ソ連崩壊後のロシアで、高熱にうなされる男が妄想と現実の狭間を行き来する『インフル病みのペトロフ家』が関西の劇場でもいよいよ公開!
(C) 2020 – HYPE FILM – KINOPRIME – LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – RAZOR FILM – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA -ZDF
インフルエンザに罹った主人公が、子供時代のソビエトの記憶へと回帰していく様を描く『インフル病みのペトロフ家』が5月6日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『インフル病みのペトロフ家』…
2004年、ソ連崩壊後のロシア。大都市エカテリンブルグでインフルエンザが流行する中、ペトロフは高熱にうなされ、妄想と現実の間をさまよっていた。やがて彼の妄想は、まだ国がソビエトだった頃の幼少期の記憶へと回帰していく。ロシア社会への強烈な風刺を込めつつ、妄想と現実の境界が曖昧な原作の世界観そのままに、型破りな芸術的感性と刺激的なアクションを散りばめて描き出す。
本作は、『LETO レト』など映画監督としても注目を集めるロシア演劇界の鬼才キリル・セレブレンニコフが、ロシア文学界でセンセーションを巻き起こしたアレクセイ・サリニコフのベストセラー小説を映画化。2021年の第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、フランス映画高等技術委員会賞を受賞した。
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映画『インフル病みのペトロフ家』は、関西の劇場では、5月6日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田と京都・烏丸の京都シネマで公開。また、神戸・元町の元町映画館で近日公開。
監督のキリル・セレブレンニコフは、ロシアともども我々の生きている世界から追放されようとしているロシア映画をそこに踏みとどめる存在になるだろう。
セレブレンニコフが映画で表現した人間と社会は、19世紀のペトログラードを幻想とグロテスクで描いた文豪ニコライ・ゴーゴリのようだ。主人の顔から飛び出して役人を気取る鼻や通り魔的にコートをはぎ取る下級役人の幽霊等を作中に登場させ、現実の醜悪さをナンセンスに描いたゴーゴリ的ユーモアを受け継いでいる。そして、現代ロシアを鋭く観察するユーモアは、深刻な病に侵されたロシア社会をインフルエンザの高熱によるペトロフの空想と彼が関係するあらゆる人間に仮託していた。空想と現実が物語の視点とともに激しく移り変わる構成だが、すべてが関係性の線でつながれてゆく。その線は時代を難なく飛び越える。ソビエト時代の建前社会、ソ連崩壊直後の混沌と無秩序、そして現代ロシアの迷宮的な閉塞、ペトロフがインフルエンザになるより前から、社会はずっとインフル病みだ。
プロパガンダの沼に沈みゆくロシア映画であるが、本作のようなロシア的な幻想文学とユーモア感覚を持ち合わせた映画がこの世相に上映されるのは奇跡に近い。このような映画がもう撮られないのではないかと思うと、少し悲観的な気分になる。
fromにしの
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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