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感情のボリュームを大事にしながら最大限に演じてもらった…『よこがお』深田晃司監督に聞く!

2019年7月24日

終末期医療の現場で看護師として働く女性が、とある出来事をきっかけに不条理な現実と直面する様を描く『よこがお』が7月26日(金)より全国の劇場で公開される。今回、深田晃司監督にインタビューを行った。

 

映画『よこがお』は、不条理な現実に巻き込まれたひとりの善良な女性の絶望と希望を描いたサスペンス。周囲からの信頼も厚い訪問看護師の市子は、1年ほど前から看護に通っている大石家の長女・基子に、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。ニートだった基子は気の許せる唯一無二の存在として市子を密かに慕っていたが、基子から市子への思いは憧れ以上の感情へと変化していった。ある日、基子の妹・サキが失踪する。1週間後にサキは無事に保護されるが、誘拐犯として逮捕されたのは意外な人物だった。この誘拐事件への関与を疑われたことを契機に市子の日常は一変。これまで築きあげてきた生活が崩壊した市子は、理不尽な状況へと追い込まれていく。
カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』の深田晃司監督が、同作でもタッグを組んだ筒井真理子さんを再び主演に迎えるほか、市川実日子さん、池松壮亮さん、吹越満さんらが脇を固める。

 

今作は、2016年公開『淵に立つ』の映画祭授賞式に関する新聞記事で見た筒井真理子さんの”よこがお”が印象に残った深田監督が企画したことから動き出す。脚本を検討している段階では、親戚の犯罪に巻き込まれていく展開をイメージしていた。監督としては、加害者や被害者に関する出来事は避けられないテーマとして捉えている。これまでも、『淵に立つ』や『さようなら』では加害者・被害者のモチーフがあり、繰り返し描いてきた。

 

『よこがお』では、加害者の家族は、加害者なのか?被害者なのか?と観客に投げかけてくる。深田監督は「割り切れない問題。法的には分けるべきだが…」と熟考。「加害者であるか、被害者であるか、単純に二項対立で分けられない」と慎重に答えていく。自己主張の強い誘拐犯だと議論は回避されるが「加害者と云っても、家族がどこまで罪に関わっているか。本来は個人間における関係性の中に加害者・被害者が存在するはずが、犯罪に先立つ関係性をもって論じられてしまう」と危惧している。家族の血縁について考えると「様々な人間が社会で生きる上では様々な要素が絡み合っている。その複雑さが単純化されて、加害者・被害者にまとめられてしまう怖さを感じます」と危機感をつのらせていた。だからこそ、誰もが明日は加害者でも被害者に成り得ることを踏まえ、本作の世界観を作り上げていく。

 

ストーリーを構成していく中で、プロデューサーから「3人の女性の運命が絡み合う群像劇にしたい」とリクエストがあった。深田監督は、まず三姉妹による群像劇を考えたが「筒井真理子さんとつくる上では市子にフォーカスした。そこからは連想ゲームのように物語を作り上げた」と企画段階に立ち返る。作品を構成するにあたり「良い脚本だと物語の構成や人間関係の変化や推移だけで、お客さんは登場人物の気持ちを想像できる。お客さんの想像力を引き出せるような構成を意識して考えることが一番大事で難しい」と説く。

 

筒井さんとつくるにあたり、感情のボリュームを大事にしていた。まず、全体を通して、筒井さんがほぼ出演している映画であるため「過去のシーンは順撮り出来ないので、怒りや悲しみの目盛りを正確に作っていこう」と方針を決めていく。また「現代のシーンでは分かりやすい怒りの演技をせずに、構成を信じて想像が広がるように繊細に演じる」と一致した。存在感を以て演じられる筒井さんについて「リアルに生々しく演じるだけでは映画にとってベストとはいえない。ボリュームのコントロールは二人で舵を取りながら、筒井さんには思うように演じてもらった」と解説。おかげで、想定以上の演技が素晴らしい結果を残していった。

 

基子を演じた市川実日子さんとは初めてだったが「筒井真理子さんと対峙しても負けないような存在感がある人」だと感じてオファーしている。深田監督は、基子が持っている影の要素を演技しなくても存在感として表現できる人だと捉えていたが「市川さん本人は、物凄く陽気で底抜けに明るい人。現場ではスタッフとずっと話していても、カメラの前に立つと影が表れる」と本人とのギャップがある演技力には驚くばかり。池松壮亮さん演じる和道は、脚本段階では軽薄な若者でしかなく、面白みは皆無だった。脚本のイメージを裏切って肉付けしてくれそうだと感じ、池松さんにオファーしている。池松さんについて、年齢詐称しているかと疑ってしまうほどに、20代後半にもかかわらず30代後半のような落ち着き方をしていると感じ「和道という人物像にも奥行きがあり、市子との大人な関係を表現できた」と年齢差を感じさせない演技力に満足できる仕上がりとなった。

 

なお、今作では、過去と現在では表裏一体の視点を持っており、深田監督としても初めてのトリッキーな構成を試みている。近年の映画で多用されている回想シーンを多く取り入れた作品にはせず「過去と現在を等価にして描いていく。回想シーンを現在の説明に用いていない。過去と現在で市子を描き、人間の多面的な奥行きを表現したい」と考えており、本質的に人間を描くためには余念がない。また、幻を用いた表現も今作では多く見受けられるが「スクリーンに映し出されると、幻さえも観客にとってはリアル。現実と虚構が等価に描かれている。映画のマジックとして面白みがある」と表現の多様性を楽しんでいる。さらに、構成のメリハリを意識して、単調になり過ぎないように編集が行われた。三人称で撮ることを意識しており「一人の主観に寄り添い過ぎないようにしている。個々のシーンでは夫々による主観の映像はあるが、全体的には三人称であり、誰か一人の気持ちに過度に感情移入しないようにしている」と説いていく。結果として、お客さんは劇中と同じ視点で物語の世界を想像できるように構成された作品となった。

 

公開を目前にして、先日、本作が、8月7日から17日までスイス・ロカルノにて開催される第72回ロカルノ国際映画祭の国際コンペティション部門出品されたことが発表されている。深田監督は、映画祭のディレクターが作品を気に入ってくれたことを喜んでおり「筒井さんに主演女優賞を絶対獲ってほしい」と願ってやまない。ロカルノ国際映画祭について「近年で一番行きたかった映画祭。ロカルノで賞を獲得した映画は本当におもしろい。作品重視で選んでいるセンスの良い映画祭。世界三大映画祭と並ぶ価値のある映画祭になっている」と称えており「自分が親しくし尊敬している監督達が行っており、自分が行っていないことはコンプレックスだった。今回やっと行けることとなり、本当に良かった」と目を輝かせていた。

 

映画『よこがお』は、7月26日(金)より、全国の劇場で公開。

本作は、起承転結の「起」「承」をふんだんに描き、市子の話を積み上げることで、市子が転落する様子をより印象強く我々に訴えかけている。リスクのある手法だが、過去と現在によるシーンの構成が秀逸で退屈させない展開となった。

 

作品を通じて、他人への憧れという感情の脆さを再確認する。過剰なまでの憧れや尊敬は危険を孕んでおり、憧れの対象である人物の限界を超え、勝手な想像が膨らんでしまう場合が多い。憧れの対象が自分の想定から外れた時に人はどう崩れていくのか、思い通りにならない好きな人を目の前に、尊敬は嫉妬へ変わり、いつしか怨みへと変貌を遂げる。

 

気づかないうちに他人から恨みを買うケースは現実でも多く、有名人が知らないファンから嫌がらせを受けるニュースなどをよく目にしてきた。報道の仕方について度々議論されているが、本作は加害者側視点によるメディアの恐怖も描かれており、非常に考えさせられる。本作が放つ多くのメッセージによって、現代社会を描いた風刺映画の代表作と断言したい。

fromねむひら

 

「ゴッホはひまわりに生命力を見つけてモンドリアンは死を見つけた」

同じひまわりに正反対のものを見出せるように、人間にも相反するものが潜んでいる、と感じた。状況が変わればひっくり返って違う面が出てくる。

ある事件をきっかけに人生の歯車が狂ってしまった女の復讐劇。一文でまとめられるあらすじに対してこの内容量。凄かった。窓枠で犬のように吠える市子。介護しているおばあちゃんと真摯に向き合う市子。一緒の部屋に住もうと笑う基子。インターフォンを連打する基子。映画に出てくる登場人物達は「相反するもの」という言葉では片付けられないほどぐちゃぐちゃで複雑だった。

 

”よこがお”を見た時、一方の顏しか見えておらず、他方の面は全く見えてこない。普段は見ることができない、見てはいけない他人のよこがおを見せつけられた。

fromマツコ

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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