他人同士のように冷え切ってしまった母娘関係を正視し、家族の傷を癒すドキュメンタリー 『日常対話』が関西の劇場でもいよいよ公開!
(C)Hui-Chen Huang All Rights Reserved.
家庭より恋人との愛を育んできた同性愛者の母親と、10歳で小学校中退を余儀なくされた娘が、対話を通じて互いの思いを語り合う姿を描くドキュメンタリー『日常対話』が10月9日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォでも公開される。
映画『日常対話』は、台湾の女性監督ホアン・フイチェンが自身に娘が誕生したことをきっかけに、ひとつ屋根の下で暮らしながら親子らしい会話のなかった母親と向き合うさまを、自らカメラをまわして記録した家族ドキュメンタリー。名匠ホウ・シャオシェン監督が製作総指揮を務めた。母の作る料理を食べること以外に何の接点もない、赤の他人のように暮らす母アヌと娘チェン(ホアン・フイチェン)。チェンは勇気を出して母との対話を決意する。母本人のほか、親族、母のかつての恋人など、身近な人へのインタビューや対話を通じて、元夫から受けたDV、同性愛者であることの思い、社会からの抑圧など、母アヌの苦悩が浮き彫りとなっていく。そして、チェン自身も過去と向き合い、心に秘めた思いを母に伝える。第67回ベルリン国際映画祭パノラマ部門でLGBTをテーマにした作品に贈られるテディ賞に輝き、2017年アカデミー外国語映画賞の台湾代表作品に選出された。
なお、ホアン・フイチェン監督は、本作を制作すると共に、家族の物語を文字で編んだもうひとつのセルフ・ドキュメンタリー『我和我的T媽媽』を台湾で出版。同性愛者である母の半生、存在しない父の記憶、母の恋人たち、そして幼いころ過ごした「家」の思い出。「母は女性が好きなのに、どうして結婚して私達を産んだのだろう?」――誰にも明かせなかった著者の体験と胸の内が、活き活きとした文章で赤裸々に綴られている。本作の配給を手掛けた台湾映画同好会代表の小島あつ子さんは、本作の書籍を知り、日本語に翻訳し、監督の思いと映像作品が沢山の人に届けるべく、クラウドファンディングを起ち上げ。書籍の翻訳出版、並びに、NHKで放映されたTV版映像のDVD化(日本語字幕付き)を目指し、無事に目標を達成した。
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映画『日常対話』は、関西では10月9日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。なお、初日には上映後にホアン・フイチェン監督によるオンライン舞台挨拶を実施、終了後にはロビーにてQ&Aの時間が予定予定されており、作品について質問したり感想を直接伝えたりする機会が設けられる。また、京都・九条の京都みなみ会館や神戸・元町の元町映画館でも近日公開予定。
書籍の日本語翻訳出版クラウドファンディングが始まって間もない昨年8月末、『日常対話』の劇場上映を観る機会を得た。ホアン監督の母であるアヌの半生が、娘の視点から立体的に描かれていく。穏やかな映像の中で淡々と語られていく、アヌの波乱に満ちた過去。アヌとホアン監督との間くらいの世代による視点から、様々に感じる点がある良作であった。近年、セクシャルマイノリティに対してスポットライトが当たることは俄かに増えてきた印象はあるが、レズビアンを取り上げた映画作品は(ゲイが主題のものと比較しても)非常に少ない。それでも確かに存在する彼女達が本作で描かれていることに一筋の光を見た。
fromやすえ
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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