思春期特有の感情を分かってもらえたら…『惡の華』伊藤健太郎さんと玉城ティナさんを迎え舞台挨拶付先行上映会開催!
ボードレールの詩集『惡の華』の世界に憧れる少年とひとりの少女の鬱屈した青春を描く『惡の華』が9月27日(金)より公開される。本公開に先駆け、9月13日(金)には、大阪・難波のTOHOシネマズなんばに伊藤健太郎さんと玉城ティナさんを迎え、舞台挨拶付先行上映会が開催された。
映画『惡の華』は、押見修造さんのコミックを映画化した異色の青春ドラマ。山に囲まれた地方都市。中学2年生の春日高男は、ボードレールの詩集「惡の華」を心の拠り所に、息苦しい日常をやり過ごしていた。ある日、憧れのクラスメイト・佐伯奈々子の体操着を衝動的に盗んだところをクラスの問題児・仲村佐和に目撃されてしまった彼は、秘密にする代わりに仲村からある“契約”を持ちかけられる。この日から仲村に支配されるようになった春日は、彼女の変態的な要求に翻弄されるうちに絶望を知り、自らのアイデンティティを崩壊させていく。やがて「惡の華」への憧れにも似た魅力を仲村に感じ始めた頃、2人は夏祭りの夜に大事件を起こしてしまう。
伊藤健太郎さんと玉城ティナさんが共演、『片腕マシンガール』の井口昇監督がメガホンをとり、アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の岡田麿里さんが脚本を担う。
上映後、伊藤健太郎さんと玉城ティナさんが登壇。本作が持つ独特の空気感に翻弄されながらも賑やかな舞台挨拶となった。
当日は、朝から関西で様々なメディアからインタビューを受けていたが、玉城さんは「インタビュアーの方がリアクションが良く、話している方もノセられてしまいます。罠に嵌ってしまいます」と上機嫌。伊藤さんは、大阪の街中で見かけた光景から「おもしろい人が多いですよね。街を歩いていても”どこで買ったの、その服?”と思うような服を着ているおっちゃんが歩いていますよね」と、偶然遭遇した状況にも好印象を抱いていた。
作中では、仲村の変態的な要求に翻弄される春日役を演じた伊藤さん。ブリーフを履かされるシーンまであったが、撮影前から独特の空気を楽しんだようだ。「まさか、こんな大きいスクリーンで僕のブリーフ姿が…」と夢にも思わなかったが、打合せや衣装合わせでは異様なシーンを真剣に取り組んでいることを楽しんでいく。玉城さんがブルマを履かせる側となったが「自分一人でブルマを持ち上げていくのは難しかった。健太郎さんと息を合わせて”イチ、ニ、サン、ハイ!”とタイミングを合わせて共同作業でした」と振り返る。伊藤さんは「今思い返しても、そのことだけを考えると、凄いヤバくない?」と冷静に反応するが、玉城さんは「ヤバいよね。そこだけピックアップすると大変だけど…」と踏まえた上で「ブリーフが少しだけはみ出るようにしたんですよ。その方が格好悪いじゃん。井口監督からも『はみ出てた方が格好悪くて良いんじゃない?春日っぽくて』」と役にのめり込んでいた。
仲村佐和という強烈な役を演じるにあたり、玉城さんは「ビジュアルは寄せたかったので、髪を切って赤っぽく、アニメっぽくなり過ぎないぐらいの赤で染めました。声のトーンや姿勢や視線にも一つ一つ細かくアプローチ出来れば」と細かいところにも気を配らせる。同時に、キャラクターの強さや怖さが目立ち過ぎないように「無邪気さや可愛らしさも表現してバランスがとれるようにしたいな」と心がけたあ。また、中学生と高校生の春日を演じた伊藤さんは「春日が変わっていることで、高校生だと分かってもらえるように差をつけたかった。髪型やビジュアルを意識しましたね」と明かす。なお、舞台上には、本作のポスターと原作者の押見修造による描き下ろしイラストを用いたポスターが設置されており「僕の写真が撫で肩じゃないですか。押見先生も撫で肩に書いているよね」と指摘。「普段から撫で肩なんですけど、撫で肩をポスターにするのか」と感慨深げになっていた。玉城さんが「中学生の雰囲気、頼りなさが出ているんじゃない?」とフォローすると、伊藤さんは「監督からは『150cmぐらいの感覚で演じてほしい』と云われて、猫背ぎみになって…」と、実際は170cm以上もあるにも関わらず、懸命に演じたことを伝える。
思春期の複雑な心情を鮮烈に描写した本作に対し、伊藤さんは、「クソムシが」や「変態」という言葉から覚悟して台本を読み進めていった。だが、共感できる部分が多くあり「思春期に男の子達が抱えている感情は、その後歩む道が違っているだけで、最初に立っている位置は一緒なんだな」と感じていく。思春期特有の感情表現に対し「分ってもらえるように演じないといけない。伝わってもらえたら嬉しいな」と期待している。原作を高校生の頃に読んでいた玉城さんは、実写化すると聞いて「どういう風に実写化するんだろう」と興味を持っていた。仲村役のオファーを受け「どうせ携わるなら仲村を演じたいな、と思っていたので、願ったり叶ったり」と喜んでおり「台詞は強烈ですけど、仲村さんはピュアだからこそ、あぁいうアウトプットの仕方しか出来ないのかな」と思い、躊躇なく演じていく。だが、伊藤さんは「役にスッと入れなかったですね。難しかったです」と告白。春日が持つMの要素はについて「全く無いわけではないと思うんですが…」と話し始め「何を言っているんだ、俺は!」とハッと気づいて冷静になりながらも「どちらかと言えばS的な要素が僕を占めているので」と伝え「様々な年齢層の方に来て頂いて凄く嬉しい」と思いを込める。
最後に、伊藤さんは「僕らが今まで言ってきたことが分かってもらえたら嬉しいな。そして、映画の良さを広めていけたら」と本作に共感する気持ちを語っていく。玉城さんは「私が話すより皆さんの感想を聞いていたいな。何か一つでも残るものがあれば嬉しいな。1年前は撮影していて、私も思いを込めて作った作品です。やっと届けられることを嬉しく思っています」と話し、舞台挨拶を締め括った。
『惡の華』は、9月27日(金)より全国の劇場で公開。
「また、今日」というセリフは未来や明日のことなんて見えない「今」を生きている2人にぴったりの言葉だ。
佐伯さんの体操着を盗み、仲村さんと契約したことで春日の生活は一変する。普通なら、転がるように落ちていく…という表現が正しいが、春日はむしろ昇っていた。この街に感じていた息苦しさの矛先をボードレールではなく仲村さんにぶつけていく春日の様子は観ていてゾクゾクする。
教室をグチャグチャのドロドロにする場面は、2人の内面がそのまま視覚化されたようで、ある意味とても爽やかなシーン。春日にとって光にも影にもなった存在の佐伯さんも、映画の中盤で内面を露わにする。登場人物一人一人がむき出しになっていく様子は思わず見入るものがあった。
クソ虫ばかりの世界で、自分は違うと信じたくて足掻く春日と仲村さんは、汚くて変態で狂っているように見えたが、とても輝いている。青春映画、の言葉で終わらせられない強烈な体験をさせてもらった。
fromマツコ
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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