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写真って良いよなぁ。僕に写真があって良かった…『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』岩間玄監督に聞く!

2021年4月29日

ⒸDaido Moriyama Photo Foundation

 

80歳を過ぎてもなお、現役で活動を続ける写真家の森山大道さんを追ったドキュメンタリー『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』が4月30日(金)より全国の劇場で公開。今回、岩間玄監督にインタビューを行った。

 

映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』は、2019年に写真界のノーベル賞とも言われる「ハッセルブラッド国際写真賞」を受賞するなど、世界でもっとも人気のある日本人写真家として知られる森山大道さんを追ったドキュメンタリー。デビューから50年以上、80歳を超えてもなお現役の写真家として活躍する森山大道さん。国内のみならず海外でも高い評価を集め、若い世代からも絶大な支持を誇る森山さんだが、その撮影手法やプライベートの顔などはこれまで謎に包まれていた。そんな森山の写真の魅力に迫るため、1968年に出版された森山さんのデビュー写真集「にっぽん劇場写真帖」復刊プロジェクトにカメラが密着。ファインダーをのぞく森山さんの姿や、編集者たちとやりとりする姿から、伝説の写真集を復活させるプロジェクトの舞台裏と、森山さんのスナップワークの秘密に迫っていく。

 

写真界ではカリスマ的存在である森山大道さんは、メディアからの取材やインタビューを好まず、表に出てくる人ではなかった。岩間監督は、1996年に美術番組「路上の犬は何を見たか? 写真家 森山大道1996」を制作しているが、当時もすんなりとはいかず。だが、番組を気に入って頂き、その後も四半世紀に渡ってお世話になっている。とはいえ、今作を制作することになり、直ぐに応じて頂いたわけではない。森山さんは、小さなコンパクトカメラで路地裏を撮っていくスタイルであり「大所帯の撮影隊が来ても、僕の撮影スタイルに馴染まない」と困惑。今回は断られると思ったが「岩間さんが1人で撮るんだったら良いよ」と条件を提示される。演出家である岩間さんにとっては「本職はカメラマンでもない。僕が大きなカメラを携えて世界の森山大道の映画を作って世界で公開するなんて…」と受け入れ難い。念のため機材について尋ねてみると「カメラなんて何でもいいんだよ。映ればなんとかなるから」と云われてしまう。意外な回答だったが「森山さんの映画を作るなら、このスタイルが一番馴染んでいるんだなぁ」と自然と応じることに。そこで、マイクを外付けした4Kハンディカムで森山さんを追いかけており、特殊な機材は使用していない。

 

路上スナップの達人である森山さん。小さなカメラでサッと撮ってサッと立ち去るので、街の中では目立っておらず「場合によっては、ノーファインダーでサッとすれ違い様に撮って次の場所に向かっていく。撮られている方は撮られているとも思っていない」と達人の技量を垣間見ていく。街中でのハレーションも起きておらず「偉大なカメラマンの映画を撮っているとは思えない状況でした」と岩間監督は驚くばかり。森山さんにとっては「自分は人の写真を撮るのに、自分が撮られるとなると、緊張する。だから大女体の撮影隊だと自分の有り様を出せなくなる」と認識しており、岩間監督による撮影のおかげで「昔から知っている監督が来て、後ろについて撮ってもらっているので、全然撮られている意識がなかった。普段通りの自分自身のペースでいつものスナップワークをしていればよかった」と聞き、リラックスした姿をカメラは捉えられた。現在82歳の森山さんは若々しく見え「気が若い。若い写真家に負けない。老成している、と思っていない」と感じ取れ「20代の時にカメラを携えて路上スナップを撮り始めた時から原則的には撮り方も考え方も撮る対象もフットワークの軽さも撮る量も全く変わっていない。時間だけは経っているけども、彼自身の中では写真家として1ミリも失速していない。だから、82歳になっても、まるで20代の若者のように街を疾走している」と受けとめている。

 

基本的な作品制作として「一つの流れを最初に想定して、撮影段階から構成台本を作った上で撮影に臨む」といったフォーマットを用いてきた岩間監督。だが、今作では従来の手法を用いておらず、森山大道さんから「自分のスナップワークは最初にテーマやコンセプトを決めてしまうと不自由なものになってしまう。テーマやコンセプトは全て街の中に転がっているんだ。自分が今から路上スナップで行き違う人や風景や光や事物とすれ違った瞬間に様々なものが立ち上がってくる。最初から決めていたら、撮るものも撮れない。不自由でおもしろくない」と聞き「最初から構成台本を作ってしまったら、僕自身も森山さんの肝心なことを見逃してしまう。なるべくフラットでフットワークの軽い真っ白な状態で撮ろう」と決心。とはいえ「これを2時間程度の映画にしたら、どんな話になるんだろう」と戸惑い、台本を書きたくなる慾望との葛藤もあった。だが、様々な情報をカメラは捉えていく。そして、数ヶ月後に、50年前のデビュー写真集である「にっぽん劇場写真帖」を決定版として復活させる企画を聞き、おもしろいことが起きる時に見逃さないように、ジッと目を凝らし耳を澄ますことだけに注力していった。「149点ある全ての写真をいつどこでどのように撮ったのか。森山大道さんが元気なうちに記憶を引き出して全てをデータとして付けていく」という企画であり「これはおもしろそうだ。これを撮らなきゃいけないんだな。これが映画の背骨になるんだな」と確信。写真集の形が少しずつ出来上がっていき「森山大道さんの半世紀に渡る写真人生と現在のスナップアート、過去と未来と現在をずっとクロスしていくような構成になる」と自ずと作品の全体像を見据えていく。

 

編集段階となり「今起きていることは過去から繋がっている。過去に起きたことが現在や未来にどうやって繋がっているのか」と追求していく中では迷いはなかった。しかし、何百時間の撮影素材があり「死ぬかと思いました」と漏らしながらも「森山大道さんの現在を切り取っていくだけでも沢山ある。過去は50年以上にも渡っている。言うは易く行うは難し」と力説。本作では「にっぽん劇場写真帖」を大きな縦軸として、過去の出来事や現在のスナップワークとのバランスをとりながら編集していった。なお、森山さんが訪れた先々にある街の風景は、物凄く派手な街の看板や店先が多く「発色の良さはカラコレで触りましたが、撮った時と全く違う色合いにするカラコレ作業は必要なかった。特に秋葉原では色の洪水。ド派手な色合いの中を森山さんが小さなカメラでトボトボ歩いていくので、ギャップがおもしろかった」と明かす。劇伴の音楽を担った三宅一徳さんは、様々なドラマの劇伴音楽を手掛けており「音楽的な素養とセンスの引き出しが多い方」と信頼を寄せている。「森山大道さんの写真が何を表しているのか、十人十色の受けとめ方がある。写真は喜怒哀楽を記号的に決められない重層的な構造で出来ているから興味深い」と踏まえ、音楽のあて方について「格好良い写真だから、格好良い音楽を簡単にあてるものではない。その写真が持っている複雑な構造を音楽でも感じてもらう必要がある」と理解し、ディレクションする役割も弁えていた。三宅さんは様々なデモ音源を用意していたが、森山さんの写真が持つ魅力に添うように「格好良さがあると同時に裏側に真逆の感情が欲しい。ゆったりとした中にどこかでザワザワした気持ちを感じさせてほしい」と細かいリクエストにも応じてもらい「レイヤが幾つも積み重なっていく音楽を作って頂いた」と感謝している。

 

完成した本作を森山大道さんに観てもらった時について「無茶苦茶緊張しました」と告白。当時について「東映の一番大きな試写室で森山大道さん1人だけの試写を行いました。大劇場の真ん中に座ってもらい、僕は後ろで観ていて、2時間近く生きた心地がしなかった」と振り返る。森山さんからは「途中段階の作品は一切観ないから。完全に岩間さんが、これで完成品だ!というものだけを見せてくれればいいから」と云われ、とてつもないプレッシャーを抱えながら、一切の予備情報がないまま初めて観てもらった。観終えた後には「凄く良い映画でおもしろかった。素敵だった。客観的にも主観的にも良い映画だと思う」と聞き、腰から崩れ落ちるような心持ちに。最近、改めてお会いした時には「写真って良いよなぁ。僕に写真があってつくづく良かった」と感慨深げなコメントを受け、本作の公開を迎えることにホッとした心境だ。

 

映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』は、4月30日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。また、5月15日(土)より神戸・新開地の神戸アートビレッジセンターで公開予定。大阪・梅田のシネ・リーブル梅田でも公開予定(緊急事態宣言に伴う休館のため新たな日程を調整中)。

 

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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