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ドナー登録によって社会からの強迫観念は和らぐかもしれない…『Eggs 選ばれたい私たち』川崎僚監督に聞く!

2021年4月9日

(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

 

子供のいない夫婦に卵子を提供する“エッグドナー”に志願した独身主義者の女性と、同性愛者の従姉妹との奇妙な共同生活を描き出す『Eggs 選ばれたい私たち』が関西の劇場でも4月9日(金)より公開。今回、川崎僚監督にインタビューを行った。

 

映画『Eggs 選ばれたい私たち』は、結婚や出産を希望していない30歳目前の女性と、レズビアンの女性という対照的な2人の人物を通して、社会から求められる女性像と実像のズレに悩みながら、それでも母になりたいと願う人々の姿を描いた人間ドラマ。子どものいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)。独身主義者の純子は、ドナー登録説明会で従姉妹の葵に再会し、彼女がレズビアンであることを知る。恋人に家を追い出された葵は、純子の家に転がり込み、2人の少し奇妙な共同生活がスタートする。純子と葵は、どちらが選ばれるかという期待と不安を感じながらも、遺伝子上の母になりたいという同じ目的に向かって、ドナーに選ばれるために、新たな生活を始めようとするのが…

 

監督自身の実体験や友達の話を基にして制作している本作。20代後半に婚活を経験し「自分の生き方を見つめ直し、”映画を頑張るんだ”と自分の映画に対してストイックでいたい」と決意し、短編映画『あなたみたいに、なりたくない。』を制作している川崎監督。30歳を迎え、男性から嫌な思いするような経験をして、却って「結婚なんてしない、私に子供は要らない」とフレキシブルに自身の意向を相手に委ねず、突っぱねるようになってしまう。当時、卵子提供を受けて、お子さんを育てている御夫婦のインタビューが掲載されている新聞記事を拝見し、幸せそうだと感じ、新しい家族の形としてポジティブに捉えていく。だが、インターネット上ではバッシングの嵐となっており「何故、誰かの幸せを誰かが白黒つけたり、言葉で傷つけようとしたりするんだろう」とお子さんも含め心配に。そこで「ドナー登録する人は誰なんだろう。親族なのか、第三者の提供なのか」と疑問が浮かぶと同時に「私もなりたい」と気づく。さらに「私は結婚して子供を産まない、と決めてしまっているけれども、20,30年後、いつか後悔する日が来るのかもしれない」と思い詰めてしまう。キャリアウーマンの先輩からは「結婚をしなかったことを後悔していないけど、子供がいないことは後悔している。産んでおけば良かった」という声を聞き「私もいつかそう思うのかもしれない。女性として産むべきだ、と社会に云われているような強迫観念は、ドナー登録をして、どこかに私の血を分けた子供がいたら後悔が和らぐかもしれない」と前向きに。「誰かの為にもなり、自分の心のためにもなる。ポジティブで素敵な選択になる」と希望を見い出し、様々な手段を調べていきながら、エッグドナーの存在に気がつくと同時に、映画にしたいと着想していく。

 

(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

 

脚本づくりにあたり、女性同士の関係性に関する描き方として「女性同士が戦いあう必要はない」というスタンスを根底に置きながらも「皆それぞれに幸せがある一方で、幸せと不満は共存している。誰かを羨ましくなったり、自分が辛い時に誰かにあたってしまったりする」と人間の汚いところを否定しようとはせず「そこも含めて人間であることを受けとめたい。100%毒がない人間はいない。そのまま描きたい」と話す。キャスティングにあたり、​寺坂光恵さんについては短編映画『ロープウェイ』を拝見し「私達を等身大で演じてくれる女優さん。ナチュラルな演技や佇まいによって、お客さんに自分事として共感してもらえる」と捉えオファー。川合空さんとは共通の知り合いがおり、写真や活動をSNSを通して見ており「彼女の佇まいはアーティスト。デザインもやっている。彼女の内から放つ魅力。独特の佇まいや雰囲気が魅力的で、葵に合っている。共感出来る純子に対する起爆剤になる」とオファーしていく。出演を快諾した2人は共に台本の内容を気に入り「ポジティブで一緒に頑張りましょう」と意気投合した。

 

(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

 

なお、本作は、アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)にて開催された、大友啓史監督を講師として招いたワークショップで短編映画として制作されている。企画書を提出した1ヶ月半後までに短編映画を撮ってくる大変なプログラムであったが「本当に時間がない中で2人と関係性を築きました。1人で準備を進めるには苦労が多かったですが、最初に会った時点で、2人は信頼できる方だと思えた。現場は大変ではあったけれども、なぜか安心感が不思議とありました」と思い返す。企画段階では大友監督に褒めてもらっていたが、短編映画の作品発表では「君の演出は駄目だ」と怒られ、大友監督自身のロサンジェルスでの経験を振り返り「これは撮り直すべきなんだ」とアドバイスして頂く。当時は30分の短編映画だったが「如何に駄目なのか理解できた。お客さんに届けるためには30分じゃ足りない」と気がつき、追加撮影を重ね「作品の演出など様々なものに対して意識がしっかりと変化していった」と自信を持って本作を完成させた。また、2018年タリン・ブラックナイツ映画祭で日本映画唯一のコンペティション作品に選出されており、好感度の高い感想を頂いている。男性からも「これは自分の物語なんだ」というコメントをもらい印象に残りながら「日本社会の独特な空気を楽しんでもらえた。新しい文化に触れたようだ。制度に対するひっかかりもありました」と確かな手ごたえを掴んだ。今後も、霊柩車をジャックするロードムービーや性別で区切らないことに対する映画も作ろうと時間をかけて脚本を練っており、さらなる活躍を楽しみにしたい。

 

映画『Eggs 選ばれたい私たち』は、4月9日(金)より、関西では大阪・梅田のテアトル梅田と京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。なお、4月10日(土)には、テアトル梅田とアップリンク京都に主演の寺坂光恵 さんと川合空さんと川崎僚監督を迎え舞台挨拶が開催される。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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