チベットの文化や死生観と政策との関係を考察する『羊飼いと風船』が関西の劇場でもいよいよ公開!
(C)2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.
近代化の波が押し寄せ、文化や伝統、生活様式までも様変わりしつつある現代のチベットを背景に、牧畜民としてチベットの大草原で昔ながらの暮らしを送る3世代の家族を描く『羊飼いと風船』が1月29日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『羊飼いと風船』は、大草原に生きる羊飼い家族の日常と葛藤を描いた作品。チベットの大草原で牧畜を営む祖父・若夫婦・子どもたちの3世代家族。昔ながらの素朴で穏やかな暮らしを送る彼らだったが、受け継がれてきた伝統や価値観は近代化によって変化しつつあった。そんなある日、子どもたちのいたずらをきっかけに、家族の間にさざなみが起こり始める。
本作は。チベット映画の先駆者ペマ・ツェテンが監督を務め、監督の前作『轢き殺された羊』で主演を務めたジンパが父親を演じる。ソナム・ワンモ、ジンバ、ヤンシクツォらが出演した。なお、2019年の第20回東京フィルメックスのコンペティション部門で『気球』のタイトルで上映され、最優秀作品賞を受賞している。
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映画『羊飼いと風船』は、1月29日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。
チベットが舞台、その珍しさから食指が動いた人も多いのではないだろうか。筆交わされる言葉、根付いた信仰、広大な草原を走る羊たち。吹いてくる優しく強い風が、チベットからはるか遠くに離れた観客を誘う。ドキュメンタリーの雰囲気を醸しながら人々の変わらない日常や、風景描写が映し出される。本作を観ただけでチベット社会を理解することは出来ないかもしれないが、興味を持つには十分な作品だ。
信仰宗教と現実社会の軋轢がじわじわと女性であるドルカルの首を絞めようとする。ストーリーの軸である「徳を積んだ者の魂は転生できる」という話は”信仰”としては理解できるが「子供を産むかどうか」はまた別の話だと強く感じた。母親でもある彼女だけが現実的に前を見ているように感じてしまう。登場する男性側は村社会にありがちな保守的な思想をわかりやすく体現しており、女性側は古くから存在する女性としての役割を映し出していることも印象的。良いか悪いかどうかを捉える場所で違うかもしれないが、本作品を鑑賞した後に今一度考えたい事柄だ。
劇中に幻想的なカットや自然の美しさを思わせる画を挟みつつ、現実を突きつけるようなシーンも挿入されており、ハリウッド映画のようなわかりやすい構成ではないが、のめり込むように見入ってしまえる。タルギェが赤い風船を選んだことは、宗教が無意識の中にも入り込むほど深く人間の中に存在するのか、と考えさせられた。もっとペマ・ツェテン監督の作り出す真摯な作品を観ていきたくなるので、広大な大自然と共に是非映画館で感じて欲しい。
from君山
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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