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凄い才能を見つけて日本映画界をおもしろくしていきたい…!『ビューティフルドリーマー』本広克行監督に聞く!

2020年11月11日

撮ろうとすると必ず恐ろしいことが起こるという、いわくつきの映画作りに乗り出した大学の映画研究会の部員メンバーたちの奮闘を描く『ビューティフルドリーマー』が、11月6日(金)より全国の劇場で公開中。今回、本広克行監督にインタビューを行った。

 

映画『ビューティフルドリーマー』は、映画を撮ったことのない映画研究会のメンバーが、“いわくつきの台本”の映画化に挑むさまを描く。文化祭の準備に追われる熱気あふれる先勝美術大学の校内で、映画を撮ったことがない映画研究会の部室だけはいつものようなまったりとした時間が流れていた。「教室の片隅に何かある」という不思議な夢を見たサラは、本当に古いダンボールを見つけてしまう。箱の中に入っていたのは、古い脚本と演出ノート、そして1本の16ミリフィルムだった。しかし、それは「撮ろうとすると必ず何か恐ろしいことが起こる」という、映研に代々伝わるいわくつきの台本だった。
本作は、『踊る大捜査線』シリーズや『サマータイムタイムマシン・ブルース』の本広克行監督が、押井守原案のストーリー「夢みる人」を映画化。本広監督、押井監督、小中和哉監督、上田慎一郎監督によって、かつて実験的、芸術的な映画の製作・配給を行ったATG(日本アート・シアター・ギルド)に影響を受け発足した実写映画レーベル「Cinema Lab(シネマラボ)」の第1弾作品。『イノセント15』『聖なるもの』などで主演を務め、自身も映画監督として活躍する小川紗良さんが主人公のサラ役を演じる。

 

映画やドラマで様々なことをやりつくした実感がある本広監督。されど「自分が映画を撮ったりドラマを演出したり出来たのは、引っ張ってくれた先輩達のおかげ」と恩があり「今度は、僕等が先輩にならないといけない」と認識。『踊る大捜査線』シリーズが終わる頃から「ビッグバジェット作品は二度と撮れない。現場プロデューサーだけでも10人いる。それを回せていたので、もう終えてもいいな」と達成感があると同時に「後輩の羽住英一郎や小泉徳宏がヒットメイカーになってきた」と俯瞰する。「日本映画界はもっと育てるべき監督がいるはずだ」と確信していくなかで、山田洋次監督と出会い「昔は黒澤さんや小津さんが映画のサロンを作っていた。そこから新人を抜擢しながら、映画の文化度を上げていた」と教えてもらう。そこで、初めて現役の監督が主導する映画祭「さぬき映画祭」を起ち上げた。これを契機として以降、プロデューサーや俳優も各地で起ち上げていく。監督は7年間も故郷で開催し、様々な方を呼んで若手をプロデューサーに会わせて仕事が得られる機会を作り、各地で良い環境が出来上がっていた。そして、今回、中規模バジェットの作品によるレーベル「Cinema Lab(シネマラボ)」を始動。大林宣彦監督から「昔のATGのような作品をもう一度作れ」と云われ「尊敬している方達に云われたことを実践し、若者達を盛り上げていこう」と発起する。まずは、第一弾として、押井守さんに本作の原案となる脚本を書いて頂いて2年もかけて作り上げた。元々は、軽音楽部の子達が毎日を何度も前日に戻ってしまうストーリーだったが、予算に嵌らないと判断し「自分も所属していた映研なら出来るかな」と検討。同時期に小川紗良さんに出会う。早稲田大学で是枝裕和監督のゼミ出身であり、女優としてだけでなく監督としての評判を聞き「彼女でないと監督役のエチュードが出来ない」と直感。連絡し直ぐに本作への出演を快諾してもらった。なお、キャスティングは、全員にオファーする形式を採っており「『サマータイムマシン・ブルース』や『幕が上がる』はずっと愛される作品になっていく。皆で考えながら作った作品は愛情深い」と唯一無二の作品にキャスト・スタッフ総出で仕上げている。上京してくる監督や俳優達に対しても「覚悟を持って出てきているので、根性が据わっている。これから大変だと思うけど、今の状況をどう乗り越えていくのか。映画作りだけでなく、その後の面倒も見ていきたい」と後世の育成を中心にしており、今後が楽しみだ。

 

たたみかけるような会話が多い本作。戯曲的とも云えるが、2003年に本広監督が劇団「ヨーロッパ企画」の「サマータイムマシン・ブルース」と出会ったことが大きい。「初めてあんな集合体に出会い、ビックリしました」と印象に残っており、現在も付き合いが続いている。当時、東京で「サマータイムマシン・ブルース」の舞台を見て衝撃を受け、直ぐに映画化をオファーした。すると「京都に来ませんか」と云われ、当時のプロデューサーと2人で伺い、当時は大学生だったメンバー全員で接待してもらう。「皆で焼き肉を食べ、夜中にユルい肝試しをして、始発まで様々なことをした。学生時代を思い出した」と懐かしみながら「人を自分のテリトリーに入れて、そこから様々な会話が生まれたり皆と話せる環境を作ってくれた」と感謝している。その後、ヨーロッパ企画は映画祭を起ち上げており、彼らの姿を見て監督も映画祭を起ち上げた。「アイデアの素はヨーロッパ企画ですね。上田誠さんが書く戯曲はドラマや映画の人には書けない」と脱帽しており、本作に出演している藤谷理子さんについても「ヨーロッパ企画が可愛がっている妹的存在。彼女は別格」と絶賛する。

 

元々は、平田オリザさんの「現代口語演劇理論」を知り、平田さんが主宰する劇団「青年団」の世界に没頭し、2010年には舞台『演劇入門』の演出を担当するまでに至った本広監督。エチュード(即興)には慣れており「停滞しているシーンはエチュードを取り入れ、おもしろくしている」と説く。今作では演出のテクニックを全て伝えており「書かれた台詞を的確に云うのもおもしろいが、”こんな台本なのに、こんなにおもしろく出来るの!?”を目指したい」と述べ「台本よりおもしろくなったな。若者の言葉は体の動かし方によって発せられる言葉が違ってくる」と力説。今までの映画ではガンマイクで収録していたが「最近はワイヤレスマイクが全員に付いているので、若い録音部が全てをミキシングする。若い技師を育てると共に、彼等が自信を持って次に大きな作品にチャレンジしていける」と太鼓判を押す心持ちだ。また、メタ構造を採り入れた作品を好んでおり「どんでん返しが大好き。演劇での空気が変わる雰囲気は映画では出来ない」と憧れも抱いている。本作は実験映画であり、出来るだけ様々な要素を入れ込んでおり「調べれば調べる程に深く潜っていける。押井さんはアニメで初めてメタ構造を実現させた人。学生時代に衝撃を受け、押井信者になった」と明かす。さらに「押井守さんも演劇から影響を受けている。深く知っていくうちに、寺山修司さんの作品を読んだり映像を見たりした」と回想しながら「作品を深く考えることはおもしろい。起承転結がある作品をしっかりと作り込んだうえで、さらにもう一つひねってみる」と実験的要素を見出している。

 

かつて、日本アート・シアター・ギルド(ATG)が作品の構造を破壊するような映画を次々に世に放っていった。翻って現在の映画業界では「メジャーな配給会社では許されない。メタ構造を取り入れても拍子抜けになってしまう」と鑑みながらも「今回、どれだけ出来るか実験してみた。ここから、どういう風に映画は変わっていくのかな」と期待している。されど「人に伝わらないと駄目。こういうメンバーを起用してアート系に偏ると酷い目にあう」と認識しており「ある程度は、よく分からなくても、盛り上げていけるように作った」と冷静に話す。現代の日本映画について「おもしろい映画の要素にはATGの影響が大きい」と実感しており「映画作家が何を考えているか表現出来る場所があった方が良い」と考えている。だからこそ「Cinema Lab」の今後を楽しみにしており「皆がやりたがっている。この企画を育てていきたい。出資したい人はいるので、うまく運用していければ、日本映画界がまたおもしろくなってくる」と期待は大きい。「既存のメジャー映画やインディーズ映画での手法以外にもやり方がある。皆さんが語り合う場を映画祭で実現できたので、こういう志向になっていった」と振り返り「作った人同士はあまり話さないので、映画祭を良きサロンの場にしていきたい。どうやったら皆が交じり合うのか。凄い才能は無茶苦茶いますので見つけていきたいですね」と今後の展望を熱く語って頂いた。

 

映画『ビューティフルドリーマー』は、11月6日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮の シネ・リーブル神戸をはじめ、全国の劇場で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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