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荒唐無稽な設定と状況によるフィクションを作るはずが、ノンフィクションになってしまった…『N号棟』萩原みのりさんと後藤庸介監督を迎え舞台挨拶開催!

2022年4月29日

幽霊が出るという噂に、興味本位で廃団地を訪れた大学生3人が、不思議な現象を目撃・体験したことで、混乱していく様を描く『N号棟』が4月29日(金)より全国の劇場で公開。初日には大阪・難波のなんばパークスシネマに萩原みのりさんと後藤庸介監督を迎え舞台挨拶が開催された。

 

映画『N号棟』は、『成れの果て』『街の上で』の萩原みのりさんが主演を務め、2000年に岐阜県富加町で起きた「幽霊団地事件」の実話をモチーフに描いた都市伝説ホラー。とある地方都市にある、かつて心霊現象で話題となった廃団地。死恐怖症を抱える大学生の史織は、同じ大学に通う啓太や真帆と興味本位でその廃団地を訪れる。そこにはなぜか多くの住人たちがおり、史織たちの前で激しいラップ現象や住人の自殺が続発。しかし住人たちは顔色ひとつ変えず、怯える若者たちを仲間にしようと巧みに誘惑してくる。神秘的な体験に魅せられた啓太と真帆は洗脳され、追い詰められた史織は自殺者が運び込まれた建物内へ入り込むが……。共演は『フェイクプラスティックプラネット』の山谷花純さん、『夏、至るころ』の倉悠貴さん、『淵に立つ』の筒井真理子さん。『リトル・サブカル・ウォーズ ヴィレヴァン!の逆襲』の後藤庸介が監督を務めた。

 

今回、上映後に萩原みのりさんと後藤庸介監督が登壇。ホラー映画ならではの撮影現場の壮絶な雰囲気が伝わってくる舞台挨拶となった。

 

劇場公開初日を迎え、萩原さんは「初日を迎える日が来ないんじゃないか」と撮影現場で思っていたことを振り返る。完成したことにも驚いており、初号試写を観た時に「映画って完成するんだな」と実感。「お客さんに観てもらえる日が来るんだな」と不思議な感情が湧いていた。台本を読んだ時から「何だコレは!」と驚き、撮影現場では更に「何だコレは!」と驚き続け「コレどうやって撮るの?」と不思議になることに沢山遭遇してしまう。台本には、住民みんなから蹴られる、といったト書きがあり「え!コレどうやって撮るんだろう」と思っていたら、更に大変なことに。撮影中に「この撮影は撮影じゃないのかもしれない」と次第に捉えるようになり「皆が本気で私のことを蹴りたくて蹴っているんだ」と考えるようになってしまい、精神がボロボロの状態になってしまう。さすがに、後藤監督も「そんなわけないでしょ」とツッコミを入れる。萩原さんは「監督もずっとこの笑顔でドンドン追い込んでくるから、救いがない。救われないからこそ史織が追い詰められていくから仕方ないんですけど」と理解しながらも「史織として追い詰められれば追い詰められるほど萩原みのりがボロボロになっていってドンドン顔色も悪くなっていくし、クライマックスで死にたくないって叫んでいるシーンはほぼ記憶がないので、大変でした」と振り返った。後藤監督は「追い込んだつもりはないんですけどね」と伝えるが、萩原さんは「それが一番怖いですね」と指摘。後藤監督は「楽しくやっていたんです」と言わざるを得なかった。監督としては、初日を迎え「困難もありましたので、凄く嬉しいです」と安堵し「よく分かんないな、と思うようなシーンをどう思われるか不安はあった。少なくとも、みのりちゃんの生き様が映し出されているだけで一見の価値がある」と話す。

 

出演作品について、萩原さんは「自分が演じた役の感情でしか作品を観ることが3年間ぐらいは出来ない。客観的に見れない」と述べ、本作においても「史織としてしか見れない。ずっと同じようなタイミングで涙が出てくる。苦しいタイミングは演じていた時の気持ちをなぞるしか出来なかった。現場では何日もかけて撮るので、何日も苦しかった」と打ち明ける。完成した本作を観て、撮影の日々を思い出し「コレ大丈夫?」「お客さん診れる?」「みんな、こんなにしんどくなっちゃうのかな?」と不安が募ってしまう。翻って、後藤監督は、編集していく中で何度も作品を観ているので「ちっともおもしろくないんですよ。もともとおもしろくないかもしれないんですけど」と自虐的に云いながらも「その先に発見がある。意図してないところがおもしろいな。そうして楽しみを見出す。音楽等も全て入ることで見応えがあるかな」と説く。

 

萩原さんについて、後藤監督は「最後は顔が真っ白だった。撮っていてビックリしちゃった。リハーサルでは気持ちが入り過ぎててしんどそうだった」と思い返し「いくらかカットを撮りたかったけど、1カットでいこう、と決めて撮っていた。人間の顔ではなかったので初めて怖くなった」と驚愕。本番中、メイクさんに「顔白く塗った?」と聞いてしまい「塗ってないですよ」と云われ「大丈夫なの、コレ」と慄き「演技であって演技でない。ドキュメンタリーに持ち込めるのは凄くないですか」と絶賛せざるを得ない。萩原さんは「持ち込めるんじゃなくて、持ち込んだんでしょ」とツッコミを入れるが、後藤監督は「荒唐無稽な設定と状況によるフィクションを作る場だったにも関わらず、ノンフィクションになったんですね」と感心するしかなかった。

 

ホラー映画の撮影で気持ちが入り込んでしまった萩原さんは「ホラー映画を撮っている感覚がずっとなかった」と回想。「死恐怖症を抱えた女の子が目の前で起きることに惑わされながら追い詰められていく様をリアルに体験していった。最初から最後に向かって撮影は作品と同じような流れで撮ることが出来ていたので、リアルに追い詰められていくだけ。人間の心が壊れる瞬間を自分で客観的に気づき始めている瞬間があり、悲しくもないし怖くもないのにカメラが回っていないのにキョロキョロしながら涙が止まらない」と冷静に話しながら「それを見ているカメラマンらが引き始めているのも気づいている。その瞬間にキャストとスタッフの境目が無くなった。本当の独りぼっちになったような感じだった。花純ちゃんや倉君の顔を見ても、目が合っているのに黒目しかないから、あれ?みたいな感情がない。この2人は友達なのに友達じゃない。この2人にしか助けを求められなかったはずなのに、目が合えば合うほど、真っ黒な目をしている。皆がずっと気持ちを抜かずに役として私のことを見てくれていたから、リアルに感じていけたのかな」と自身で感情を整理していた。萩原さんの姿を見ながら、後藤監督は「シーンの意図とは合っているかもしれないですね。なぜ死が怖いのか。孤独になるのが一番怖い、というのがテーマ」と述べていく。

 

死恐怖症(タナトフォビア)について、萩原さんは「元々、死についてそんなに考えたことはない人間だったら、大変だったのかな」と考察。後藤監督と初めて会った日、「死についてどう思う?」と聞かれて話していく中で、共感できることが沢山あり「元々、死に対して色々と考えることが多かったので、難しいことではない。入ってきやすいからこそ、ドンドン考えられる。死について考えることは役だけじゃなく、自分としても考えてしまう。寝る前に『何故生きているんだろう』『何故死なないんだろう』『何故死ぬんだろう』と考えていたら眠れなくなってしまう。監督の思う壺だぁ」と気づかされた。後藤監督自身は「僕は自分を投影している。みのりちゃんはきっと近しいに違いない」と気づきオファーしており「狙い通りですね」と満足している。とはいえ、萩原さんは「勝手に、死についてよく考えていそう、と思われるのはどうかと思うんですけど」とツッコミを入れていく。

 

撮影現場となったロケ地では、鳩の死骸が落ちていた場所だった。萩原さんは「それを当たり前のようにスタッフさん達は『それ本物です』と紹介されていた。ホラー映画はこういうことなんだ」と衝撃を受け続ける日々だった。とはいえ、後藤監督は「良い廃団地を見つけたことは作品としては良かった。環境が劣悪だったので、ご迷惑をおかけしました」とお詫び。最後に、後藤監督は「観終わった後の感触を持ち帰って頂いて、生きづらい世の中をどう生きるべきか、ということを考えるきっかけになったら嬉しいな」と楽しみしていることを伝えていく。萩原さんは「最初に台本を頂いた時から、自分自身について考えるからこそ、この作品のメッセージ性をどんな形で世の中に伝わるのか不安だった時もありました。自分が史織を経験して、死ぬことを考え続けると生きることに脳が向くんだな」と初めて気づいたことをを伝え「どうせ死ぬんだったら、どうやって生きるか、と頭を向けられるようになった。皆さんもそう思ってもらえたらいいな。考察型体験ホラーと云われているけど、感覚で楽しむ映画かな」とメッセージを送り、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『N号棟』は、全国の劇場で公開中。

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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