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戦争映画ではなく、普遍的な人間ドラマを美しく撮りたい…『未来は裏切りの彼方に』ペテル・マガート監督に聞く!

2023年4月13日

第二次大戦中のナチス・ドイツに対する民衆蜂起を背景に、軍需工場で繰り広げられる愛憎劇を描く『未来は裏切りの彼方に』が4月14日(金)より全国の劇場で公開。今回、ペテル・マガート監督にインタビューを行った。

 

映画『未来は裏切りの彼方に』は、ナチス・ドイツ支配下のスロバキアで起きた民衆蜂起を背景に、軍需工場のある小さな村で生き延びるため奔走する男女の運命を描いたサスペンスドラマ。第二次世界大戦末期のスロバキア第一共和国。歩兵部隊のジャックは仲間たちが楽しむ娼館を抜け出して軍を脱走し、流産したばかりの妻エヴァのもとに帰ってくる。エヴァは傲慢な男バールが独裁経営する軍需工場で働いており、ジャックも脱走兵であることを隠してその工場で働き始める。一方、戦後の工場経営に危機感を募らせたバールは、注文確約の条件として役人ハナーチェクの愛人と結婚することに。その愛人は、ジャックが脱走した娼館にいた美女キャットだった。『ザ・クーリエ』のアリシア・アグネソンがエヴァ、『リジェネレーション』のラクラン・ニーボアがジャックを演じた。デブリス・カンパニーの舞台劇「EPIC」を元に、本作が長編デビューとなるペテル・マガート監督がメガホンをとった。

 

プロデューサーであるブラノ・フルピックの兄弟である、カメラマンのユライ・フルピックがデブリス・カンパニーの舞台劇「EPIC」がお気に入りであることから始まった本作の企画。だが、コンテンポラリー・ダンスの舞台作品であるため「ターゲットになる方々が小さい、マーケットが小さい、観客が少ない、という現実があり、そのまま上映するつもりはない。劇映画に変えて制作しよう」とペテル監督は企画していく。とはいえ「自分達が体験しないことを体験した人達を裁く権利は他人に或るのか」というテーマを気に入っており「音楽は作曲家のヴァルゲイル・シグルズソンが関わっており、国際的なプロジェクトにしよう」と着手。また、ストーリーに関して「世界中のどこであっても物語なら人々は理解できる。何かを語る時には、世界中のどこでも分かってもらえるべきであることは大事である。それを美しく撮ろう」と普遍性がある作品を目指していく。なお、第二次世界大戦末期のスロバキアが舞台であるが「元々は、第二次世界大戦をコンセプトの中心にしたわけではありません。他の様々な戦争であっても通用するストーリーにしよう」と企画していた。故に、歴史的背景としては、史実に必ずしも忠実ではなく、フィクションも含まれており「どちらかといえば、様式化したかった。普遍性が高まるように、様式的に語ろう」と取り組んでいる。一方、スロバキアは第二次世界大戦の負の部分から抜け出せていない部分や過去を清算できていない部分があり「当時のスロバキアの時代を扱うことは興味深く、この時代を設定しました」と説く。

 

キャスティングにあたり「スロバキアは小国であり、俳優の人数が少なく、マーケットも狭い。EU全体で普遍的で影響力がある映画を撮ろうとしたら厳しい」と認識しており、キャスティング・エージェントのナンシー・ビショップと共に取り組んだ。どんな役柄なのか時間をかけて話した上で、ビデオを添えた候補者リストを送ってもらい「エヴァ役のアリシア・アグネソンは、ドラマ「バイキング」に出演しており、最後の候補者だった。結果的に、彼女と仕事が出来て良かった」と満足している。他のメイン・キャラクター達も同じように選び、他の脇役や端役に関しては、以前に仕事をした方やロンドン在住時に映画以外の現場で知り合った方に出演頂いており「結果的に良い作品に繋がりました。今でも連絡を取り合っており、是非メインの俳優達とはまた仕事がしたい」と良い機会となった。

 

撮影が行われたのは、スロバキアのケメル地方(鉱山があった地域で、以前は豊かだった。鉱山が閉山して以降、貧しくなってしまった地域)。不思議な雰囲気があり、以前も撮影した経験があり「映画の画として興味深い地域なので、また機会があったら戻りたい。ロケ地としてまず訪れる地域だ」と話す。工場を中心とした撮影にあたり、カメラマンのユライ・フルピックと共にユニークかつリアリティあるロケーションを探していく中で、歴史的背景があり技術的で文化的な遺産に注目。撮影現場となった工場は山中にあり、第一次世界大戦から社会主義の時代にかけて操業されていたが、現在は閉鎖され高速道路等への接続がない場所だったことから、制作陣に強い印象を与えた。撮影を敢行するタイミングとして、出来るだけ曇った時期が続くような季節を選んで撮影しており「一番日照時間が短い季節、気に葉がない季節、おどろおどろしい雰囲気を出すために、シーンの緊張感を高めるために、この時期を選んで撮影しました」と明かす。撮影日数が短く、俳優の皆さんに集中して頂く必要がある中で、マイナス13℃から5℃の気温の中で撮影しており「俳優の皆さんはそれぞれ違う国から来て頂き、撮影準備をしっかりとしていた。寒さとの戦いが厳しい中で、俳優の皆さんに完璧な演技をして頂き、順調に進行しました」と感謝している。なお、中央・東欧のソ連寄りの国であるスロバキアで育ったスタッフ達論には理的に当たり前のことであっても、アメリカやイギリスで活動している俳優にとっては違っていたことが所々あり「全体的には普遍的なストーリーを目指したので、該当するようなシーンは少なかったですが、文化の違いを感じるシーンがありました」と実感していた。また、俳優達は頭の良い方が多く、中には政治学を専攻していた方もおり「撮影から離れたところでもディスカッションが沢山行われており、自分達が文化の違い等で学ぶところが多く、興味深かった」と感心。特に、工場を経営するバールについて「ケメル地方は、第一次世界大戦前や戦中にドイツ系の方が沢山おり、工場を建設していくことでスロバキアの発展につながった。一方で、外国から上の立場の人が入って来ることで軋轢もあった。そういった信頼できる歴史的背景を本質的に表現できる」と皆の議論が大いに役に立った。

 

編集にあたり、大衆的作品よりゆっくりとしたテンポで構成しており「それが普遍性や大きなマーケットから外れてしまうことは承知していました。美しいビジュアルの画を見せて楽しんでほしい」と望んでいる。あくまで、本作は人間ドラマであり、戦争映画にしていない。ドラマの中にある感情を味わえるテンポを大事にしており「最初の編集版ではさらに長い作品でした。その後、プロデューサーとの話を経てから、メインストーリー以外の部分を削ぎ落していき、2人の主人公に集中できるように編集しました」と振り返る。そして、スタッフとキャストの皆で一緒に試写室で最初のテロップを観た瞬間に「完成した」と実感。同時に「その瞬間からミスや不足している部分が残っていると分かっていても、作品を羽ばたかせないといけない」と使命感を持って観客に届けている。

 

映画『未来は裏切りの彼方に』は、4月14日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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