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”やめた”と思うことで気持ちが軽くなって毎日を生きられる…『友達やめた。』今村彩子監督に聞く!

2020年11月11日

映画『Start Line』でコミュニケーションの壁にぶち当たる自身の姿を捉えた今村彩子監督が、アスペルガー症候群の友人“まあちゃん“を映し出したドキュメンタリー『友達やめた。』が関西の劇場でも11月13日(金)より公開。今回、今村彩子監督にインタビューを行った。

 

映画『友達やめた。』は、『Start Line』『珈琲とエンピツ』などのドキュメンタリー映画を手がけてきた、生まれつき耳の聞こえない今村彩子監督が、アスペルガー症候群の友人との関係について考え、カメラをまわしたドキュメンタリー。今村監督の友人まあちゃんは、空気を読みすぎて疲れてしまい、人と器用に付き合うことができないアスペルガー症候群。一方、ろう者の今村監督も、理解があるような顔をしながら内心では悶々としたものを抱えていた。そんな2人の仲が、ふとしたきっかけでギクシャクしたものになってしまう。2人がこれからも友だちでいるためにはどうすればいいか、カメラを回しはじめた今村監督だったが、たどり着いたのは「友達やめた」という結論だった。障害を抱えた2人のやりとりを通しながらも、誰もが経験したことのある人間関係のすれ違いなどを描き、異なるバックグラウンドをもつ人とどのように共存するかという本質的な問題と向き合っていく。

 

前作『Start Line』では、旅を通して自身の抱える問題を直視するドキュメンタリーを制作した今村彩子監督。「恥ずかしかったですよ。これを公開したら私は結婚できなくなるな」と思う程に自暴自棄であったことを自認していた。されど「様々な方や会社が自転車での旅を応援してくれたので、絶対に映画にしないといけなかった。映画がなかったら、さらけ出せなかった」と顧みている。本作では、友人のまあちゃんに出演してもらうことについて断られると想定していたが「テーマは何?」と聞かれ「私の葛藤」と伝えたら「おもしろい」と言ってもらい、撮影することが出来た。

 

まあちゃんと親しくなった時に「お互いに良い友達になれて嬉しかった」と実感すると同時に「次第に一緒にいる時間が長くなると、ビックリすることやイラっとすることなど様々な感情が出てきた」と告白。「まあちゃんはアスペルガーだからこうなるのかな」と捉え「私が我慢すればいい」と自らの感情を整理していた。「耳が聞こえないという意味では、数が少ない立場」だと認識していたが「まあちゃんといると、私は”一般の人”と云われた。マイノリティだと思っていたけど、まあちゃんから見たら私はマジョリティなんだな」と気づかされ「私は我慢しないといけないかな」と考えを改めていく。とはいえ「私も人間なので爆発してしまう」と気づき「葛藤を通してまあちゃんと仲良く出来るかな」と閃いて映画制作に至った。

 

自らの葛藤を撮る作品であるため「まあちゃんと関係が悪くなり葛藤する時が映画としては見どころ。監督としては撮った方がいい」と考えているが「監督である前に、まあちゃんの友達としては会いたくない。とにかく離れたい」という葛藤を抱いてしまう。「でも映画にしないといけない。でも撮れない。どうしたらいい」という葛藤もあり「その気持ちは、その時しか記録できない」と自らを認め、日記に全ての感情を書き、作品内でも映し出していく。前作でも日記に感情をぶちまけ映し出しており「家族には恥ずかしくて日記を見られたくないけど、全く知らない人だったら抵抗はあるけど大丈夫」と冷静な心持ちだ。

 

2年間に及ぶ撮影後、『Start Line』の時と同じく山田進一さん共に構成を考えながら編集していく。山田さんは「アスペルガーがよく分からない」と云っており「映画を観る人も、アスペルガーを知らない人の方が多いから、まずはアスペルガーを分かりやすくした方がいいんじゃないか」とアドバイス。監督自身は、アスペルガーによって引き起こしていると感じる行動にカメラを向けており、次第に「私は何を撮っているんだろう。まあちゃんを撮っているつもりが、アスペルガーを撮っている」という違和感が沸き上がっていく。しかし、まあちゃん自身も「どこからがアスペルガーで、どこからが性格なのか分からない」と云っており、アスペルガーについて拘ることを断念。山田さんと相談しながら、慎重に編集作業を進めていった。まあちゃんに対する意地もあったが「もしかしたら、まあちゃんが途中でやめてほしいと云うかもしれない」と気遣い、今作に関しては「完成し、まあちゃんが”いいよ”と云うまではSNSで告知しなかった」と明かす。まあちゃんの承認を得て無事に公開を迎え「今も喧嘩はしますが、映画に出てくるような喧嘩ではないです。お互いの距離感を分かっている。私も自分のものさしがあります」と良好な関係が続いていることが伝わってくる。

 

既に公開されている劇場のお客さんからは「次第に自分にも当てはまる。あるある、と感じて、おもしろい」と云われ、嬉しかった。当初は「女性二人の友達の物語として観てほしかった」と明かすが「次第に自身を重ねて観てくれている。誰にでも当てはまる内容なんです」と改めて解説。学校の先生が観ており「発達障害の子供達と毎日接していると疲れてくるので、映画を観た後に”先生やめた。”(本当はやめていないけど)と気持ちが軽くなった」という感想や、発達障害の息子を持つ難聴の父親から「息子とうまくコミュニケーションがとれなくて、”父親やめた。”と思ってもいいんだ、と思うようになった」と聞き「やめた、と思うことで気持ちが軽くなるんだな。私も軽くなった。毎日を生きるためには、一度は”やめた。”と思うことがあってもいいのかな」と考えられるようになった。「内容は違うけど、”やめたい”と思いながら、皆が頑張っている」と知り、コミュニケーションに関する大事な作品が出来たことを大切に感じている。

 

映画『友達やめた。』は、11月13日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、11月14日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。

 

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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