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三好達治がDVに陥ってしまう背後にある最大の暴力装置として戦争がある…『天上の花』片嶋一貴監督に聞く!

2022年12月9日

太平洋戦争に翻弄されるも詩に生きる萩原朔太郎と、朔太郎を師と仰ぎその妹に思いを寄せる三好達治を描く『天上の花』が全国の劇場で順次公開中。今回、片嶋一貴監督にインタビューを行った。

 

映画『天上の花』は、萩原朔太郎の娘である萩原葉子の小説「天上の花 三好達治抄」を映画化した文芸映画。萩原朔太郎を師と仰ぐ青年の三好達治は、朔太郎の末妹である慶子に思いを寄せるが拒絶されてしまう。十数年後、慶子が夫と死別したことを知った三好は、妻子と離縁して彼女と結婚。太平洋戦争の真っただ中、三好と慶子は越前三国でひっそりと新婚生活を送り始めるが、潔癖な人生観を持つ三好は、奔放な慶子に対する一途な愛と憎しみを制御できなくなっていく。東出昌大さんが三好達治、入山法子さんが萩原慶子、吹越満さんが萩原朔太郎、漫画家の浦沢直樹さんが詩人の佐藤春夫を演じ、原作者である萩原葉子の息子である萩原朔美も出演。『火口のふたり』の荒井晴彦さんが五藤さや香さんと共同で脚本を手がけ、『いぬむこいり』の片嶋一貴さんが監督を務めた。

 

1937年(昭和12年)に起きた盧溝橋事件によって中国との戦争が始まる時期に、戦争に翻弄される個人や社会の世相に関する映画を撮りたい、と構想していた片嶋監督。モチーフとなる戯曲があり、荒井晴彦さんに相談してみると、「天上の花」について提案され「僕がやりたかったテーマがこの中に全て入っている」と気づき、映画化を熱望。既に、荒井さんと五藤さんの2人で5年間かけて作り上げた脚本が既にあり、映画化するには長かったことを受け、脚本に関する打ち合わせを行い、今作に向けて作り上げていく。なお、企画展「萩原朔太郎大全2022」と連動する体制となったのは、本作完成後。企画展の存在を知らずに制作しており、原作者は萩原朔太郎さんの娘である萩原葉子さんであり、著作権を持っているのは、萩原朔太郎さんのお孫さんである萩原朔美さんであるため「朔美さんと様々な話をしていく中で、映画化についてお願いし一緒にやることになった。偶然の出会いが重なり、この映画が出来上がった」と説明。萩原朔美さんは劇団「天井桟敷」の創立時メンバーでもあるため、出演もお願いしている。

 

キャスティングにあたり、以前から、東出昌大さんという俳優について「どこか茫洋として、演技能力も定かでない。妙なおもしろさや可能性があるな」と映画やTVドラマを観ながら気になる存在だった。「演技は一直線だが、それが持ち味だから、全面に出るような三好達治になれば」と期待してキャスティングしており「彼は非常に真面目で、研究熱心で様々な本を読んだ上で、意見をぶつけてきた。そうやって一緒に三好達治を作っていった」と振り返る。入山法子さんについては、キャスティングをしている知り合いから紹介を受けたが「和服の似合う女優がいる、と聞いた。会ってみると、可愛らしい良い子だった。この良い子が、高慢ちきで性格の悪い慶子を演じられるのか」と不安だった。そこで、リハーサル段階で十分に話し合っていき「次第に慶子が憑依していった。最終的に演技が出来上がった」と手ごたえを感じている。監督自身は、三好達治に気持ちが寄っており「彼女の演技によって僕自身がイラつく、ということが重要。OKを出した後に、本当に酷い女だったな、と確認しながら撮っていた」と述べ「酷い女になってもらわないと、達治も怒らない」と監督としての見解を表す。

 

撮影は、新潟県柏崎市に拠点を据え、10Km圏内で撮影している。最後の1日は群馬県安中市で撮影しており「安中市に鉄道博物館があり昔の車両があると共に、廃線で雰囲気の良いトンネルがあった」とお気に入り。三好達治と萩原慶子が越前三国で暮らしたのが、初夏の5月から翌春の3月までの10ヶ月間だが「撮影は11月上旬。雪が全くなく、苦肉の策でトンネルの外側だけ塩を撒いたり綿を置いたりスノーマシーンで雪を降らせて雪景色を作った。実景だけ雪景色のある季節を撮りに行って編集で混ぜ合わせた」と明かす。本作の中で否が応でも印象に残る暴力シーンの撮影に関して「実際のアクションというより、2人の俳優の気持ちが大事」と捉えており「東出が達治の気持ちになって、ぎりぎり理性でコントロール出来なくなるような瞬間にまで持っていって、法子も立ち向かっていくからこそ、達治のコントロール出来ないところが出て来る。その気持ちの在り方がしっかりと成立すれば、自然と手が出てしまう」と受けとめている。3人で考えながら芝居を作り上げており「何度も気持ちを持ち上げて演じられるものではない。クライマックスは1シーン1カット。リハーサルでは抑えて、本番では1発OKで撮りました。終わった後、法子は雪の上で寝転がって倒れて起き上がれなかった。そこでクランクアップした」と達成感が大きい。

 

編集段階では、編集マンと最初に打ち合わせをして、監督の意向を全て伝え、繋いでもらったものに対してコメントしていって完成させていった。途中からはプロデューサーも参画し、喧々諤々の議論の末、編集がまとまっていく。「エモーショナルなシーンは僕と編集マンの間である程度は成立させていく。本作の特徴である詩をどのように挿入していくか難しかった」と振り返り「この映画では詩が重要な役割を演じている入れ方によっては印象が大きく違っていく。文字が出ないで詩を役者が読むパターン、文字が出るだけのパターン、文字が出て役者が読み上げるパターン、の3種類あり、シーンによって変えていった」と説く。ある程度纏まってくると、1本の映画になっていきながら、手応えを感じられた。

 

出来上がった本作に関して、関係者による試写を行い、賛否両論で様々な意見があったが「僕の映画はいつも賛否両論なので慣れている。嫌な気持ちになりながらも、様々に考えさせられる、という反応もあった」と監督自身は冷静だ。劇場で鑑賞するお客様に向けては「戦争の中で生きていくことが、達治がDVに陥ってしまう。その背後にある最大の暴力装置として、戦争がある。暴力は否定していかないといけない。自ら克服していかなければならない。そういったことを考えるきっかけになるような映画になれば」と期待している。

 

映画『天上の花』は、全国の劇場で順次公開中。関西では、大阪・十三の第七藝術劇場や神戸・元町の元町映画館でも近日公開予定。

文芸作品を映画で表現する難しさを感じた。半世紀前に記された小説を現代の感覚で捉える難しさなのかもしれない。東出昌大さん演じる三好達治が暴力を伴って入山法子さん演じる慶子に執着する描写は、役者の存在感の相まった強い印象を残す。戦争、冬、古びた家、田舎という閉塞感に達治と慶子があるのではなく、それらは達治と慶子の諸関係の苛烈さの舞台装置であり、戦争など起こっていないかのような錯覚さえ覚える。

 

劇中を通して達治の満たされない歪な愛を見つめる観客は、描かれた時代以上に分別ある時代を生きており、社会問題としてのDVを想起せざるを得ない。観客の現代性は、肉体と精神の両面で慶子を追いこむ達治を恋愛映画の主人公から乖離させる。まるでモンスター視点のモンスター映画を見ている気分だ。しかし、本作はモンスター映画のようにそれを打ち倒す誰かは存在せず、観客の感情は達治からひとりモンスターに対峙する慶子に移っていく。モンスターの内面を主体的で描いているような抵抗を覚える反面、そういったものには抗いがたい魅力が秘められているようにも思えた。

fromにしの

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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