Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

お互いに刺激し合い、想像し得ないようなおもしろい作品を作り上げていく!「ndjc2020」植木咲楽監督、木村緩菜監督、志萱大輔監督に聞く!

2021年3月13日

©2021 VIPO

 

次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指す文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の2020年度作品が完成し、3月19日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で上映される。今回、各作品を手掛けた、植木咲楽監督、木村緩菜監督、志萱大輔監督にインタビューを行った。

 

文化庁委託事業「ndjc(new direction in Japanese cinema):若手映画作家育成プロジェクト」は、次代を担う優れた長編映画監督の発掘と育成を目指し、平成18年度より始まり、今年度で15年目になる人材育成事業。優れた若手映画監督を公募し、本格的な映像製作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供することで、次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指している。
8月に行われたワークショップから選出され、製作実地研修に進んだ3人の若手監督が、講師による脚本指導を経て、各制作プロダクションの協力のもと、プロのスタッフ・キャストと共に35mmフィルム撮影による短編映画を制作。フレッシュな感性と第一級の確かな技術が作り上げた個性豊かな短編映画3作品が上映される。

 

映画『毎日爆裂クッキング』…

食の情報誌「織る日々」の編集者・相島文は、上司である皆月の執拗なプレッシャーにさらされ、そのストレスで味覚障害になってしまう。調味料をかけて無理やり食事をかき込む日々が続き、限界が間近に迫っていたある時、あこがれのエッセイスト・芳村花代子が文の出版社に打ち合わせにやってくる。花代子は文が担当している連載記事のファンだと言い、その言葉にうれしくなる文だったが……。監督は、京都造形芸術大学映画学科で高橋伴明、福岡芳穂らに映画制作を学び、卒業制作の「カルチェ」がPFFアワード2018入選、第19回TAMA NEW WAVEグランプリ受賞など高い評価を受けた植木咲楽さん。

©2021 VIPO

 

脚本を書き始める前から「食べ物をモチーフにした映画を撮りたい」と長年考えていた植木監督。「生まれてから経済が上向いたことがなく、暗く重い空気に圧迫されている」と年々感じており「世の中の空気だけでなく、もしかしたら友達や両親にもあるかもしれない。会社や国家かもしれない。抑圧を受ける経験は誰もがあるんじゃないか」と捉え、脚本に混ぜ合わせた。台本を読んだ渡辺えりさんに「暴れてください」とお願いし「そういうことをやりたかったの」と言ってもらえて、とても喜んでいる。主人公の文を演じた安田聖亜さんは中学生時代から芸能界の荒波を経験しており「歳は私と1つ違いなのに、肝が座っている」と実感。現場で脆くなりそうな自身を踏まえ、発顔合わせでは「私の味方でいてください」とお願いし応えて頂いた。「誰かの味方でいることは大事だ」と思い本作を作っており「主演の方が姿勢を崩さずに私に示して下さったのは、嬉しかった」と感慨深い。パワハラ上司というキャラクターを作ったが「30分の尺では完全なる悪役にならざるを得ない」と悔やんでおり、長編作品にするなら「相手の言い分があるし、主人公が虐げられる理由を描く。双方の正義や悪を掘り下げた作品にしたい」と目論む。

©2021 VIPO

 

なお、脚本を読んでもらった母親からは「主人公はあなたに寄せているの?」と云われたり、ポスターのヴィジュアルを見た大学同期の友人から「植木っぽいね」と云われたりしたが「色を使うことが潜在的に好きなのかもしれません。自分の作家性や作風は全く固まっていませんが、自分の特性を知れたのは良かった」と納得している。本作を観た木村監督は「ちゃんと撮ることが出来るんだなぁ。役者の表情や関係性が出来ている」と感心しており、志萱監督も「ぶっ飛ばしているシーンが大好きで。自分では躊躇しちゃうので、やってくれたな。楽しくて最高だなぁ」とお気に入り。企画段階から「三浦半島を入れたい」とプロデューサーにお話して取り入れて頂いており「自然の多いところに潜在的に惹かれる。母の実家が石川県の能登半島にあり、海の端にあるので、文化が私が育った大阪とも違い、食べ物や様式が違う土地に行って作品を撮りたい」と今後も創作意欲は止まらない。

 

映画『醒めてまぼろし』…

2009年、冬。自宅から自分の学力で通える最大限に遠い都内の学校に通っている高校2年生の清水あき子。常に睡眠不足の彼女は家では眠ることができず、昔一緒に住んでいた祖母の家に行き、眠りにつく。そんな寝不足の毎日を過ごすあき子は、通学の電車内である人物と出会うが……。監督は、日本映画大学在学中からピンク映画や低予算映画の現場で助監督として働き、卒業後も映画やドラマ、CM、MVなどさまざまな監督のもとで助監督を務めている木村緩菜さん。

©2021 VIPO

 

「主人公にとって大事だった時期をリアルタイムに描くのがいいのか。思い出している人物がいるのがいいのか。2つの時間軸をどういう風に使ったら効果的に描けるだろうか」と考えた木村監督。「リアルタイムがあった上で、思い出している人がいないと映画が成立しない」と熟考し「大事だった時間を書いた上で、思い出す人がいる映画にするために時間軸で挟もう」と構成ていく。多様な解釈ができるストーリーになっており「持っていない人が持っている自分を想像して自己補完していても良い。何もない人に向けても見てもらえるように」と思いを込めている。当初は長編を想定して書いていた脚本であり「おばあちゃんと住んでいた頃からストーリーがあり、家が取り壊されるシーンもあった。もう少し高校時代を描いていた。全体的に高校時代と大人パートも書いて、長くなっている」と明かす。

©2021 VIPO

 

俳優部と演技の話をする際には「お互いが思っている言葉のニュアンスを共有していくのが難しかった」と苦労しており「一つの事柄について話す時、お互いの精神的な内部に入り込み過ぎてしまい、お互いを切りつけ合う状況になることがあり、心理戦が多かった」と思い返す。最終的に「共有できていることや認識のちがいは人によってバラバラで、同じ言葉から同じ方向を見ているけど、少しずつ皆が違う。同じところを見るのは不可能なんだな」と理解し「限りなく近いところに皆が向かうようにしよう」と頑張った。作品を観た方からは「木村っぽいね」と云われることが多く、日本映画大学での卒業制作においても「比較的暗くてジメジメしていて、ある部分では真面目、というポイントはあるのかな」の自作の性質を自覚している。本作を観た植木監督は「イメージの繋がりによってストーリーが浮き上がって来る作り方をしている。主演の方が魅力的で気持ちがのってくる作り方は凄い」と興味深く感じており、志萱監督は「主人公と重なっている部分があった。どこまでパーソナルな部分が反映されているか気になった」とワクワク感に満ちている。現在、18歳の時に書いた2時間尺のシナリオがあり、映画化したいと長年構想しており「暴力的なことがメインで書かれ、様々なことが起こる。暴力的な作品を撮ってみたい」と話し「暴力性が私の軸になっている」と意外な一面を覗かせた。

 

映画『窓たち』…

美容師の朝子は、ピザ屋でアルバイトをしている恋人の森と一緒に暮らし始めて5年が経つ。2人の関係は冷め切ったわけでもないが、かといってかつてのキラキラしている状態でもない。そんなある日、ついに父親になる決心がついた森は、朝子に子どもを産んでほしいと告げる。仕事に精を出し、女性関係も清算しようとする森だったが、朝子の表情は晴れない。そして朝子が働く美容室に、森と深い仲だったであろう女性がやって来て……。監督は、「never young beach」などアーティストのミュージックビデオを手がけ、短編映画「春みたいだ」がPFFアワード2017やTAMA NEW WAVE正式コンペティション部門に入選した志萱大輔さん。

©2021 VIPO

 

「自分の日常や生活を観察していった時に『どういう映画を作れるんだろう』が一番最初の出発点」と話う志萱監督。そこで、現在の恋人との同棲の時間をスケッチした時に「どう映画に出来るんだろう」とチャレンジ。「2人が家の中で顔を見合わせていない時にお互いをどう思っているか」と考えた時に「言葉にならない表情や出来事をすくっていけば2人を見せられる」と気づき、ストーリーを育んでいった。出演者に台本を書いて読んでもらい、撮影に向けて準備が進んでいくなかで「みなさんが僕の作品について考えてくださるからこそ、皆さん各々に正解があり、僕にも正解がある。皆さんが考えてくれてるからこそ、自分の方向に納得してもらえるか」と歩み寄り「自主映画ではなく、様々な方が関わって頂く映画を撮ってみて、初めて本作の意味に気づきました」と難しくも良い刺激となっている。なお、長編作品にするなら「彼らのその先にある不思議な関係を撮りたい」と意欲を表す。

©2021 VIPO

 

以前から志萱さんの作品は拝見している植木監督は、作品の一貫した温度感を知っており「作品の余白の豊かさが更に拡がって心地良い映画体験ができました」と満足しており、木村監督は「語らないことで物語進めていく技術を教わった」と謙遜している。既に『猫を放つ』という作品を撮っており「今作と同じく、森と朝子が登場する。僕の脳内で、森と朝子という勝手な恋人たちがいる。あともう1本撮り、3部作として1つのパッケージにしてみたらおもしろい。早く撮りたい」と次回作への姿勢は留まらない。

 

若手映画作家育成プロジェクト ndjc2020」は、3月19日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts