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純粋な気持ちで作られた自主映画を最初から最後まで丁寧に観て反応することが大事!「ぴあフィルムフェスティバル」荒木啓子ディレクターに聞く!

2022年12月9日

“映画の新しい才能の発見と育成”をテーマに、自主映画のコンペティションである「PFFアワード」や国内外の多彩な映画の特集を行う映画祭「ぴあフィルムフェスティバル」。今回、ディレクターの荒木啓子さんにインタビューを行った。

 

自主映画のコンペティション「PFFアワード」は、1年以内に完成した自主制作映画であれば、年齢、性別、国籍、上映時間、ジャンルを問わないコンペティション。映画監督の登竜門として知られ、これまでに170名を超えるプロの監督を輩出してきた。今年は520本の応募作品から16本が入選。最終審査員による審査を経てグランプリほか各賞が授与された。

 

1977年に始まった、日本で一番古い”映画祭”である「ぴあフィルムフェスティバル」。名前にあるように、「ぴあ」という雑誌の創始者たちが、欧米の映画祭を視察して学んだ“映画祭”のかたちに、自分たちのこだわってきた日本独自の映画文化である自主映画を組み込んでスタートした。荒木啓子さんは1990年より本映画祭に携わっている。1992年からは、初の総合ディレクターとして「映画祭がどういうものであることが理想なのか」と総合的に追及しており「ディレクターという役職名だが、監督というよりプロデューサーに近い」と説く。「何を上映するのか。誰を招くのか。どんな言葉で、どんな印刷物を作るのか、映写のクオリティや会場の設定はどうするか」など、映画祭をトータルプロデュースする立場だ。

 

「PFFアワード」では、1作品についてセレクションメンバー4名で観る一次審査から始まる。昨年までは、1作品を3人で観ていたが、人数が多いほど対話が拡がるのではないかと、4人で観ることに変更した。「とにかく最初から最後まで絶対に切らないで観ることが義務になっている。選ぶ、というより、ちゃんと自主映画を観ることが大事」だと述べ「応募料(3,000円)を頂いて『観てほしい』という意思を受け取ったからには、作品をちゃんと観なければいけない。そして、絶対にコメントを書きましょう。とにかく、反応しましょう」と徹底している。4人の様々な反応があり「皆が同じような感想を持たない。映画の受けとめ方は、人によってバラバラ。その反応を受け取ることで、つくり手は、自身が一体何を作りたいのか考えるきっかけになるのでは」と監督が変化していく機会にもなっていく。現在における映画監督の育て方について「映画学校が急激に増えた21世紀ですが、制作の際にはクラス内で監督が選ばれることが大半。監督志望者の全員が監督経験を持てるわけではない」と指摘し「自分で映画の腕を磨いていくには自主映画という方法がある。そこから生まれた映画に大切なのはリアクション。映画祭は映画にリアクションする場所をつくるという役割がある」と力説。とはいえ「PFFアワード」はコンペティションであり「当落の出るのがコンペティション。しかし、応募作品をどれだけ丁寧に観るかを最優先にしている。実は全作品にコメントを送るという目標はディレクター就任以来の念願だったのだが、完全達成されたのは、今年が初めて。執筆いただくセレクション・メンバーの皆さんには、毎年深く感謝している」と表した。

 

4人でしっかりと鑑賞した後には一次審査会議を開く。4人で鑑賞した作品の中から「これは絶対に残して皆に観てもらおう」と考える作品を選考していくが「”絶対に残したい”と4人が一致する作品は少なく、1人しか推さない作品が出てくる」というのが現実だ。そこで、4人だけで会議するのではなく、2,3人は該当の作品を観ていない人を加えており「皆の話を聞きながら、”おもしろそう、観ましょう”と言いたくなるシステムにしている」と明かす。荒木さんは、この会議の進行から参加する。10年前までは最初からセレクションに参加していたが、他のメンバーからの進言を受け、一次審査会議から関わるようになった。会議中に強く推す人がいて気になった作品や、セレクション・メンバーたちが、一次審査通過作品を観た中で「コレが通過しているならコチラも推したい」という、ボーダーとなった作品を伝えてもらい、漏らさないように荒木さんが防波堤の役割となって100時間を超える時間をかけて多くの作品を観ている。そして、二次審査会議では、18人のセレクション・メンバー全員で鑑賞し、最終的に入選作品を2日間の会議で話し合う。声が大きい人や、多数決で決めることをしないために「どうすれば自分が良いと思っている作品を推せるのか、テクニックに長けた人が推した作品が残っていきがちになる会議を避けるために2日間かける。初日の夜に一度ヒートダウンしてもらい、上手く言葉が出なかった人が2日目には話せるようになる」としっかりとした話し合いが出来る仕組みを毎年模索している。とはいえ、あらゆる人が良いじゃないかと思える作品と、1人しか推さない作品が出てくるが、荒木さんが会議を思い出しながら、入選候補作品を再度全て鑑賞し、最終的にプログラムを決めていく(今年、セレクション・メンバー1人あたりの審査時間は、一次審査が約75時間、二次審査が約50時間に及んだ)。セレクション・メンバーは、過去のメンバー経験者に相談して打診している。「ずっと同じ方ではなく、多彩な人たちを交代していきたい。出来るだけ応募者に近い年齢の20~30代の人達を入れていきたい」という意向があり「自主映画を知らない人がやるのは大変すぎる。自主映画は粗を探すとキリがない。人の作りたい気持ちを分かる人じゃないと辛い。ジャッジしたい人には向かない。」と判断。そこで、経験者に「あなたが信用出来て、審査に興味がある人を教えてくれないか」と伝え、推薦してもらった上で依頼してきた。

 

応募要項同様、入選作品に関して、特定のジャンルは決めておらず「劇映画もドキュメンタリー映画も良い作品があれば入選する。こういう作品が欲しいんじゃないか、という映画祭側の希望があるのではないかと考える人もいるようだが、それは全くない」と断言。毎年、完全に白紙状態で作品を観ており「凄い!と思える作品が残っている。どこまでも作品の力。更に、スクリーンで上映して初めて見えてくるものがありますから、映画祭上映時に、新たな発見をしてビックリする映画もあります」と振り返る。今年は、コロナ禍による影響もあり「時間に余裕が出来て『今まで憧れていた映画を初めて作ろう』という人が出てきたのが大きな変化。今じゃないと起きないことですよね。映画学校に行ってない人や、全く別のジャンルの人が映画を作ったのはおもしろい」と興味津々。入選作品の『Lock Up and Down』を監督したMinamiさんから「文章で論文を書いていたが、映像を使うと物凄く伝わりやすいという衝撃を受けて、映像の力を勉強したくなった」と聞き、荒木さんは「映像で伝わる情報量は確かに膨大。社会学や文化人類学等を通して人間について観察していたら映画にしたくなる人は増えてくるんじゃないか」と察する。翻って「映画制作には特別なスキルが必要だ、という固定概念を飛び越え、新しい人が出てくる。学問の中から語るべきことがある。YouTubeで世界中の映画制作術が学べる。映画学校は難しくなっている」と危惧していた。

 

グランプリ含め各賞は最終審査員が選んでおり「私達は賞を決められない。入選作品全てがどれが賞を取ってもいいと思っているラインナップ。賞は誰かに決めてもらわないといけない」と表す。5人の最終審査員は毎年変えており「出来るだけチャンスを広げたいので、力になってくれる人に出来るだけ出会ってほしい」と願っていると同時に「様々なクリエイターに実際にPFFを体験してもらいたいので毎年変えている。この人がおもしろい、と云うんだったら、私も次はやってみたい、と他のジャンルの方が現れたら嬉しい」と未来に広がるように考えている。また「おもしろい映画を作る人が続いていかないと映画業界が終わってしまう」と危機感があり「みんなどんどん海外にも向かってほしい。その第一歩として、海外の映画祭にPFF関係の映画を紹介し続けているし、最近盛んになっている映画祭の企画マーケットやワークショップへの紹介も続けている」と次の世代を作るための努力は欠かさない。「必死に作っている人達のために、と考えていたら、いい加減なことは出来ない。皆、切実だから」と実感しており「とにかく、多くの人が作品をみること、反応することが、つくり手を変えることをずっと見てきた。受賞による変化も劇的な時があるけれど、ちゃんと観るということの力はすごい」と振り返る。実は入選しなかった作品を思い出すことの方が多く「つくって良かったと思える結果になるために映画祭に何ができるのか」が常なる課題だと認識し「『人をちゃんとみつめる』というのは、映画で最も重要な部分。しかし、日常生活ではとても蔑ろにされていることなので、全人類が一度は映画を撮ればいいと密かにおもっている。作品を完成させた人には、敬意しかない」と表明。

 

なお、「PFFアワード」受賞者には、PFFスカラシップへの挑戦権が与えられる。新たに挑戦するコンペティションであり「自分の企画をプロデューサー達の前でプレゼンしないといけない。今度は、作品ではなく監督自身が選ばれる。さらに過酷なチャレンジだが、自分の作りたいオリジナル映画が作られる生涯最後のチャンスかもしれない」と示す。「スカラシップに選ばれた監督の意志を汲み取り、制作体制をつくる。人によってスキルも時間感覚も大切にすることも全く違うので、対応できるか。それが私達の仕事」だと認識しており「映画制作会社を運営しヒット作を作る為に映画祭をやっているのではない。成功者を輩出したいのではなく、それぞれの人に向いた映画があるんじゃないか」と追求し続けているシステムである。本年度は、『わたしたちの家』で「PFFアワード2017」のグランプリに輝いた清原惟監督が異例の5年をかけて制作した『すべての夜を思いだす』がいよいよプレミア上映され、今後は劇場公開に向けて動いていく。

 

現在、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで「シネ・ヌーヴォ PFF 祭り」が開催されており、スカラシップ最新作の『裸足で鳴らしてみせろ』『猫と塩、または砂糖』、大阪にゆかりのある監督たちの過去PFFスカラシップ作品より『二十才の微熱』『空の穴』『川の底からこんにちは』、PFFアワード2022受賞作品7作品、青山真治監督追悼上映『路地へ 中上健次の残したフィルム』『赤ずきん』、そしてピーター・バラカン氏セレクトの音楽映画シリーズ「ブラック&ブラック」より『ザ・ビッグ・ビート:ファッツ・ドミノとロックンロールの誕生』の計14作品一挙上映している。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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