる…
今作は、他の2作品と毛色が違う。2014年に長崎で映画を撮りたいというプロデューサーがおり「お金は出さないが、長崎県大村市の方々の協力だけは得られる」と依頼を受けた。人件費がかからない映画プロジェクトではあったが「僕は1本前に『縄文号とパクール号の航海』を3年かけて作ってボロボロの状態だった。そこで違うものをやってみよう」と引き受ける。現地に向かい、スタッフの方にシスターを紹介してもらったが「その段階ではどういう映画にするか決まっていなかった。ドキュメンタリーかアニメーションかと思っていた。ドキュメンタリーで原爆の話をやっても大手には勝らない」と感じていた。そこで「市民の方による協力というストロングポイントがありました。4000枚の写真を印刷してトレースしてもらう手法で、1000人近くの方が物語に参加する」と提案。取扱いが難しい映画ではあったが「結果的に、僕は満足している。だが、もう1回と云われるとやりたくない」と本音を漏らす。
『よるのたんけん』は、みずもとひろゆき監督が、子どもたちに向けて8年の歳月をかけて完成させたストップモーションアニメ。とある港町の貨物置場で、運ばれてきたウサギが箱から出て海を眺めていた。一方、檻に入ったゾウは「行きたいところがある」とため息ばかり。見かねた港のおじさんが夜の間だけゾウを檻から出し、朝まで町を散歩してくるよう促す。それを見ていたウサギは、ゾウと一緒に町に探検に出るが……
『いぬごやのぼうけん』と同じ手法で作っているが「僕の技術が上がっている」と自信を持って取り組んだ。2010年から作り始めて今年の1月に声を入れてようやく終わったが「2011年の東日本大震災では、被災地に向かい、瓦礫の山や原爆の跡のような風景を見てきた。今、子供が喜ぶだけの作品を作っていいのか」と自問自答する日々を送る。様々な迷いがあり、ストーリーも変化していく。最終的に、現実的なストーリーになったが「アニメーションの長所は一歩先の非現実的なところまで見せられること」と気づき、本作が完成した。
『よるのたんけん』と『いぬごやのぼうけん』との違いについて、みずもと監督は「『いぬごやのぼうけん』は、音楽と音だけで物語が進んでいくモノローグであり、サイレント映画の作り方に近い。『よるのたんけん』は会話があり、もっと簡単に作れるだろうと思って、ホントは3ヶ月で作る予定だったが8年掛かった」と解説する。本来は「”早く””手短に””良いものを作る”をモットーに努力をしようと思ったが、逆の方向に向かった」と自省しながらも、結果的に「良い声を持っている方に巡り会った。2010年に『よるのたんけん』が完成していても、この声優の方とは巡り会ってなかった」と考えるようになった。現在は「時間が掛かって良かった。8年掛かったことは何も後悔していない」と自信を持って作品を世に送り届けている。
「みずもとひろゆきアニメーションシリーズ『よるのたんけん それと2つの旅の映画』」は11月24日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開中。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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