制作して発表して積み上げていかないと表現者の道が消えてしまう…!『とうめいなよる→とうめいなあさ』THE PAPER CLUBの浅田麻衣さんに聞く!
映画美学校アクターズ・コース第9期生の中島晃紀さんと星美里さんと山田薫さん、アクターズ・コース第6期生の浅田麻衣さんから成る団体「THE PAPER CLUB」による全編リモート制作作品『とうめいなよる→とうめいなあさ』がYouTube上で公開されている。今回、本作の監督を担った浅田麻衣さんにZoomを用いたインタビューを行った。
「THE PAPER CLUB」は映画美学校アクターズ・コース第9期生の中島晃紀さんと星美里さんと山田薫さん、アクターズ・コース第6期生の浅田麻衣さんによって、2020年4月1日に発足。「コロナ禍において、我々俳優だけで作品を創作できないか」という山田さんの呼びかけにより集った。『とうめいなよる→とうめいなあさ』は、全編リモートによって撮影された作品。zoomと出演者それぞれによる撮影を以て仕上げられた。出会いたい気持ちを表現した短編作品として構成されている。
浅田麻衣さんは、岐阜県で生まれた後に関西を転々し、現在は関東在住の女優。2005年には、大阪市の映画助成団体CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)に参加し、第1回西尾孔志監督作品『おちょんちゃんの愛と冒険と革命』スタッフ並びに出演、第8回安川有果監督作品『Dressing Up』に出演。以後、京都や大阪の小劇場にて主に活動。俳優のかたわら、劇場に勤め制作を学ぶ。2016年より関東に住み、映画美学校アクターズ・コース6期を修了し、現在は、舞台や映像・映画に出演したり自主企画公演の企画や制作に携わったりしている。
今年の3月まで、映画美学校アクターズ・コース2019年度公演「シティキラー」に制作として携わっていたが、文化庁の要請により中止となった。当時は、まだ緊急事態宣言は発令されていなかったが「まさか自分が関わっている公演が中止になるとは…」とショックも大きい。「演劇がこんなに脆弱なものだったんだな」と痛感すると同時に「場所に集まることは、お客様との信頼関係で成立しているんだな」と実感した。映画美学校アクターズ・コース9期生にとっては半年間の集大成となる修了公演であり、映像として甦らせようと取り組んだが「結局は、失ってしまった作品でしかない。一回限りの舞台を上演したかった気持ちは昇華されない」と悔しい気持ちが残るしかない。
その後、3月下旬に9期生の一人がLINEで「私達で何か出来ないかしら」と話していた。そこで、浅田さんが「あぁ、楽しそうだね」と書き込むと、4月1日に彼等のLINEグルーブに招待される。LINEグルーブでやり取りをしながら、メンバーが興味あることを繋げていく中で、メンバーの一人が「今、幽霊に興味があります」と話していた。「都市に人がいなくなってしまった状態」と「昇華されなかった作品の魂は何処に行ったんだろう」と抽象的な話ではあったが、浅田さんは「配達は絶対に止まらない」と加えながら雑談していく。また「演劇は劇場に来てもらうということが前提にあり、やはりリモートでは現状我々では厳しい」と話し「Zoomを介しても演劇体験にはならないのではないか」と代替手段について行き詰る。そこで「今の状況を書けばいいのかな」と気づき、メンバー達に演じてほしいことを1日で書き上げ、5月1日頃に見せると賛同してもらった。だが、浅田さんは「正直言えば、やる気がなかった」と当時の気持ちを告白。「今まで演劇を企画したことがあっても、映像を企画したことがなかった。映画美学校修了後、初めて脚本を執筆した。まさか実現するとは思ってなくて、9期生に『こんなやり方もあるんじゃない?』と提案したつもりだった」と打ち明けた。勿論、映像の編集も未経験だったため、まずはZoomで出来ることを検証していく。
本作は、透という人間、その人格をめぐる4人の繋がりを表現した物語。モノローグを中心に構成にしており、透のことだけについて話している。「今の私達はZoomで繋がっている。だけど、結局は、この電波でしか繋がれない私達は何なんだろう」という思いから端を発して「何をめぐったら、私達は繋がれるんだろう」と考え、幽霊というモチーフにも及んだ。とはいえ「幽霊だと味気ない」と感じ「名も知れない人物にただ会いたい気持ちを募らせた4人組の話にしよう」と執筆。演劇に近い構成となっており「長くて観ていられないシーンは切っていった。テレコに入れ替えていった」と説く。最初からモノローグも含め構成は決めており「Zoomでの撮影は2,3時間。モノローグは沢山撮ってもらっており、その素材を見ながらリモートで指示しながら追加撮影してもらっていた」と初監督ならではの手腕を披露。「映像の視点から私は作れない」と認識した上で「Zoomの画面をずっと流し続けるのはキツい。出来るだけ減らしていった。最終的に4人が揃うのは絶対に短い秒数にしようと最初から決めていた。9期生の俳優が持つ違う顔を見せれたら」と、演劇的な視線を以て取り組んだ。
リモート制作にあたり、各出演者に対し最初はカメラ位置だけ決めて任せてみたが、意図と違う映像になることも発生。「モノローグは自分を如何に魅力的に見せられたら」と期待したが、簡単には上手くいかず、細かい演出の指示をしながらテイクを重ね、俳優陣にも頑張ってもらった。カメラを止めずに撮影を進めており「カット割りしたくないから、長回しによるモノローグの撮影を依頼していた。演劇として繋げるためにも、夫々の完成したモノローグを観てもらって、誰かの演技を捩るように頼んだ」と振り返りながら、自らが俳優として演じている時も繋ぐことを意識していたことを明かす。だが、結果として、素材が多くはなく編集作業では苦しんでいく。まずは素直に脚本通りに繋げたが「私が観れたものではなかった」と後悔。「お蔵入りにしてLINEグループから抜けようかと考えていた」とまで告白。しかし「私はこんな風にして無くなった作品を沢山見てきた」と思い返し、慌てて様々なバージョンを作って観てもらう。意外にも、素直な編集バージョンに好反応を示してくれたが、自身は信じられず。「映像畑ではない人間として割り切った。演劇的視点で切り取っていき、エンディングも想定外だった映像を用いた」とまで打ち明け「世の中に数多いる映像作家の方々とは全く違う視点で編集を進めていった」と編集の難しさを感じる日々を過ごした。
初めての映像作品を公開し「今までも映像を撮りたい気持ちはあった」と振り返る浅田さん。現在の状況になるまでは「完璧な作品を作らないと駄目だ」という強迫観念があり、二の足を踏んでしまっており、友人と企画しようとしても尻込みしていた。だが、現在の状況を迎えてみて「私は何故か意外と元気なんです」と明かす。この状況では演劇の場所がなく制作も出来ず「もはや完璧を目指している場合ではない」と考えるようになった。「とりあえず作って発表して積み上げていかないと表現者としての道が消えるんじゃないか」と恐れ「今回の企画は普段だったら嫌だった。編集も逃げていた。今はそれどころではなく、これから表現方法や発表方法は変わっていくから、その中で生き残っていくためには作るしかないんじゃないか」という思いに到達したからこそ、自ら締め切りを設け、出来上がった最終版を公開に至る。「本当の私は、心根が弱い人間なので」と言いながらも「なんでこんなに元気なのか分からない。負けず嫌いだから、自分はこんなもんじゃない』という謎の自信がある」と自負し、悔しい気持ちを以って編集に挑めた。現在は「編集の練習のためにはMV制作が良い」と考え、アクターズ9期生の秋村和希(Akimura Kazuki)さんの楽曲に関するMVの制作に取り組んでいる。「曲のテーマを探れるし、自分の表現としても成立する良い素材」とだと捉え、快く楽曲を提供して頂いた。「創作することは好きなので、今出来ることは、いつか来る日の為に力を蓄えるしかないな」と感じており「思いついたことはやろう」という気持ちだけで挑戦する日々を過ごしている。「演技をしていると『舞台に戻りたい』という気持ちも出て来ます」と話しており「”今、演劇をするならどうするんだ”というのは演劇人の課題であり、考えていきたい」と今後も積極的に取り組んでいく。
なお、「THE PAPER CLUB」という制作団体は紙と配達をテーマにして始まっており、元々は、手紙を用いた企画『DIARY PRACTICE under the circumstance influenced by covid-19』が進められていた。メンバーの1人、星美里さんが企画者となり、4月は手紙のリレーを実施。メンバーに宛てた手紙ではなく、自らが書いたわけでもなく、演技をしていった。自分以外の人物になり切り、その人物の関係者に宛てた手紙を出し、受け取ったメンバーはその前提を知らずに読み、別の人に宛てた手紙を出していき、一巡したら皆の手紙を公開して読んでみる。当時は、Zoomを用いたリモート制作は行われておらず、実際に配達してもらうアナログな手法を採用。この企画を2週間近く行いながら、同時進行で本作の映像を撮っており、本作に通ずるテーマがあると気づかされた。メンバーそれぞれが取り組みたいことは違っており「今後もメンバーで出来ることと取り組みたいことがマッチしたら企画を挙げてもらって、参加できるメンバーがいたらやる」と集団創作の実験場として今後も機能していく。
『とうめいなよる→とうめいなあさ』は、YouTube上で絶賛公開中。また「THE PAPER CLUB」の活動はTwitterにて、浅田麻衣さんの活動はnoteにて随時公開している。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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