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法律上は犯罪者だけど、彼らは悪い人ですか?良い人ですか?自分で考える必要がある…!『ミッドナイト・ファミリー』配給・宣伝を担うウィル・スチュワートさんに聞く!

2021年1月26日

(C)Family Ambulance Film LLC

 

メキシコシティを舞台に、違法な医療活動をする私営救急隊の姿を捉えたドキュメンタリー『ミッドナイト・ファミリー』が関西の劇場でも1月29日(金)より公開。今回、本作の配給・宣伝を担うウィル・スチュワートさんにインタビューを行った。

 

映画『ミッドナイト・ファミリー』は、メキシコシティで私営救急隊をビジネスにする一家の姿をとらえたドキュメンタリー。メキシコシティには人口900万人に対して公共の救急車が45台未満しかなく、救急救命にあたる闇救急車の需要がある。そんな私営救急隊を稼業とするオチョア一家は、同業の救急救命士らと競い合って急患の搬送にあたっている。しかし、闇救急車の取り締まりや汚職警官からの賄賂の要求によって、徐々に金銭的にも追い詰められていく。救助を必要とする患者から日銭を得るという、倫理的には疑問視もされるオチョア一家の稼業をヒューマニズムにあふれる視点でとらえながら、メキシコの医療事情や行政機能の停滞、自己責任の複雑さといったさまざまな問題を浮き彫りにしていく。サンダンス映画祭で米国ドキュメンタリー特別審査員賞を受賞したほか、米アカデミー長編ドキュメンタリー賞のショートリストに選出された。

 

イギリスの2019 Sheffield International Documentary Festival(シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭)で本作を観たウイル・スチュワートさん。上映後には、ルーク・ローレンツェン監督のトークを聞き甚く感動する。ドキュメンタリーの映画監督でもあるウィルさんは日本に6年住みながら、年に1,2回はイギリスに帰国し仕事をしたりドキュメンタリー映画祭を訪れたりしていたが、本作のような激動的なドキュメンタリー映画を日本でも上映していきたいと考え、まずはルーク監督にコンタクトを取り、上映に向けて動き出した。

 

そもそも、何故メキシコシティの医療事情がこのような状況となっているのか。「お金の問題」だと挙げ「政治家は汚職にまみれている。市は、お金が少ない。警察も賄賂をもらうのが当たり前」だと説く。そんな街において、オチョア一家について「法律上は犯罪者だけど、悪い人ですか?良い人ですか?」と問いかけ「判断しづらいでしょう」と諭す。過酷な状況が描かれていくが「法律に粗があるだけ。良いことかどうか考えないといけない。法律は決して良いことだけではない。何が良いか悪いか自分で考えないといけない」と提示していく。

 

ルーク監督は、オチョア一家に密着し2,3年かけて撮影しており、最後2週間の収録が映画の80%を占めている。何処にカメラを載せるか、処置の邪魔しないように如何にして患者さんと一緒に乗るか、十分に検証して撮影に挑んでおり「最初から出来たわけではない。3年かけて細かい部分が勉強になりました」とウィルさんはルーク監督から聞いた。想像を絶するような酷い光景を目の当たりにして、使えないシーンが多く、厳選された映像はメキシコシティにおいて当たり前の出来事であると見せつけられる。

 

ウィルさんは「映画が成功するには様々な要素が必要。ドキュメンタリーだからこそ、観たことで新たなことを考えさせないといけない」と理解しており、本作においても「メキシコシティに行ったことがなくても、オチョア一家の苦労を見ることで、自分の人生について気づく」と発想。「オチョア家の人達はいいことをしたいが、誰が良いか悪いか判断出来ない」と受けとめ、翻って「自分の人生の中で、何故この選択をしたか」と自身の半生を振り返った。

 

なお、本作が日本の劇場で公開されることについて、ルーク監督は「アメリカ人の視点は、日本人と違って興味深い」と印象的で「日本からは有名なアニメがやってくるけど、文化や言語が違うから、作品が受け入れられる雰囲気がなかった。だかこそ、自身が制作した作品が日本で配給されることが凄く嬉しい」と大いに喜んでいる。ウィルさんは、日本で映画配給の仕事を始めて、映画業界関係者から「日本で映画を配給したかったら、日本のお客さんとの関係性を見せないといけない」と頻繁に云われてきた。「最近の映画館で上映しているドキュメンタリー映画は日本人が登場する日本での話、日本人の日常生活に関する話」だと印象付けられたが、本作について「良い話だからこそおもしろい、日本の話ではないけど、人間のストーリーだから、それだけで大事な作品」だと訴える。「日本で成功するためには日本の話じゃなければ上手くいかないということが間違っている」だと主張し「ドキュメンタリーもストーリーが一番大事。メキシコシティの人だけでなく誰もが分かる問題」だとアピールした。今後も良い作品を日本の劇場に配給したいと考えており「激動的なドキュメンタリーは沢山あるから、探すのは難しくない。新しい作品だけでなく、昔も凄く良いドキュメンタリーも沢山あるから、日本で上映出来なくても配信をしたい。コミュニティをつくりたい」と未来に目を輝かせている。

 

映画『ミッドナイト・ファミリー』は、1月29日(金)より兵庫・豊岡の豊岡劇場、1月30日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、2月12日(金)より京都・出町柳の出町座で公開。

メキシコの治安の悪さや政治の腐敗については、麻薬カルテルを題材とした作品で多く描かれてきた。だが、日本人には。あくまで「映画の中の話」だった。実際に生きる人々にフォーカスした本作は、メキシコ・シティで私営救急隊を営む一家の日常を追ったドキュメンタリーである。私営救急隊という聞き馴染みのない存在に驚くが、本作の主題は短絡的な問題提起ではない。鑑賞者はスクリーンを通して、監督自身が身をもって感じた矛盾や衝動を追体験する。これまで信じてきた善悪や倫理・道徳というものが機能しなくなる世界。解決には途方もなく遠い現状を見た時、自身の中で指針となるものは何だろうか、もしくは、そんなものを持って生きていられるだろうか。

 

本作に登場するオチョア一家は魅力的だ。とりとめのない会話からも一家の飾り気のない人柄が伝わり、つい感情移入してしまう。暗い気持ちになる夜にも恋人と電話する時間があり、競合事業者とのカーチェイスがあり、時には落ち込み、時には興奮しながら、気がつけば彼らと共に一喜一憂している。段々と、彼らの行為を正当化したくなっている、と気づく。それは本当に正しいことなのか、鑑賞中、何度も自問自答させられる。それでも目を離せないのは、彼らのことをどこか近くに感じられるからだろう。スクリーンに映るのは「恵まれない可哀想な人たち」でもなければ「法をかいくぐる悪人」でもない。それは、ただ生きている彼らの姿なのだ。

fromマエダミアン

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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