子供を叱りつけるよりも、穏やかに話すことを心掛けたい…『リトル・エッラ』クリスティアン・ロー監督に聞く!
人と仲良くすることが苦手な少女が、唯一仲の良いおじさんから恋人を追い出そうと計画する『リトル・エッラ』が4月5日(金)より全国の劇場で公開中。今回、来日中のクリスティアン・ロー監督にインタビューを行った。
映画『リトル・エッラ』は、スウェーデンの絵本作家ピア・リンデンバウムによる「リトルズラタンと大好きなおじさん」を映画化。人と仲良くするのが苦手なエッラが唯一心を許すことができるのは、大好きなおじさんトミーだけ。両親が休暇で出かける間、エッラはトミーと一緒に過ごすのを楽しみにしていた。ところが、オランダからトミーの恋人スティーブがやって来たことで、夢の1週間は悪夢のような日々に一変。トミーとスティーブは英語で話すため、エッラは彼らが何を話しているのか全くわからず、のけ者にされたような気持ちになってしまう。どうにかトミーを取り戻したいエッラは、転校生オットーの力を借りてスティーブを追い出すための作戦を企てるが…
本作で長編映画デビューを果たしたアグネス・コリアンデルが主人公エッラを愛らしく演じ、『マスター・プラン』のシーモン・J・ベリエル、『長くつ下のピッピ』のインゲル・ニルセンが共演。『ロスバンド」のクリスティアン・ロー監督がメガホンをとった。
ノルウェー出身・在住のクリスティアン・ロー監督。今回、スウェーデンで本作を撮ったが、両国について「とても似ている国で、ほとんど言語も一緒なんです」と説くと共に、極僅かな違いとして、フィーカと呼ばれるコーヒーブレイクを挙げる。甘いお菓子を食べながらコーヒーを飲む時間であり「スウェーデン人はフィーカが大好き。昼休み以外にもフィーカの時間を設けるのは、ノルウェー人とは違う」と指摘。監督自身は、スピーディーに仕事をこなすが「今回は、フィーカにかなり引きずられたところがあります」と打ち明けた。
本作の原作である「リトルズラタンと大好きなおじさん」については、映画化以前から「この絵本自体が非常に素晴らしい」と聞いており、実際に読んでみて「本当にこれは素晴らしい」と実感。原作で描かれている嫉妬の感情について「全ての人間が持つ感情だ」と受けとめ「嫉妬を描くことに非常にやりがいを感じました。友情をテーマに描かれていることも素晴らしい」とお気に入り。映画化にあたり「絵本のスタイルや登場人物を大切にしよう」と心掛けた。とはいえ、原作は30頁の絵本であり「映画化する上では追加しなければならない様々な要素がある」と認識しており「例えば、アクションシーンやカーチェイスのシーン等を付け加えました。また、原作にはないオットーという役を作り出しました。あとはユーモア、様々ないたずらといったものを映画化において追加しました」と明かす。劇中では、エッラが様々ないたずらを仕掛けており「靴の上に塩をかけるシーンは原作にもありました。付け加えたシーンとしては、ネズミのシーン、コーヒーにお塩を入れちゃうシーン、スティーブの髪の毛を切ってしまうシーンは自分たちで考えました」と説明。トミーとスティーブがエッラのいたずらを受けることになるが「彼等は忍耐強くて我慢できる人ですよね」と苦笑しながらも「私達は、子供を叱りつけるよりも、穏やかに話をする文化があるかもしれません。ただし、彼等のように優しく接することができるか、は別問題ですね」と冷静に話す。また、本作では多様性に関する描写もあるが「トミーには男性の恋人が存在していることを極々自然に描いており、気に入っている。それを映画の中でも活かしたい」と心掛けていた。
本作を含め4本の映画を手掛けてきたクリスティアン・ロー監督は「若い観客を非常に大事にしている。そして、若い観客が好きである。若い観客が経験する映画体験はとても強い意味がある」といった思いをとても大事にしている。監督自身が「阻害感を感じている登場人物を描く傾向がある」と認識しており、小学校時代は「自分の居場所はここにはない」と感じていた。この感覚について「『ロスバンド』では、4人のキャラクターそれぞれが様々な問題を抱えている。だけど、彼らは一緒にバンドを組み、友達として問題に立ち向かい乗り越えていくことを描きました」と述べ「『ロスバンド』でも『リトル・エッラ』でも、友情について描いた映画だと言える」と説く。
『ロスバンド』も『リトル・エッラ』も『リトル・ミス・サンシャイン』からインスピレーションを受けていたり、『ロスバンド』は『セッション』からも影響を受けている監督。幼かった頃は『グーニーズ』やアストリッド・リンドグレーンの作品がお気に入りで「長靴下のピッピ」が特に気に入っている。本作では、おばあちゃん役を演じるインゲル・ニルセンが実写版「長靴下のピッピ」でピッピ役を演じたので「彼女に演じてもらうのは、すごく素晴らしいこと」と感激していた。「幼い頃に観たスウェーデンの児童映画は最高の作品」と印象深く「私がスウェーデンの子供映画を撮ることができたのは素晴らしく名誉なこと」と感慨深げだ。日本映画では、スタジオジブリの作品を気に入っており「特に『となりのトトロ』と『千と千尋の神隠し』が大好きです。今回、妻と娘と共に来日したんですが、三鷹の森ジブリ美術館に行きました」と話してくれた。
なお、ノルウェーでは、映画を活用した教育も盛んだ。小学校や中学校では「カルチャースクール・リュックサック」という取り組みがあり、子供達が様々な分野の芸術家達に出会える機会が設けられている。『リトル・エッラ』も、様々な町の映画館で上映され、子供達が観客として鑑賞し、Q&Aの時間を設け語り合った時間もあり「子供達が様々な芸術家や芸術表現に出会える機会を持てることは、大変エキサイティングなことだ」と受けとめていた。その後、高校ではメディア学科があり、リレハンメルには国立の映画大学があり、国家として積極的に取り組んでいることが伺えた。
映画『リトル・エッラ』は、4月5日(金)より全国の劇場で公開中。関西では、大阪・心斎橋のシネマート心斎橋や京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開中。また、4月20日(土)より神戸・元町の元町映画館でも公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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