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林優里さんが訴えていたことは、社会の課題として考えるべき…『京都ALS患者嘱託殺人事件』二村真弘監督に聞く!

2026年10月27日

難病を患う女性に頼まれ薬物で殺害したとして、2人の医師が逮捕された事件を題材に、関係者や当事者、医療やケアの専門家へ取材し、被害者と医師の人生を掘り下げていく『京都ALS患者嘱託殺人事件』が10月31日(土)より全国の劇場で公開される。今回、二村真弘監督にインタビューを行った。

 

映画『京都ALS患者嘱託殺人事件』は、2019年に起きた”京都ALS患者嘱託殺人事件”に迫ったドキュメンタリー。2020年7月、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性からの依頼で薬物を投与し殺害したとして、2人の医師が逮捕された。ひとり暮らしの彼女は事件当時は眼球しか動かせず、24時間の介護を必要としていた。主犯の大久保愉一は、女性が“安楽死”を望む言葉を投稿していたSNSで彼女と出会っており、事前に130万円の報酬を受け取り、初対面からわずか15分ほどで殺害を実行した。捜査により過去の殺人事件への関与も浮上するなか、メディアは大久保の過去のブログなどから、彼の生命軽視の姿勢を大々的に報じた。そして2025年、嘱託殺人罪などで懲役18年の刑が確定。救命が第一義とされるはずの医師が、なぜ一線を越えて彼女を手にかけたのか。監督は、和歌山毒物カレー事件を検証した映画『マミー』の二村真弘さん。亡くなった女性の父親、SNS上での彼女を知る元看護師や難病当事者、医療とケアの専門家への取材を重ねて彼女の人生を掘り下げていくとともに、大久保の母親やかつての医師仲間のもとを訪ねてその半生をたどる。さらに大久保の供述分析を独自におこない、彼が収監されている大阪拘置所へと向かう。京都出身の俳優である田畑智子さんが声の出演を務め、亡くなった女性がインターネット上につづった切実な言葉の数々を代読した。

 

大阪高裁で事件の裁判を傍聴した二村監督は、判決の内容を聞く前に、林優里さんがSNSに投稿していた言葉を一通り読んだ。そこで、「彼女はALSという難病にかかってしまい、自暴自棄になって安楽死したいんだ、と訴えているのではなかった。その背景にある状況を詳細に描いている」と受けとめたという。「神経に関わる難病を患った方たちは、耐え難い肉体的苦痛があるにも関わらず、それを解放する手立てがない。苦しみ続けなきゃいけない、生きることを強制されているんだ、と訴えていた」と分かった。だが、介助者からの暴言や暴力など、事件の背景にある様々な出来事に関して、判決文には反映されておらず、事件が「大久保という偏った思考の人物が林さんに近づき殺害した」という構図に矮小化されていると感じてしまう。そこで「社会が深く考えるべきことにも関わらず、おかしな医者が起こした事件として矮小化されていた」と問題意識を持ち、まずは、生前の林さんがSNSでやり取りをしていた方たちを辿っていった。全てのやり取りが残っていたことから、各アカウントに「話を聞かせてもらえないか」とメッセージを送ることから取材を始めている。とはいえ、取材を受けてもらうことは容易ではない。その中で、林さんが訴えていた「死にたい」という思いに共感を抱くと共に、事件の報道等を見て「彼女が訴えていた内容等が十分に伝わっていないんじゃないか」「彼女の描かれ方は、私が実際にやり取りしていた印象とは違う」と違和感がある方たちに取材に応じてもらい、ご自身が見てきたことや感じてきたことを率直に話してもらっている。そして、監督自身の問題意識を伝えた上で「あなたが林さんとやり取りをしていた時、どのように感じていたのか」「林さんの訴えをどのように受けとめているか」「当時、どういった気持ちでやり取りしていたのか」と伺うと「彼女の訴えはしっかりと検討されるべきだ」と共感していただいた。なお、取材では、自身の名前を名乗ってもらい、病気などについても語ってもらうことから始めており「SNSでやり取りしていた時は匿名であることが多いですが、人間と人間がやり取りしていることを伝えたかった」と意図を説明し「皆さんそれぞれが考えていることを率直に話してもらえた」と受けとめている。なお、本来であれば、林さんの主治医、ヘルパーや看護師など、身近で関わっていた医療・介護関係者にも話を聞きたかったが、カメラの前で取材に応じてもらうことは難しかった。医療関係者の中には話を聞かせてくれた人もいたものの、事件当時の状況を直接証言する形にはならず、裁判の中での証言から判断している。

 

さらに、主犯である大久保愉一に関しても、本人との面会や、彼が書いた文章を読むことなどを通じて取材を進め、人物像や思考を掘り下げるなかで「実態と違う描かれ方がされているな」と直感。そこで、大久保の同僚に取材してみると、当初の報道に違和感を持っている方がおり、一様に彼に対して悪い印象を持っておらず「人間関係を作るのが苦手だ、と感じていた。だけど、報道されている内容とは違う、と私は思う」と率直に話してもらった。そして、大久保の母親にも取材している。大久保から、幼少期にどういった育てられ方をしたか、を直接伺っていたが、それがどこまで真実であるか分からず、母親に取材を依頼してみると「自分の息子が犯した事件で大変なことになってしまった。取材を受けることが社会にとっての罪滅ぼしになるのであれば、私は逃げも隠れもしないので、何でも話します」と応えてもらった。母親が何を語ったのか、は本作に収められているが「ああいう言われ方をされた時、どんな風に思うかな」と監督自身も胸を痛める内容であり「当時、”昭和の親”世代が考える価値観も根強くあった、と思う。時代の空気感として十分に分かった。そういったことを言われたらどういう気持ちになるか、も本人からも聞いていたので、私自身は彼に共感する部分が多かった」と話す。なお、大久保が林さんの事件の10年前に起こした事件についても、事実関係の確認に多くの時間を費やしており「誰が嘘をついているのか、誰が真実を話しているのか、なかなか判断できず、見極めることに最も時間を使った」と振り返る。

 

編集段階となり、本作の締め括り方については、最初から決めていた二村監督。「あの部分は公開されていなかった。あれを見た時、私自身、最も衝撃だった。大久保が悪意をもって林さんに近づいたという単純な構図では捉えきれず、2人の関係性が最もよく分かる。お互いに対等なやり取りをしており、どちらかといえば、林さんが主導権を握っていることが分かる」と説き「このやり取りを最後に描くことで、2人の印象が最大化されるような構成を考えました。林さんと大久保、それぞれのパートを描き、最後に2人が出会い、最期に至るまでのやり取りを見せる構成にしました」と振り返る。作中でのタイトルの出し方が印象的な本作であるが「林さんの、苦しみから逃れたい、という切実な訴えが、現代の日本の中では、事件という形でしか行き着く先を見いだせなかったことを象徴しているタイトルだと考え、どうすればその意味を最も効果的に伝えられるか」と熟考し「彼女の訴えや周囲の環境を伝えた上でタイトルを出すことで、2人を繋ぐ表現として妥当ではないか」と検討した結果だ。そして、田畑智子さんが声の出演を務めている。「林さんは京都で生まれ育ち、20代半ばから東京で過ごしていた。京都に長年住んでいる方より、上京して東京では標準語に近い話し方をしながら、アクセントや言い回し、ニュアンスに少しだけ京都の言葉が入るのが理想だった。それなら、田畑さんが適切だと思った。彼女はそうした話し方を意識的にできる方だ」と認識し「林さんのご友人から、彼女は自身の意思をはっきり伝える気の強いタイプの人で、自らの訴えはなかなか曲げない人だった、と聞いていた。芯が通った人を思い浮かべながら、田畑さんにお願いすれば、そういったことを表現していただけるんじゃないか」と考え、オファーした。田畑さんには、本作の内容や意図を全て伝えた上で依頼し「分かりました」と応じていただいている。最終的には、作品のエンディングテーマとして、日本のとあるシンガーソングライターの楽曲を使用しており「作品のクオリティを保っている。作品をよい形で締めくくれた。これがあるとないとでは、作品の印象も随分と変わった。楽曲使用の承諾を得られて良かった」と安堵しており「エンディング曲によって、作品にポップな印象が残る。悲観的になっていた彼女にとっては、悲観的な最期ではなかったんじゃないか。彼女の気持ちに少しでも近いものが表現できた」と、その意図を語った。

 

本作の試写を観た人の中には、事件当時の出来事を覚えている方もおり、当時の報道で知った内容や印象とは異なる受けとめ方をした上で「林さんが訴えていたことは、社会の課題として考えるべきだよね」といった感想も寄せられ、監督自身も反応を喜んでいる。とはいえ、語りにくい内容であることは認識しており、言語化に苦労することも分かっているようだ。現在、新たな事件の取材も始めており「テレビ等では取り上げにくく、広く報道するのが難しい題材はあります。でも、それを映画にすることはできる。荒唐無稽な話ではなく、しっかりとした事実に基づき、私が主張していることではなく、根拠もあった上で言っていることだと示せば、皆さんが反応し、考えていただける。既存のメディアがなかなか触れづらくとも考えるべきことに取り組んでいくことがやりたいことであるし、やっていくべきことだ」と話す。また、事件に関する取材依頼を受けることもあり「そういった事件では、当事者や遺族の方々が、報道の内容が事実と違っていたり、判決の内容に疑問を持っていたりして、声をかけてくれる。できることはやりたい」と真摯に語る。

 

映画『京都ALS患者嘱託殺人事件』は、10月31日(土)より全国の劇場で公開。関西では、10月31日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や京都・烏丸の京都シネマ、12月5日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。11月1日(日) には京都シネマの9:50の回上映後と、第七藝術劇場の14:25の回上映後に、二村真弘監督と石川朋子プロデューサーを迎え舞台挨拶を開催予定。元町映画館でも12月5日(土)の11:50の回上映後に二村監督の舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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