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日本で育った外国の子供達が送った青春の日々を撮らせてもらった…『東京クルド』日向史有監督に聞く!

2021年7月5日

© 2021 DOCUMENTARY JAPAN INC.

 

故郷での迫害を逃れ、日本にやってきたふたりのクルド人青年を5年以上に渡り捉えたドキュメンタリー『東京クルド』が全国の劇場で7月10日(土)より公開。今回、日向史有監督にインタビューを行った。

 

映画『東京クルド』は、日本で生きる2人のクルド人青年を5年以上にわたって取材し、日本におけるクルド人の実情を切り取ったドキュメンタリー。故郷での迫害を逃れ、小学生の頃に日本へやってきたトルコ国籍のクルド人のオザンとラマザン。難民申請を続け、入管の収容を一旦解除される仮放免許可書を持つが、身分は非正規滞在だ。いつ収容されるかわからない不安を常に感じながらも、2人は夢を抱き、将来を思い描く。しかし、現実は住民票もなく、自由に移動することも働くこともできない。そんなある時、東京入管で長期収容されていたラマザンの叔父メメットが極度の体調不良に陥る。しかし、入管は家族らが呼んだ救急車を2度にわたり拒否。メメットが病院に搬送されたのは30時間後のことだった。2人のクルド青年の日常から、救いを求め懸命に生きようとする難民、移民に対する国や人々の在り方を問う。

 

現在、日本における難民認定制度において、難民認定申請者数に対する難民認定数は非常に少ない。では、なぜ彼等は日本にやってくるのか。日向監督は「トルコと日本は政府同士が仲の良い国。ビザ免除協定が結ばれている」と説く。まさに、映画『海難1890』で描かれてきた歴史には大いに意味がある。さらに「トルコから逃げてくるような緊急性がある場合、ビザを取得しなくてもパスポートを持っていれば旅行者として来ることができる。ヨーロッパにもコミュニティがありますが、日本にも1990年代頃から増え始めて少しずつコミュニティが出来始めていることから、日本に逃げてきている方が増えている」と説明を加えた。

 

仮放免を受けた難民の方を取材するにあたり、認定NPO法人である難民支援協会の方からは、メディアへの露出について良い反応はなく、監督自身もリスクが伴うことを認識していく。だが、本作に登場するクルド人のオザンとラマザンはリスクをおかしてでも伝えたい事があった。ラマザンは高校時代から取材を受けており「弟や妹がおり、クルド人コミュニティの中でも第二世代が少しずつ成長していく頃で、自分が手本となって前例となって下の世代の子供達の可能性も開きたい」という意識の高さがある。オザンは芸能人になる夢を描いており「光の当たる場所に行きたいという気持ちがあり、クルド民族のアイデンティティに飲み込まれず、個人としてコミュニティやクルド人のために何ができるか考えている。自分自身は悪いことをしていないし、自分の身を削ってさらけ出してでも知ってほしい」という気持ちが強くあった。

 

2015年からクルド人コミュニティにコンタクトを取り始め、まずはTVドキュメンタリーとして制作しようとしたが、企画が通らず。そこで、会社の自主制作として撮り始め、「Tokyo Docs」に出品して上映してもらうことから始めた。すると、良い評価を受け、TV放送へと繋がり「長編作品として制作できるのではないか」と検討していく。

 

撮影を進める中では、オザンとラマザンが努力を続けているにも拘わらず報われない姿を目の当たりにすることが日向監督にとっても辛く「ラマザンが学校に落ち続けていく姿を見ている。オザンが撮影している目の前で、芸能事務所に断られていく。撮影当時の彼等は18歳や19歳。日本社会の制度によって希望を失っていく姿を見ていられない」と憤慨。さらには、ラマザンの叔父であるメメットが入国管理局に収容された後に体調不良を訴えても治療を受けるのが困難を極めている、という報せを受け面会を始めた。実際に対面してみると「車椅子に乗っていて体調が悪そうなところが伺える。そんな人に取材目的の電話をお願いできない」と鑑み、週に3,4回は面会に通いながらガラス越しでコミュニケーションを継続して関係性を構築していく。メメットの様子を見ていると「精神的な不安定さがあり、怒りっぽくなったり泣きそうになっていたり人間性が壊れていくような過程の中で通い続ける。一番辛いのはご本人でありご家族」と身に沁みた日々だった。

 

100時間を超えた撮影素材があり「入管に対して糾弾するような映画にはしたくない。18歳と19歳の若者男2人の友情や家族の関係性、日本の子供達と一緒に育ってきた外国の子供達が送った青春の日々を撮らせてもらった」と認識し、関西在住の秦岳志さんが関わり編集が行われている。本作が完成したのは今年4月頃。配給の東風に観てもらい「これは緊急公開したほうが良い」とアドバイスを受け、国会での入管法改正案が廃案になるか不安定な状況ではあったが「皆さんに関心を持って頂けるタイミングだろう」と公開を決意した。なお、現在の彼等については「オザンは基本的には変わらない状況の中、自立しようと頑張っている。ラマザンは学校を卒業して今年に自動車整備士の資格を取得した」と伺っている。

 

日向監督は近作としてBS12で放送された「村本大輔はなぜテレビから消えたのか?」を制作しており、長編作品に向けて動いている最中だ。また、他の作品を考えており「在日クルド人の方や日本にいる外国人をテーマに撮り続けたい気持ちはあります。どういう切り口が良いのか考え続けています。辛い思いをしている彼等の姿を撮っていくのは私自身も辛く、もう一度飛び込んでいけるのか怖い。今はカメラなしで付き合いながら、継続して関係性を築きながら次にどうしていくか」と模索し続ける日々である。

 

映画『東京クルド』は、7月10日(土)より全国の劇場で公開。関西では、7月10日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、7月23日(金)より京都・出町柳の出町座、7月24日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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