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夫婦の最期を親密なものとして描きたかった…『VORTEX ヴォルテックス』ギャスパー・ノエ監督に聞く!

2023年12月6日

ある老夫婦の最期を描く『VORTEX ヴォルテックス』が12月8日(金)より全国の劇場で公開される。今回、ギャスパー・ノエ監督にインタビューを行った。

 

映画『VORTEX ヴォルテックス』は、『アレックス』『CLIMAX クライマックス』等で知られるフランスの鬼才ギャスパー・ノエ監督が、認知症の妻と心臓病の夫が過ごす人生最期の日々を、2画面分割映像による2つの視点から同時進行で描いた作品。「病」と「死」をテーマに、誰もが目を背けたくなる現実を冷徹なまなざしで映し出す。心臓に持病を抱える映画評論家の夫と、認知症を患う元精神科医の妻。離れて暮らす息子はそんな両親のことを心配しながらも、金銭の援助を相談するため実家を訪れる。夫は日ごとに悪化していく妻の認知症に悩まされ、ついには日常生活にまで支障をきたすように。やがて、夫婦に人生最期の時が近づいてくる。ホラー映画の名匠ダリオ・アルジェントが夫役で映画初主演を果たし、『ママと娼婦』等の名優フランソワーズ・ルブランが妻、『ファイナル・セット』のアレックス・ルッツが息子を演じた。

 

今回、初めての来阪となったギャスパー・ノエ監督。今まで30回以上も東京に来ているが、その度に「大阪の人達は、ラテンっぽさがあるから、きっと気に入るよ」とずっと言われ続けてきた。キャンペーンの対応等で慌ただしいが、趣味の映画ポスター収集に合わせてお薦めのお店を聞いたり、作品作りの参考となるような風俗店街のお薦めも聞いたりしている。

 

死期が近い夫婦について描いた本作。ノエ監督は、10年前に母親を認知症が故に亡くしており「私の腕の中で亡くなった。実際に経験してみたが、現実は映画で描かれている死と全く違っていた。ゆっくりと進行していき、最終的には、解放されていくようだった」と体感。死を映画で描くならば「ポジティブでドラマチックなものではなく、自然の一環として死を描きたい」と考えていた。2022年には、監督にとって近しい人が数人亡くなっており「私の映画に初出演してくれた俳優が亡くなったり、彼女の父や親類がコロナや癌等で亡くなったりしているのを見て、死は近しいものになってきた」と実感すると同時に「自分と死の関係性が平穏なものになってきた」と受けとめている。なお、ヨーロッパの病院では、亡くなる前に感じる痛みを軽減するために、モルヒネが処方されており「モルヒネを摂取すると、痛みは甘い刺激になる。ケタミンとモルヒネを半々で処方し、亡くなっていく人は苦しまない。麻薬を摂取しているのと同じような感覚になり、ハッピーな気持ちになって亡くなっていく」と説き「家では、化学物質による助けがなく、苦しみながら亡くなっていくこともある。結局は、病院で亡くなった方が良いのではないか」と持論を展開した。

 

ロケーションに関して、キャスティングする前の段階でプロデューサーと話しており「ロックダウン中は、撮影すること自体が難しい。一ヶ所だけで撮影が完結し、登場人物が2,3人程度の作品なら撮影できることなった。高齢化や認知症になる登場人物の物語に関する構想は既にあったので、10頁程度の脚本を書いて、直ぐに撮影可能だった」と振り返る。直ぐにロケーションを探していく中で、アパートの空き部屋を見つけ「不思議な雰囲気があり気に入った」と即決。そして、一緒に仕事をしているアートディレクターの方と打ち合わせした後、キャスティングが決定した。最初にフランソワーズ・ルブランにオファー、相手役にはダリオ・アルジェントが合っていると判断し、ローマに伺い交渉している。キャストが決まることで職業も決まり「映画評論家を演じるなら、部屋の中にポスターや書物を置く必要があった。ポスターに関しては私のコレクションが大量にあるが、そのまま使うと無くなる恐れがあるので、コピーを作成し使用した。書物はレンタルで集めて使っている」と十分に配慮しながら、セットを組み立てていった。4週間で時系列順に撮影し、部屋が次第に酷い状態になっていき「モノが増えたり、ゴミが放置されたりして、本当に人が住んでいるかのような状態になった。匂いも酷くなり、最後は、ゴキブリを放つことも提案があったが、フランソワーズが『絶対にダメ』と言って、無くなりました」と苦笑い。だが、撮影現場は常にコロナ禍に伴う緊張感があり「マスクは勿論、距離も保たないといけない。事前にワクチン接種もしたが、それでも、現場で感染した方もいた」と打ち明けながらも「緊張感の中で撮影したので、撮影後は誰も残らず、9時から17時までしか撮影していない」と健全な労働環境になったようだ。

 

スプリットスクリーン(2画面構成)を用いた本作。ノエ監督は既に『ルクス・エテルナ 永遠の光』でも用いており、10頁程度の短い台本によって構成されている今作をどのようにして作るか考えた時に「夫婦がそれぞれの孤独と向き合っていく姿を表現できる。また、同じ場所にいるにも関わらず、全く繋がっておらず、次第に離れていくことを描くためには、このギミックが合う」と着想。映像化してみると「観ている段階で分かりやすいものになっていたので、この手法を選んで良かった」と手応えがあった。時系列順で、2台のカメラを使って2人を追いながら撮影しているが「最初のシーンは1台のカメラで撮影している。このシーンだけは、全ての撮影が終わった最後に撮影している」と明かす。フランソワーズ・ルブランから「自分の頭がおかしくなる前の撮影もしたかった」という声を聞き、ダリオ・アルジェントに「もう1日だけ残ってほしい」と伝えた上で撮影しており「2人は同じ世界に住んでいて、一緒にいることを表現するために、最初のシーンが撮影した」と説明する。

 

「人生は夢の中の夢」という台詞が作中に登場する。これは、エドガー・アラン・ポーが用いた有名な言葉であるが「様々な人が言っているけど、多くの人はオリジナルが分からずに使っている」と指摘。ダリオ・アルジェントが演じる映画評論家が、別の映画評論家と執筆中の本について電話で喋っているシーンの中では即興で話しており「映画の中で夢が言語としてどのように機能しているか、を話してもらった。ダリオからこのフレーズが発せられた」と述べ「時系列順で撮影しており、このシーンの編集後に、本作冒頭のシーンを撮影することになった。ダリオのフレーズが気に入っているから『もう一度言ってほしい』と伝えた」と明かした。なお、ダリオ・アルジェントは「フェリーニかベルトルッチみたいな夢を見ない」と話しているが、ノエ監督は納得がいかず「ダリオはベルトルッチと友人関係にある。そこで、語感やリップシンクが”溝口健二”に似ているので、撮影が終わってから、”溝口”と言ってもらい、音声を差し替えた」と告白する。また、夢に関しては「毎朝起きる時は、夢から目が醒めているようだけれども、これから起きて14時間の夢を経験して、また眠りにつくだけなのではないか、と本気で思っている」と興味深い解釈を話してもらった。

 

夫婦2人がそれぞれ迎える最期について「夫の場合、自らが望んだものではなく、喜ばしいものではない。妻に関しては、自ら望んだ結果によるもの。想定通りにならなかったとしても、似たような出来事が起きていたかもしれない」と捉えており「次はもっと大変なことが起き得る可能性がある中で生きているので、彼女は自覚があってもなくても、最後を望んでいたのではないか。劇的なことは起こらず、自然な出来事としてドラマチックに描こうとはせず、親密なものとして描きたかった」と話す。そこで、映画『アウェイ・フロム・ハー君を想う』を例に挙げ「50代の女性が若年性アルツハイマー型認知症になり、夫が妻を施設に入れる。とある女性が、映画を観て泣いたと聞いたが、若年性はよくあることではないから、ドラマチックだと思う。それに比べたら、老人の認知症はドラマチックなものではない」と説く。「この映画は、事実に基づいて作られているわけではない。だが、実際に起こったことは少しずつ散りばめている」と明かし「私は若かりし頃の父親と似ているので、認知症を患った母親は、私を目の前にして父親の名前を呼んでいた。そういった想定外の出来事をおもしろく感じてしまう。私が20代の頃には、母方の祖母が認知症となり、(短い記憶しか保てないため)挨拶しに行く度に別人を装って話してみた。いろんな人と話している気分で楽しそうだった」と自身の体験を微笑ましく語ってもらった。なお、映画評論家の夫役をノエ監督自身が演じる案について聞いてみると「今なら若過ぎる」と即答したが「ダリオのキャラクターは私の父親と似ている雰囲気がり、喋り方や仕草も似ている。私が80歳になった時、似ている部分が現れるかもしれない」と可能性を示唆する。とはいえ「ダリオとは話し方の違いはあるけれども、私が80歳になった時、この映画のリメイクをする気は無いよ」と否定した。

 

映画『VORTEX ヴォルテックス』は、12月8日(金)より全国の劇場で公開。関西では、12月8日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や奈良のユナイテッド・シネマ橿原、12月15日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都や神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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