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世の中を上手く生きていけないことに対して共感しホッとするんだなぁ…『遠くへ,もっと遠くへ』『あいたくて あいたくて あいたくて』いまおかしんじ監督に聞く!

2022年9月4日

離婚を考えている女性が、不動産屋で出会った青年と親しくなり、共に失踪した彼の妻を探しに旅に出る様を描く『遠くへ,もっと遠くへ』と亡き夫が残したタイ料理屋を継いだ女性と、妻と別れたばかりの家具職人が、些細なきっかけでメールのやり取りを始め、互いに興味を持っていく過程を描く『あいたくて あいたくて あいたくて』が関西の劇場でも公開されるいまおかしんじ監督にインタビューを行った。

 

映画『遠くへ,もっと遠くへ』…

小夜子は結婚して5年になる夫との離婚を考えている。離婚後の住居を探しはじめた彼女は、不動産屋で働く洋平と知り合い、物件を見るうちに親しくなっていく。洋平は小夜子に、妻の光子が3年前に失踪してしまったことを打ち明ける。ある日、小夜子は離婚について夫に切り出そうとするが、逆に夫から別れを告げられ、衝動的に洋平のもとへ向かう。洋平が光子に未練を残していることに気づいた小夜子は、光子に会ってはっきりさせるべきだと彼をけしかけ、東京から北海道へ2人で光子を捜す旅に出る。小夜子をタレントの新藤まなみさん、洋平を『ミッドナイトスワン』の吉村界人さんが演じ、『悲しき天使』の和田瞳さん、『天然☆生活』の川瀬陽太さんが共演。『溺れるナイフ』の井土紀州さんが脚本を手がけた。

 

普段は自身で書いたり脚本家に書いてもらったりと様々なパターンで脚本執筆に取り組んでいるいまおか監督。本作は、5,6年前に「『パリ、テキサス』のようなストーリーでロードムービーが作れないか」と企画し、当初は自身で脚本を書いていた。『上野、すすきの』というタイトルで、上野から奥さんを探してすすきのに行くストーリーを書いていたが、いつもより予算が多く必要となり、主演の俳優が見つからず、何度も企画が出来上がっても実現に至らず。諦めかけていた頃、コロナ禍に陥るも、文化庁のAFF(ARTS for the future! )助成を知り、申請してみると通過した。予算の見通しができ、イチから脚本を見直し、作り直すことになり「井土さんとは2,30年の付き合いで久しぶりに書いてもらおう」と依頼。井土さんの意見にも助けられ、現代の視点に準えながら、様々なアイデアを取り入れ、仕上げていった。

 

キャスティングにあたり、主人公の小夜子役については「フレッシュな方に演じてもらおう」と模索。だが、濡れ場やDV等の過激なシーンが沢山あるため、なかなか見つからず。偶々、新藤さんと出会い、映画出演がほぼなかったが、出演の意思を受け取った。また、コロナ禍でラブシーンを撮るのが難しかった状況下、相対する洋平役について、吉村さんの名前が挙がり、段取り良く決まっていく。「2人とも仕事をしたことがなく現場がどうなるか」と心配だったが「自然な雰囲気の中で撮影できた」と安堵している。

 

撮影現場では「細かく演技指導してもおもしろくないかな」と察し、敢えてほったらかしにしている。「自身の解釈で自由に演じてもらって、軽く微調整しながら撮っていくスタイルで現場は進んでいきました」と振り返りながらも「濡れ場については分からないところもあると思うので、ある程度のザックリとした動きの流れを相談しながら決めていきますが、細かい演技は任せていました」と配慮していた。2人の様子を見ながら「アレコレ考えず思い切って現場に飛び込む度胸がありましたね」と感心している。なお、北海道での撮影が中心だったが、予定していた場所で突然撮影出来なくなったり、様々な方がいるすすきのの夜での撮影可能な時間帯が制限されてしまったりとピンチもあった。最初は稚内でも撮影する予定だったが「実際に訪れてみると、撮影できそうな場所がほとんどなかった」と困惑し、脚本の設定を稚内から小樽に変更したこともある。

 

今回、井土さんが参画したことで「いつもとは違う作品が出来るかな」と予感があった。撮影の花村也寸志さんとは何度か仕事をしており「今までのような超低予算と違って今回の規模の作品だったら、お互いに議論しながら進められるんじゃないか」と模索。小夜子の実家を登場させることは当初は想定していなかったシチュエーションだったが「偶々、大学時代の映画研究部同期が北海道で亡くなったと聞き、撮影前にお線香をあげにいったら、ご家族の方から撮影の提案を頂いた。彼が住んでいた家を撮影してやるぞ、という個人的な企みがあり、実家に寄る設定を入れてもらった」と明かした。

 

映画『あいたくて あいたくて あいたくて』…

1年前に亡くなった夫の跡を継いでタイ料理店をひとりで切り盛りしている淳子は、通信販売でテーブルを購入したことをきっかけに、家具職人の祐司とメールでのやりとりが始まる。ひとり娘の綾香が恋人との同棲を始め、いまはひとり暮らしとなった淳子のもとには、夫の親友だった寺岡がたびたび訪ねてきては再婚を迫ってくるが、淳子はあいまいな態度を取り続けていた。そんな日々の出来事を祐司にメールすることで淳子は寂しさを紛らわせ、いつしかそれが楽しみになっていた。一方の裕司は最近離婚したばかりで、元妻に未練を残している。人生も半ばを越えたふたりは、やりとりを続けるうちに、次第に会ったことのない相手に興味を抱くようになるが…
淳子役は『農家の嫁は、取り扱い注意!』等のいまおか監督作品常連の丸純子さん、祐司役には『日本沈没 希望のひと』他テレビドラマに多数出演する浜田学さんが演じた。

 

これまで短期間で撮る低予算作品について、丸純子さんに数作品出演して頂いていた。近年は主演作品がなかったので「彼女を主演して1本制作したい」ということから本作の企画が始まった。企画会議の中で「近年はSNSやコミュニケーションツールのやり取りが多く、面と向かって話すことが減ったんじゃないか」と話していく中で「そんな話題を絡めて、アラフォーの大人による恋愛物語を制作しよう」と構想。「2人がなかなか出会わない恋愛はどうだろうか」と閃き、脚本執筆を始めた。

 

祐司役については、幾人かの候補者を挙げてもらい「パッと見て、浜田さんが一番に不器用っぽく見えた」と直感。今まで仕事をしたことがなかったが、制作会社の作品には幾らか出演しており「良く知らなかったが、作品の雰囲気に合っていた。過去の出演作品を観ていたので、うまくいくのではないかと勘が働いた」と納得し、オファーした。なお、近年、数々の作品に出演している川上なな実さんのキャスティングに関しては「話してみると面白い。映画をよく分かっている。本人はAVにも使命感を持って出演していたと思う。根っからの表現者」だと感じており「どんなことに取り組んでも、プロ意識が高い。度胸あるなぁ」と信頼している。そして、ジャンルや規模に関わらず沢山の作品に出演している川瀬陽太さんとは、20年以上の付き合いがあり「何度か主役をやってもらっている。俳優というより仲間。ずっと一緒にやってきた」と絆は強い。「やはり、最初は若者の役が多かったが、次第に年を取るにつれて、役柄の幅が出てくる。どんな役でも自分なりの演じ方を見つけていく」と受けとめており「スタッフや監督の側に立って物事を考えられる。演じるだけでなく、映画の世界観も分かって取り組んでいる。予算や人間関係等も含めて自身の立ち位置を理解している。長年の経験がないと出来ないことをやっている」と皆に愛されている理由を語った。

 

淳子と祐司がすれ違っていくストーリーである本作。「特色があるロケーションでないとストーリーが見えにくい」と気づき、撮影の山本英夫さんと「東京の何処でやるか。川があって橋を渡ると良いんじゃないか」と相談。「東京は川の街なので、下町に向かうと川が流れていて、こっちと向こうというビジュアルをイメージしやすい」と指摘し、いろんな橋を何本も見に行き、夜に灯る明かりの量や良さ等を様々に判断し、厩橋を中心にして決められていった。とはいえ、東京都内は人が多く「撮影には優しくない。窮屈である。コロナ禍の影響もありますが、都内での条件や時間の制約がありました」と苦労を重ねている。キャストの経歴は様々であるが「皆それぞれに良いところがあるので、引き出せたら。下手であっても味がある。演技力だけではない。映画は様々な捉え方がありますね。自身がもっている魅力が引き出されて、その人の好さが表れて、上手く捉えられたら」と期待し、撮影に取り組んでいった。なお、プロポーズを断られるシーンがあるが「気持ちをストレートに表現せず、明るく振舞っている。そこからキャラクターを掴んでいた。演じていく中で役が醸し出す雰囲気を掴んでいる」と不器用な生き方をしているキャラクターを丁寧に表現することにブレはない。

 

既に、両作品とも東京の劇場では公開されており「どちらの作品でも登場人物は生き方が不器用で上手に生きられていない。それでもなんとか生きていこうとしている姿に、今の世の中を上手く生きていけないことによる共感があるのかな」とお客さんの反応を察し「下手な部分が可愛く見えて、短所だと云われるところが、映画の中のキャラクターとしては魅力がある。そんなキャラクターが許されない現実において、本作を観るとホッとするんだな」と実感している。

 

なお、今年は監督作品の公開作品が例年以上に多く「今までこんなに多いことはないですよ。初めてです。偶々なんで」と漏らしながらも「撮れる環境があるなら、どんどん撮らないと」という気持ちだ。現在の状況を鑑み「無理やりにでも撮ろう、という気持ちが撮っていた」と意思は強い。いまおかさん自身が出演している作品も多く「出るのが好きでやっているのではないですけど、出来ることは全部やる。ダブルブッキングになったとしても、出来る方法を考える。やりたいと思った時にやれないこともあるので、色々やっています。出てくれ、と云われたらなるべく出ます」と各作品の監督からの信頼があることも納得できる。そして、今後も多くの作品を撮ろうとしており「様々な役者やスタッフと新しく出会い、新しい映画を制作できることは、紆余曲折ありながらも楽しいなぁ」と話し、コンスタントにお客さんを楽しませてくれそうだ。

 

映画『遠くへ,もっと遠くへ』は、関西では、9月2日(金)から京都・九条の京都みなみ会館、9月3日(土)から大阪・十三のシアターセブンで公開。映画『あいたくて あいたくて あいたくて』は、関西では、9月9日(金)から京都・九条の京都みなみ会館、9月10日(土)から大阪・十三のシアターセブンで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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