好きなことや出来ることを見つけられたら前に進んでいける…『ロボット修理人のAi(愛)』田中じゅうこう監督と大村崑さんを迎え舞台挨拶開催!
ロボット修理で天才的な技術を持つ少年が、依頼品のAIBOをめぐって過去と向き合いながら人間関係を育んでいく様を描く『ロボット修理人のAi(愛)』が関西の劇場でも公開中。7月18日(日)には、大阪・十三のシアターセブンに田中じゅうこう監督と大村崑さんを迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『ロボット修理人のAi(愛)』は、実在するロボット修理人の乗松伸幸さんをモデルに、ロボット修理の天才的な技術を持つ少年が依頼品のAIBOをめぐり過去と向き合い、新しい絆を育む姿を描くヒューマンドラマ。古い家電からロボットまで、幅広く修理を請け負う工房で働く16歳の倫太郎は、孤児として育ち、高校を中退してバイトをしながら独学でロボットの勉強をしていた。そんな中、東京のひとり暮らしの老婦人からペットロボット「AIBO(アイボ)」の修理を依頼される。依頼人の亡き息子が残したというAIBOは、音声装置とメモリーが壊れていた。その頃、倫太郎は発声障害のある14歳の少女すずめと出会い、仲良くなっていた。依頼品として預かったAIBOとすずめとともに榛名湖のダイダラ祭りへ行った倫太郎。湖にはよみがえりの伝説があり、願いがかなうと亡くなった人がよみがえるという。祭りの帰り道、AIBOがとある録画映像を映し出したことで、倫太郎は思いがけない過去を知ることになる。主人公の倫太郎役は『ロック わんこの島』等で子役として活躍し、以降もさまざまな作品に出演している土師野隆之介さん。監督は『ムーランルージュの青春』『道しるべ』の田中じゅうこうさんが務めた。
上映後、田中じゅうこう監督と大村崑さんが登壇。今年90歳を迎えるとは思えない程パワフルに振る舞う大村崑さんが印象に残る舞台挨拶となった。
RIZAPに4年間も通い続け健康年齢が66歳と診断された大村さんは「元気だからオファー頂いた」とあっけらかんと云いながらも「監督とは古い付き合い。『いつか私の作品に出てくださいよ』と依頼されていた」と明かす。3年前にオファー頂いた時は大いに喜び、ロケ地である榛名湖に向かったが「大変な内容のドラマでした」と実感。自身で解釈したストーリーを話し、不思議な作品だと感じながらも、田中監督から「重要な役です。あなたの印象は最後までつながります。そんな心構えで演じてください」と云われたことを回想。榛名湖からは神秘的な土地であることを感じ取り「あそこでは”大村崑”をやれませんよ。監督から凄い役をもらったなぁ」と身に染みていた。
主役の倫太郎を演じた土師野隆之介さんは当時14歳。彼の演技を見た大村さんは「素直で綺麗な芝居をしてくれる。だから、外国の映画祭で最優秀主演男優賞に輝いた。一度観ただけでは分からない素晴らしさがあります」と絶賛し、リピーター鑑賞を勧めていく。また「二枚目で良い芝居をしてくれる。佐田啓二のような俳優です」と称えた。さらに、田中監督について「今回は僕の付き人をしてくれています。そんな監督はいません。こんな優しい監督だから3,4年かけて筋の深い作品を撮ってくれた」と感謝しており「この監督の為なら何でもやってみたい」と敬意を表す。
田中監督は、かつて大阪で起こった子供置き去り事件や千葉の八街児童5人死傷事故を例に挙げ、本作について「もし子供達が生きていたら、どう成長していくかな、が映画の出発点。少年の生い立ち等で辛いことがあったとしても、自分の好きなことや出来ることを見つけられたら前に進んでいける」と述べ、ストーリーの中にある奇跡なども解説していく。また、黒澤明監督の『七人の侍』や『赤ひげ』を例に挙げながら「この映画を素直に観て楽しんで頂ける。さらにパンフレットを読んで再発見出来ます」と本作の楽しみ方を提案する。
大村さんは、今作の劇伴について「映画の中で活きている。自分の気持ちと同じような音が出てきます」と感じ取り「当たり前のことだけど、邪魔にならないメロディが入ってくる」と気に入っている。また、社会的な事件や自身の幼少期の出来事を振り返りながら「倫太郎はお父さんとお母さんがいなくなった。倫太郎と私は似ているところもある」と指摘し「幸せは自分で叶えていかないといけない。汚れた世の中でも綺麗な映画を観て自身も綺麗になって子供達にも伝えていきたい」と本作に対する思いを改めて語った。
映画『ロボット修理人のAi(愛)』は、関西では、大阪・十三のシアターセブンや京都・烏丸御池のアップリンク京都や神戸・新開地の神戸アートビレッジセンターで公開中。
1999年に自律的なペットロボットの元祖ともいえるAIBOがソニーから発売された当時、幼いながらも衝撃を受けたことを覚えている。家族同然のように可愛がられる姿は本物のペットと何も変わらない。ソニーの修理対応が終了してしまった影響で動かなくなったAIBOの葬儀が開催されたニュースも印象に残っている。AIBOが心の隙間に響く存在だったからこそ、人々の優しい感情を引き出せた。今作もまた優しい感情に溢れた映画だ。
榛名湖で壊れたAIBOの修理に携わる少年は町にとってなくてはならない存在。少年は壊れたものをなんでも直す。大人達は彼の人柄やひたむきさを愛し、少年もまた榛名湖の風景とそこに住む人達の事を愛している。とても優しい世界だ。しかし少年の過去は暗くて重い。何気なく引き受けたAIBOの修理とバイト中に出会った声の出せない少女をきっかけに少年は過去と向き合う。振り返ると誰もが何か欠けていたり、抜けていたりする。完璧な人なんていないからこそ、お互いに欠けや隙間を埋め合うのだ。
なお、今作の主人公はソニーの修理対応が終了した後も旧型AIBOの修理を請け負う乗松伸幸をモデルにしている。誰かにとって大切な何かに寄り添う姿勢は今作の根源ともいえるだろう。
fromマリオン
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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