時代が変わっても、人間の純粋なものは変わらない…『華の季節』片岡れいこ監督に聞く!
山本周五郎さんの「菊千代抄」を、明治初めの京都を舞台にして、切なくも華やかに繰り広げる長編純愛ロマン『華の季節』が10月13日(金)より関西の劇場で公開される。今回、片岡れいこ監督にインタビューを行った。
映画『華の季節』…
男として育てられた華族の娘・珠緒。その愛と葛藤の青春を瑞々しく描く、不朽の名作が京都・亀岡を舞台に蘇る。家訓の為に男として育てられた華族の娘・珠緒。勇ましくあろうとする珠緒に、母親は冷たく、幼い頃から傍らにいた10歳年上の家庭教師・晃士郎だけが心を許せる友となっていた。しかし、初潮とともに自分の本当の性を知り、信じていた晃士郎に対し困惑の念を抑えきれなくなり…
男でもなく、女にもなりきれず、性の狭間で苦悩する思春期の珠緒を、16歳の新人女優・松本杏海が体当たりで挑む。そして、全てのロケを行った京都・亀岡の、美しい自然と現存する歴史的建造物たちも見どころ。京都の街に現存するありのままの建物と自然の中で、山本周五郎原作・歴史ロマンを麗しく再現した。
原作である「菊千代抄」を20年以上前に知った片岡さん。とある方から山本周五郎さんの小説を紹介され、短編集の中に「菊千代抄」があった。山本周五郎さんの様々な作品が映像化や舞台化されているが、「菊千代抄」が原作となった作品はなく「ほかの作品にはない感動があった。なぜ映画化されていないんだろう。是非とも映画化したい」と決心。だが、当時は映画監督業には就いておらず「いつか手掛けたいな」と切望していた。デザインや版画、出版の仕事もしていく中で、映画業界の入り口にようやく辿り着く。10年前頃、映画のワークショップ等を受講し、映画関係の人と知り合ってみたい、と活動し、5年前には「私が撮りたいと思っている3つの映画がある」と発信し、その中には「菊千代抄」も含まれていた。文化庁の支援も受けられ、一作ずつ実現しながら、今作も実現でき「映画化は奇跡の連続だった。自分が意図してない、何か違う力で引っ張られて実現したような感じがしてならない」と自身でも驚いている。
2022年1月1日、文化庁の支援を受けられることになり、4月にはクランクインする必要があった。脚本化にあたり、まず清水正子さんに全体的なストーリーを書いてもらうことに。セット等の予算を考慮し、江戸時代を舞台にすることは難しく、明治時代の初期に置き換え、武士の名残による封建的な社会風土をベースにし、女性が男性として育てられてもおかしくないように思える時代設定にした。 どんな服を着ているのか、どんな習慣があるのか、京都の施設等で撮影出来るんじゃないか、と検討。また、明治時代ならではの男っぽい名前を入念に考え、”珠緒”に決めた。なお、原作では、晃士郎と触れ合う描写が多く、映画では最小限にしており「重い雰囲気がある映画になってほしくない。自分らしさを取り戻して終えるには、どうやって表現したらいいか」と熟考。「女の花を咲かせる意図を持たせるために『華の季節』という題名にした」と説くが「華やかな題名だけども、最後まで華やかさがずっとない。映像ならではの表現方法を以て実現させたかった。花をモチーフにし、二人を繋ぐ一つのアイテムとして表現したかった」と述べ、小説には書かれていないシナリオとして苦心している。
キャスティングにあたり、ほとんどの役をオーディションによって決定した。珠緒役の松本杏海さんは、前作『ネペンテスの森』にも出演している。「前作では、飛び込みオーディションで参加して頂いた。目がパッチリしていて印象的だった。前作は食虫植物の妖精役として出演して頂いた。今回は難関な役であり性的な表現もあるので、彼女に声をかけなかった」と明かしながらも、オーディションに再び飛び込み参加してもらっており「平等に審査した結果、やはり彼女が合っていた」と実感。台本の読み合わせでは、最初は普通の声であったが、男っぽい太い声にすることを意識してもらうことをお願いし、松本さんなりに作り上げてもらった。男性としての振る舞いにも十分に気をつけてもらっている。晃士郎役は、オーディションでピッタリな方が見つからず「小説の中では、端正な顔立ちと書いてある。そこで、演技も安定している難波江基己さんに出てもらった」と明かす。なお、ヒロイン役よりもお父さん役の方が競争率は高く、その中では杉本栄二さんが一番安定していると共に迫力もあった。珠緒の幼年期でのお父さんも演じる必要があり、50歳迄と年齢を設定して募集したが、杉本さんが58歳だったことが分かり、若作りして黒く塗り事無きを得ている。撮影現場では、スタッフがやるような仕事もしてもらっており、片岡監督も感謝していた。お母さん役の中村寛子さんは、初監督作品『人形の絵』では主役を担っており「今回、お母さん役として良い演技して頂いて、嬉しかった」と喜んでいる。
ロケーションを決めるにあたり「京都だから、当然いっぱいあるだろう」と想定していたが、実際に探してみると、どこも撮影では難しかった。偶然にも亀岡に縁があり、相談してみることに。亀岡にはフィルムコミッションがあり、東映や松竹の作品が撮影していることもあり、撮影だけじゃなく今も使われている武家屋敷が残っている。今回、フィルムコミッションに撮影場所を紹介して頂き「映画で使ってくれはんねんやったら嬉しいわ、どうぞどうぞ。歳事や法事等がない時だったら全然大丈夫です」と快く承諾頂いた。セットやスタジオを使わずに撮影できており「文化財があることを亀岡の人は全く知らない。映画は有名になっていますが、亀岡は全然知られていない。映画としての知名度が上がれば、文化財の保存に公共団体の方々が注力し文化を守って頂けるようになったら、もっと京都も発展するのにな」と期待している。
今回、前作から引き続き、監修・撮影・編集として『拳銃と目玉焼』『ごはん』の安田淳一さんが携わった。制作プロダクションのワークショップで出会っており「私は、純粋な作品が好きなんです。私が幼い頃に観て感動した映画は、純粋な映画だったんです。表現したい内容に一番近かった。カメラの撮り方も自然で好きだったんです」と思い返し、今作でも、安田さんに依頼している。編集作業において「作り手の思いが一番表れるのはラストシーン」と断言し、ラストシーンには拘った。細かく指示しており「演出で思い通りに出来た時は本当に良かったなぁ。現場では偶然が多いんです。偶然にも雨が降ってきたんです。この映画は守られて応援されてきたような気がします」と感慨深げだ。
いよいよ劇場公開される本作について「お客さん達が様々な観点で何かを感じていただければ。多様性等に興味を持って頂いても嬉しい。何かを感じ取って頂くことは、私の意図するところを超えている範疇。映画とはそういうもの」と冷静に捉えており「時代が変わり、複雑な趣向がありますが、人間の純粋なものは変わらない、とずっと伝え続けたい。古典作品が、今の時代に作られて上映され、純粋なものに触れていただければ作った意味がある」と願っている。
映画『華の季節』は、10月13日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、10月14日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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