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横浜における日本の戦後史を問いかけ、エンターテインメントとして作り上げたい…!『ヨコハマメリー』中村高寛監督に聞く!

2021年1月26日

横浜の人々に“ハマのメリーさん“と呼ばれた女性を追うドキュメンタリー『ヨコハマメリー』が映画誕生15周年を記念してリバイバル上映中。今回、中村高寛監督にインタビューを行った。

 

映画『ヨコハマメリー』は、白塗りの化粧と貴族のようなドレス姿で横浜の街角に立っていた老女、ハマのメリーさんを追ったドキュメンタリー。かつて絶世の美人娼婦として知られ、本名も年齢も明かさないまま、戦後50年間にわたって街角に立ち続けたメリーさん。その気品ある立ち振る舞いは横浜の風景の一部ともなっていたが、1995年冬にこつ然と姿を消し、いつしか都市伝説としてささやかれるように。病で余命わずかなシャンソン歌手の永登元次郎さんをはじめ、メリーさんを知るさまざまな人物の証言を通してその実像を浮き彫りにするとともに、彼女が愛した「横浜」とは何だったのか検証していく。2005年製作、2006年の公開時は2館でのスタートから次々と上映館を増やして半年以上のロングランヒットを記録、文化庁記録映画部門優秀賞など11の賞を受賞した。

 

2017年8月に「ヨコハマメリー かつて白化粧の老娼婦がいた」を出版し、2020年8月には文庫「ヨコハマメリー 白塗りの老娼はどこへいったのか」になった中村監督。このタイミングで「映画上映も一緒に出来たら良いね」と話していくなかで今回のリバイバル上映となった。とはいえ、以前から、日本全国で上映会の開催や横浜での定期的な上映があったり、DVDで鑑賞した方もいたりと「公開からお客さん皆で育ててくれた。自分の作品が子供だとすると立派に成長したなぁ」と感じている。まさに「完全に巣立っていった。自分の手から離れている」と感慨深い。

 

本作の撮影を始めた頃、既に横浜からメリーさんは姿を消していた。取材を進めていく中で、1990年代以降、メリーさんが生きた街では代替わりが始まり、店舗や企業の経営方針が変化していく。昭和から平成に変わっていく中で「メリーさんと同じ時代を生きてきた方は、職業は違えど、戦後の混乱期を生きてきたので共感があった。次の世代になると、共感はなく、メリーさんは変わった人として見られ、街の中の異物に過ぎなくなり排除されていく存在になっていく。時代や街の変化がメリーさんを追い出してしまった」と、分岐点があったと気づく。令和の時代を迎え「街中のアウトサイダーの居場所がなくなってしまった。昭和のテイストを残した人達から取り上げたい」という気持ちもあり、アウトサイダーの人達に内在するものに注目し続けてきた。

 

今回、リニューアル版として、文字テロップを全て差し替えて新しく制作した。改めて本作を観て「自分のデビュー作。まだドキュメンタリーの作り方も分からずに試行錯誤しながら作っていた。完成して最初に公開した2006年では出来なかったこと、粗みたいものが気になってしまい、冷静に観られていなかった」と告白。しかし「思ったよりも悪い作品じゃなかったな」と客観的にもなり「あのタイミングでなければ撮れなかった人達、出会えなかった人達が映っている。20代の若さがあったからこそ撮れた映画。30代や40代だったら撮れない」と振り返る。2,300時間をかけて撮り92分の作品に仕上げたが「使っていない映像は無駄にはなっておらず、映画を支えている存在。ピラミッドのようなもの。下の部分が支えているからこそ、上の部分が作品に出て来ている。皆が支え合って映画になっている」と説く。なお、書籍の中には映画の中で伝えられなかったことを余すところなく書いており、『ヨコハマメリー』に一区切りがつけられた。

 

現在、『ヨコハマメリー』『禅と骨』に続き、「横浜三部作」の3作目を撮影中の中村監督。『ヨコハマメリー』は、メリーさんを通して横浜の戦後史を見つめて描き「戦後を体験していない1975年生まれの私が手掛けることに意味がある」と認識。『禅と骨』では「メリーさんが愛したアメリカとは何だったのか。日本とアメリカの関係とは何ぞや。戦後史を描いていく上で、日本にとってのアメリカは外せない」と日系アメリカ人を通した、日本とアメリカの近現代史を描いた。撮り続けていく中で「最終的に、対象者の方が生死と向き合うことが多い。生死に関するバトンを渡された時には退けない。生死に関わる付き合いをする覚悟ができた時にスイッチが入る」と実感している。次は改めて戦後史に戻り、再び横浜における日本の戦後史を問いかけている。根底にあるテーマは変えず「真面目に表現すると論文のようになり、つまらない。エンターテインメントでの切り口でやってみたい」と考えており「横浜は、日本の近現代史・戦後史のテーマが数多くある。映画になるおもしろい題材にどのように巡り会い撮れるか」と検討中だ。

 

映画『ヨコハマメリー』は、関西では、大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、京都・九条の京都みなみ会館、神戸・元町の元町映画館で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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