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日本の文化が徹底的に破壊されない限り、”部落差別”は無くならない。でも、変えられるかもしれない…『私のはなし 部落のはなし』満若勇咲監督に聞く!

2022年5月18日

“部落差別”の起源と変遷、今なお残る差別の現状に迫ったドキュメンタリー『私のはなし 部落のはなし』が5月21日(土)より全国の劇場で公開される。今回、満若勇咲監督にインタビューを行った。

 

映画『私のはなし 部落のはなし』は、日本に根強く残る「部落問題」を題材にしたドキュメンタリー。かつて日本には「穢多」「非人」などと呼ばれる賤民が存在した。1871年に明治政府が発した「解放令」により賤民身分は廃止されたものの、それ以降も彼らが住んでいた地域は「部落」と呼ばれ、差別構造は残り続けた。現在、法律や制度上は「部落」「部落民」は存在しないが、少なからぬ日本人が根強い差別意識を抱えている。映画では部落差別の起源・変遷から現状までを描き、積み重なった差別の歴史と複雑に絡み合った背景をひも解いていく。監督は、屠場とそこで働く人々を捉えたドキュメンタリー『にくのひと』で第1回田原総一朗ノンフィクション賞を受賞した満若勇咲さん。『なぜ君は総理大臣になれないのか』の監督である大島新さんがプロデュースを手がけた。

 

同和教育に関する授業を受けた覚えがあまりない満若さんは、『にくのひと』を制作した時に部落問題をはっきりと認識した。当時までは、部落問題について口にするのを憚られる感覚もなく「だからこそ制作できた」と振り返る。本作においても「遠い射程の問題ではなく、意外と身近にある問題である」ということは伝えたいことの一つだ。「タブーにふれる」という感覚も好まず「それを規定しているのは誰なんだ。タブーであるという声をそのまま追随することが差別構造に加担しているのでは?」と疑問を呈す。自身について「仮面を被ってコミュニケーションをとるのが苦手。変化球を投げられない。直球勝負でしか人間関係を築けない」と述べ、今作では部落問題に対して真正面から取り組んだ。

 

2016年、「復刻版 全國部落調査」に関する事件が起きた時、同じタイミングで満若監督は「部落問題に関する映画を作ろう」と決心。「これは現在進行形の問題。被告である宮部さんが解放同盟から抗議されている内容は、かつて『にくのひと』を撮った時に自分が抗議された内容は、地名を明らかにしているという点では重なるところがある」と気づき、関心を持って取材を始めた。とはいえ、裁判については法廷を撮ることは出来ず、どのような作品にするべきか模索する日々が4年間も続いていく。偶々、大島新さんと出会い「俺がプロデュースをやる」と言ってもらい「これは作品にせねば」と自身へのプレッシャーをかけ、本格的に撮影を始めた。

 

取材にあたり、人との出会いを大切にしており「今回、メインとなる三重県の松村さんは、全國部落調査に関するイベントが大阪で開催された時に登壇した際に出会った。話している時の雰囲気や内容が素晴らしく、魅力的な人だった。声をかけて関係性を作っていき、最終的には彼の地元を取材することになった」と振り返る。基本的には、会った際に「良いな」と感じた人とのつながりで取材相手が決まっていった。なお、「復刻版 全國部落調査」に関する裁判で訴えられた宮部龍彦さんにも電話してアポイントメントをとって取材している。部落問題に関する映画と制作するにあたり「まずは部落差別を残してきた日本人の漠然とした意識を撮りたい。被差別部落の人達を描くのは大前提であるが、外部からの視点も欠かせない。共に描かないと、部落問題を残してきた意識を描けない」と認識し「日本人の意識を描くためにも、宮部さんを撮っている」と説く。勿論、取材拒否受けたり、途中で断念したりした方もいるが「多少なりとも発生すること。大きな問題ではない」と話す。

 

部落問題を映画として描くにあたり「どのようにすれば、目に見えず映像化しづらい部落問題を映画として描くのか」とアイデアや演出する方法を熟考した満若監督。「話すことは、映画化するにあたってあり得る方法論」だと捉え、撮影を始めて以降は「アイデアを思いついたら、撮っていこう」という方法論を以て撮っていった。完成形が見えない中での撮影は大変であり「部落問題には長い歴史があり、起承転結がある一般的な物語の構造にはならない、と最初からわかっていた。どうすれば、部落問題を捉えた興味深い映画が出来るのか」と手探り状態に。編集段階でも最終的な完成形が見えておらず「本当におもしろい映画になるのか」と葛藤の上で制作している。最初は、3時間の作品として仕上げたが「丁寧に作らないと、伝わらないことがある。今回、差別意識を描いているので、慎重に作らないといけない。出演者の感情や言葉を丁寧に説明していかないと伝わらない。3時間バージョンではカットしたシーンがあり、読後感があまりない」と納得がいかず「時間を延ばして、見せるべきシーンはしっかりと見せていくと、映画としての強度が増す」と信じ、最終的に205分の長さがある作品として完成させた。なお、ポストロック/インストゥルメンタル・ロック・バンドであるMONOが本作の音楽を担っており「唯一好きな日本のバンド。以前、彼等の番組を作りたくて、コンタクトを試みていた」と明かし「今回の映画は、自分の中では集大成でもあるので、ダメもとでお願いしたら、二つ返事で応じて頂いた。1週間後、全11曲が届いた」と喜んでいる。

 

今なお根強く残っている部落問題について、満若監督は「映画を作るにあたって、これは“ことば”の問題だと仮定して、日本人の心の中にある“部落問題”を描いた。だから、日本の文化が徹底的に破壊されでもしない限り、“ことば”を壊すのは難しい。でも“ことば”の価値を変えることは出来るかもしれない。そこに部落問題を解決する方法があるかもしれない」と考えており「また現実的には、“部落”を無くすのではなく、どのように残していくか、という課題がある。」。興味深い部落史から日本の姿を受けとめ「今でも根底に流れているのは明治維新後の近代の価値観がベースにある。近代以降に作られた部落差別が未だに残っているならば、日本人の意識は地続きである」と語った。

 

映画『私のはなし 部落のはなし』は、5月21日(土)より全国の劇場で公開。関西では、5月21日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場や心斎橋のシネマート心斎橋、京都・烏丸の京都シネマや九条の京都みなみ会館で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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