周囲を一切気にせず、自分の足で歩いていく主人公を描きたい…『ほなまた明日』道本咲希監督に聞く!
写真家を目指す芸大生が大学卒業を控えた夏に、人生の岐路で写真の本質に近づこうとする姿を描く『ほなまた明日』が10月25日(金)より関西の劇場でも公開される。今回、道本咲希監督にインタビューを行った。
映画『ほなまた明日』は、不器用で前しか向けない写真家志望の女性と、彼女に振り回されながらも救われていく友人たちの日々を優しいまなざしでつづった青春映画。夏の大阪。写真家を目指している芸大生の草馬ナオは、卒業を控えるなか、写真中心の生活を過ごしていた。同じ写真学科の友人である小夜、山田、多田は写真優先のナオに振り回されながらも、彼女の才能を認め応援している。人生の選択を前に、時に傷つけ合い、時に励まし合う4人。ナオの写真にかける情熱は彼らにさまざまな選択を迫り、やがて卒業した4人はそれぞれの人生を歩み始める。4年後、久々に再会したナオと小夜、多田は、山田が失踪したことを知る。主人公ナオ役に『道草』の田中真琴さん。短編映画『なっちゃんの家族』で注目された道本咲希監督が長編初メガホンをとった。
ENBUゼミナールによるシネマプロジェクト第11弾の1作である本作。俳優をオーディションによってキャスティングして製作する作品ではなく、ワークショップ映画として俳優部の方々と18時間程度の時間を共にしながら、演技について一緒に考えながらキャスティングして作り上げた作品である。道本監督自身も「俳優部と映画を作った」という印象が強い。道本さんは、高校一年生の頃からスマートフォンが普及しSNSが浸透している中で成長してきた世代の1人だが「SNSによって沢山の情報が容易に手に入り、いいね!と簡単に褒めてもらえる状況の中で、 1つのことを追求するのがすごく難しくなっている」と実感しており「褒められることで私達は安心し、嬉しくなるので、褒められるための行動をしたくなる。また、他者からどのように見られているか分かる時代にもなってしまっている。だからこそ、そんなことを一切気にせず、自分の足で歩いていく主人公を描きたい」と思い、本作を作り出した。
映画学生だった道本さんは、今作で写真学生を主人公にしている。「何かを突き詰めていく中で、表現をしようとしている子を描きたい」と構想していく中で「どの表現方法がいいかな」と検討し「今や写真は誰もが撮ることが出来る中で、 皆が簡単にできると思っているモノほど極めるのが難しいんじゃないかな」と気づいた。そして、デジタルカメラではなく、アナログなフィルムカメラを用いたことについては「ナオというキャラクターについて考えた時、フィルムしか思いつかなかった」と思い返し「フィルムは暗室の中で自ら現像していく過程があるため、自分の写真と向き合う時間がデジタルより長い。自分がどのように考えていくか、思考と向き合うことが実は大事なことだったりする。だからこそ、ナオはフィルムを選ぶ」と熟考。「ナオは主人公だけど、強く葛藤したり、 落ち込んだり、喜んだりするような表現にはしていない」と言及し「どちらかというと、周囲の人間が持つ余白を以てナオを感じることができる映画になるように脚本を書いていました」と明かす。だが、学生時代の青春にある悲喜交々を描くことを目的にしておらず「影響力を持つ強い人間に引っ張られながら人生が少しずつ変わっていく。そこで人間関係がどのように変化していくのか。そんな人生の流れを表現してみたかった」と打ち明ける。
今回、ワークショップを18時間も実施していく中で、キャスティングを行った。特に主役に関しては複数人の中で迷ってしまい、追加で8時間かけてオーディションを開催していく中で決定しており「ナオ役は田中さんしかいない。周りに流されず強い信念を持って俳優活動をしている。演技も自らの強さに満ちていた」と説く。共演者の方々についても「皆さんが必然。皆が各々の役に似ているところがある」と話す。
大阪での撮影が中心になっているように感じられる本作。実は、大阪では1日しか撮影しておらず「街中でナオが写真を撮っているシーンだけが大阪で、それ以外は全て関東圏で撮っています。大阪発祥のたこ焼き屋さんが映っているけれども、埼玉で撮影しました。制作部のおかげです。ロケ地を頑張って見つけて頂いた」と明かす。自身の記憶にある大阪を想像しながら、撮影前日にインしてロケハンを行い、田中さんやスタッフが到着次第、皆を率いてまわりながら「ここで好きなように撮ってください」と依頼した。とはいえ、俳優の皆さんは写真家でもなく毎日写真を撮っているわけでもないので、事前にカメラに馴染んでもらう時間も確保している。田中さんには街中にある日常の風景の中でカメラを構えてもらっており「主人公のナオは起伏が大きくない。そして、放つ言葉の力は強いため、写真を撮る姿に説得力がなければ作品として成立しない。だからこそ、ナオの写真を撮る姿をカメラが捉えることができたら作品として成功するんじゃないか」と気づき、初日にナオを信頼できる画が撮れたことで手応えを得られた。なお、昨年7月から8月をまたいで撮影しており、猛暑の中でキャストもスタッフも汗だく状態で取り組んだ。特に、山田が暮らす”街の電気屋さん”は今や少なく、取り壊す前の古い家をどうにか見つけて撮影しており「山田が過ごす部屋の中にはクーラーがない蒸し風呂状態で、 本当に暑かったですね。映像見たらみんな涼しそうな顔をしているんですけど、相当辛かった」と皆の気持ちを受けとめ、苦笑いせざるを得ない。
本作が道本監督の初長編作品であり、撮影や編集で苦労を重ねた上で完成させた。既に公開された東京の劇場では、年齢の幅に関係なく反応があり「若者にむけた映画ですが、50代や60代以上の方から”若かった頃に見たかったな”と郷愁の想いがあった。若い方は自身の状況を誰かに重ねて、私が想像しないようなシーンで泣いていた」と様々な反応を受けとめ、興味深く感じている。今後も映画を撮り続ける意向があり、エンターテインメント作品にも関心があった。これまで作ってきた作品について「自分の精神性に由来したり、自身の経験から生じてきたりするものに関わりが強い映画を手掛けてきた」と冷静に捉えており「 今後はバランスを意識して、エンタメの要素も強くしていきたい。笑って泣ける作品が作りたい。また、母目線を中心にした子供への思いを描いた映画もいつか作りたいな」と未来に目を輝かせている。
映画『ほなまた明日』は、関西では、10月25日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。10月26日(土)には、テアトル梅田とアップリンク京都に田中真琴さんと道本咲希監督を迎え上映後に舞台挨拶を開催予定だ。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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