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自分の手から作品が離れていった瞬間、泣き崩れてしまった…『海抜』高橋賢成監督に聞く!

2020年2月19日

学生時代のとある事件に関わった人物たちと当事者たちのその後の姿を映し出す『海抜』が関西の劇場でも2月22日(土)から公開。今回、高橋賢成監督にインタビューを行った。

 

映画『海抜』は、第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に史上最年少の22歳で招待された高橋賢成監督のデビュー作。浩は高校時代に中学校の同窓生同士で起こった強姦事件を目の当たりにしながら、何も出来なかったという過去があった。そんな過去から目を背けたまま、浩や事件の当事者たちの時間が流れていった。あの事件から数十年、忘れたかった過去が浩の人生に大きくのしかかってくる。城西国際大学メディア学部生の卒業制作として撮影され、主人公の浩役を演じた阿部倫士をはじめ、当時全員大学生のキャスト、スタッフで制作された。ドイツで開催された第19回ニッポン・コネクション日本映画祭のニッポン・ヴィジョンズ部門で最高賞となる審査員賞を受賞している。

 

映画監督になりたくて城西国際大学に入学した高橋さんは、1・2年生では今後の必要性を感じCGを学ぶ。だが、全然役に立たないと気づく。当時から学内で自主制作映画を撮っており、どういう撮り方をすれば一番満足できるか理解していたので、3年生からは、映画の美術で有名な金田克美先生のゼミに所属し、美術を中心に学んでいく。卒業制作では、MVやアニメションを作る人がいれば卒論を書く人もおり、皆が映画を作るわけではなかったが「僕は卒業制作で映画を撮りたい」と決め、60分越えの長編映画の製作に挑んだ。学内コンペでは苦汁を飲んだが、田村太一さんと名取佳輝さんを中心とした数少ないメンバーで制作に邁進。とはいえ、完全な自主制作であり、卒業制作と銘打っていても、単位が出る保証がない。後輩や就職活動を終えて時間に余裕がある人達等からキャストとスタッフを集めて撮影した。

 

卒業制作以前、高橋さんは社会性がありながら型にとらわれないエンターテインメント作品を制作しており、今作は、その反動で撮った作品。ノーリスクで撮れる最後の長編映画であると認識し「学生だし、仮に失敗しても大丈夫。ならば、自分が今まで避けてきたリアリティのある人間ドラマをやっておくべきだろう」と思い切って取り組んだ。ゼミの金田先生には一番最初に脚本を見せたが、意外性のある反応もなく「僕はノージャンルで撮ってきたので、様々な作品の中の1本だと捉えられた」と理解している。強姦事件を扱った作品であるため、本を読んだり取材をしたりしており「スリラーというエンターテインメントに近い描き方は出来ない。この題材を作品にしたい思いが強くなり、改めて脚本を白紙にして書き直しながら難産の末生まれた」と振り返った。

 

撮影は神奈川県葉山町の海岸や、埼玉県の朝霞市や和光市で実施。撮影・照明・録音スタッフは、別の卒業制作チームから、一度は一緒に制作したことがある女子が参加してくれた。だが、予算のあるチームとは違い手弁当で参加してもらい、出来る限り車を使わないようにしており、スタッフ同士の衝突等、揉め事も度々起きてしまう。高橋さんは演出しながら予算管理もしており、収拾をつけるのも大変だった。また、海での撮影は晴れの予定だったが、あいにく雨が降ってしまう。海小屋は海岸まで資材を持ちこんでセットを建てており、撮影後は暗闇の中を車のテールランプで照らしながら泥塗れになって運ばざるを得なかった。だが、結果的に「ストーリーに合わせた情景描写に富んだシーンが撮れて功を奏した」と満足している。

 

苦労を重ねた末に完成した本作。実は、高橋さんが脚本を書いて想像通りになったシーンは1カットもない。卒業制作以前の作品では撮影も担当していたので、今作では他のチームからスタッフが参画したことで、想定以上の出来栄えとなった。特に、撮影の終盤では役柄が浸透しており、カットバックで撮影した最後の会話シーンは喋り出しのタイミングが一致しており「自分がコントロールしていないにも関わらず、上手くハマっている。自分の手から作品が離れていった瞬間」だと気づく。2週間で仕上げた編集作業は切羽詰まった缶詰め状態だったため「ラストの会話シーンの編集は泣きながらやっていた。改めて観ても、自分で撮っているにも関わらず最後は涙腺が緩んでしまう」と告白。本作における普遍的なシーンであり、一番のお気に入りであるシーンとなった。

 

なお、『海抜』というタイトルだが、海から見た陸地の高さを意味する(標高は、陸地から見た海の深さを意味する)。「一方から見た高さや尺度は、浩から見た理恵に対する申し訳なさや不甲斐なさと重なってくる」と捉え、本作について「トータルで考えると理恵の物語。被害にあった彼女の人生を主題にするべき作品」だと解説。傍観者の浩を主人公据えた話として構成された作品だが「浩は浩なりに理恵に対して考えていることがずっとあったが一方的でしかない。理恵は不幸になっていると思ってしまうが、理恵は理恵の人生を生きようとしている。辛い過去を克服していなかったとしても、なんとか昇華して前に進もうとしている」と高橋さんは真摯に話す。「僕は映画監督が生業だと云えるようになったら、逆の視点による作品を撮りたいですね。逆の立場でストーリーを作るにはかなりのエネルギーが必要になる。今の実力では想像でしか描けられず地に足のついた作品にならない。傍観者の立場つまり自分自身で語っている」と感じており「彼女の人生を描けるようになったら是非とも制作したい。二本で一本の映画が完成する仕組みはやってみたいですね。心に留めて、いつかは撮りたいストーリーだった」と未来に目を輝かせながら語っていた。

 

映画『海抜』は、2月22日(土)より、大阪・九条のシネ・ヌーヴォXで公開。2月22日(土)と2月23日(日)には、高橋賢成監督と主演の阿倍倫士さんによる舞台挨拶を予定している。また、3月20日(金・祝)より3日間限定で神戸・長田の神戸映画資料館でも公開。なお、京都・九条の京都みなみ会館でも近日上映予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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