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佐渡島で感じたことを表現しているエッセイのような作品『戦慄せしめよ』豊田利晃監督に聞く!

2022年2月11日

2021年に創立40周年を迎えた太鼓芸能集団“鼓童”初のドキュメンタリー『戦慄せしめよ』が2月11日(金)より関西の劇場でも公開中。今回、豊田利晃監督にインタビューを行った。

 

映画『戦慄せしめよ』は気鋭の現代音楽家である日野浩志郎さんと、佐渡島の「太鼓芸能集団 鼓童」とのコラボレーションを、映画監督の豊田利晃がとらえた映像作品。バンド「goat」および「bonanzas」のプレイヤー兼コンポーザー、ソロプロジェクト「YPY」などでマルチに活躍する日野浩志郎さんと、2021年に創立40周年を迎えた「鼓童」。この両者のコラボレーションが、鼓童メンバーからの一通のメールがきっかけで実現した。日野と鼓童による延べ1ヶ月にも及ぶ制作期間を経て完成した楽曲群を、2020年12月の記録的な豪雪の中、制作の拠点となった鼓童村の稽古場をベースに、全編を佐渡島内で収録、撮影した。新型コロナウイルスの感染拡大が続く情勢下での新しい音楽体験を目指して製作され、セリフが一切なく、音と映像だけで語られる映像作品になっている。

 

プロデューサーから「日野浩志郎さんと鼓童の演奏を佐渡島で撮影してほしい」と依頼を受け、豊田監督は「鼓童という集団とふれあえるドキドキ感とおもしろさがある」と期待。鼓童について「どういう集団なのかな」と楽しみにしていると「若い30代の集団。会った時は29歳のリーダーである住吉佑太が出てきた。これは、おもしろくなるな」と直感した。佐渡島は、過去に一度、1週間程度旅していたことがあり「佐渡島で映画を撮影できるのは、自分の人生にとっていい経験になるな」と期待。「島はに船で渡っていくと、気持ちが変わる。自由な感じがする」と島というもの自体を気に入っている。『プラネティスト』で訪れた小笠原諸島と違い「佐渡島は新潟の船着場から船で渡ると、さらに日本らしい。タイムスリップしたようだね」と独特の雰囲気に魅力を感じていく。

 

今回の企画は、日野浩志郎さんの曲を鼓童が演じており、他の演者が入る選択肢は全くない。渋川清彦さんがフィクションの出演者として存在しているが「この映画をドキュメンタリーにするのか、音楽ライブフィルムにするのか、どうするか」と選択肢がある中で「あまり観たことがないものにしたいな」と検討。「物語的な流れもあり、ライブもある作品にしたくて、フィクションを演じる1人がいる方が映画にとってプラスになるんじゃないか」と練ってきた。脚本作りも担っており「楽曲があり、脚本がある。流れの中にどの曲を入れるのか。脚本自体は変わっていない。まずは、日野浩志郎と鼓童による8曲をどのよう映像として撮っていこうか」と考え、曲ありきの撮影となった。

 

鼓童の楽曲には荒ぶる太鼓による楽曲だけでなく、静寂性のある楽曲も十分に存在する。「日野浩志郎も知っており、彼なりに作曲していった」と受けとめており「楽器のチョイスも含めて、日野浩志郎と鼓童がクリエーション期間中に作り上げていった」と説く。作中には、ウッドブロックを用いた楽曲があり、日野さんは、ハンドサインによって指揮している。「日野君が出しているサインによって叩き方が別れていく。様々なサインに名前が決まっている。皆が見ながら、若干遅れながら演奏している」と撮影しながら読み取っており「雨音のようにパラパラすることを狙ったんじゃないかな」と受けとめていた。現場で撮影しながら「鼓童のメンバーが太鼓を叩くことは、観ている方も迫力がある。鼓童村の体育館の中で叩くと反響も物凄い」と、モチベーションが上がる時間となっていく。

 

とはいえ、佐渡島での撮影は大変で、冒頭にある、ふんどし姿のメンバーが崖で大太鼓を叩くシーンについては「大太鼓は屈強な男が8人がかりでないと上に持ち上げられない重さ。崖の上まで毛布に包んで転がしていく。-5℃で風速20㍍、台風並みの時。こちらもクレーンを添えるが、飛ばされないように重りで押さえた」と明かす。さらに「12月に夕日は絶対に出ない」と云われたが、夕日を狙った。「出たタイミングで撮影を始められた。ツイてましたね」とあっけらかんと話しながらも「普通は出来ない。一番大変で勝負どころだったね。夕日の時刻は分かっていたが雲が抜けるかどうか。俺達の祈りが通じたような瞬間」と神秘的なものを感じている。

 

音楽作品を制作するにあたり「音楽の尺が映画の尺になる。音楽が軸だからズレることは絶対ない。それをどのように映像として収め、人に伝えるか」と集中しており「このような映画が出来るとは誰も想像していない。佐渡島で僕自身が感じたことを表現している。対象物を延々と追いかけるドキュメンタリーというよりは、俺が感じたことを描いたエッセイに近いような気がするなぁ」と話す。当時を振り返ってみると「佐渡島が12月の極寒の中にいることを描いた。コロナがある中で、皆の気持ちが一つになった瞬間なんだろうな」と感慨深い。

 

なお、鼓童の前身である「佐渡の國 鬼太鼓座」の作品として、加藤泰監督の遺作と云われる『ざ・鬼太鼓座』という映画がある。豊田監督は、リスペクトしており「加藤泰さんが鼓童の楽曲を聴いて撮ろうとした破天荒なことを上回ることはしたかった」と明かす。「物凄い予算で3年かけて作った映画なので、僕達の2週間程度の撮影では不可能」と認識しながらも「加藤泰さんがやろうとしたことに自ずと近づいたのは、きっと鼓童の太鼓の音が物語っている。自ずから鼓童を撮ると、加藤泰さんが撮った時代の鼓童の姿と今の鼓童の人達の姿は違う」と興味深く感じている。現在の鼓童について「太鼓への向き合い方も変わっている。鼓童が日野浩志郎の楽曲を演奏し、今の鼓童の若いメンバーを表している」と称えた。

 

映画『戦慄せしめよ』は、関西では、2月11日(金)より大阪・心斎橋のシネマート心斎橋(boidsound上映)で公開中。また、2月18日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。なお、大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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