Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

コミュニケーションの原点を考えさせられた…『うたのはじまり』河合宏樹監督に聞く!

2020年3月26日

窪田正孝や、Mr.Children、クラムボンなどを撮影してきた“ろう“の写真家である齋藤陽道さんが、生後間もない息子の子育てを通して、嫌いだった歌との関係を見直す姿を映し出したドキュメンタリー『うたのはじまり』が、3月27日(金)より関西の劇場でも公開。今回、河合宏樹監督にインタビューを行った。

 

映画『うたのはじまり』は、窪田正孝の写真集やMr.Children、クラムボン、森山直太朗などのアーティスト写真を手がけてきた、ろうの写真家である齋藤陽道さんが、子育てを通して、それまで嫌いだった「うた」に出会うまでを描いたドキュメンタリー。20歳で補聴器を捨て、カメラを手にすることで、「聞く」ことよりも「見る」ことを選んだ、ろうの写真家・齋藤陽道。彼は同じくろうの写真家である妻の盛山麻奈美との間に息子を授かった。しかし、彼は聴者である息子との対話の難しさや音楽教育への疑問にぶち当たったことにより、「うた」を嫌いになってしまう。しかし、ふと自分の口からこぼれた子守歌をきっかけに、齋藤にある変化が訪れる。
七尾旅人さんのライブ映像作品「兵士A」やドキュメンタリー「ほんとうのうた 朗読劇『銀河鉄道の夜』を追って」などを手がけた映像作家の河合宏樹さんが監督を務めた。

 

飴屋法水さんが演出している舞台を追いかけていた河合監督は、出演者の一人である齋藤さんに出会った。彼が何者であるか全く知らない状態で撮影したが、写真家であり、ろう者であることを初めて知り、衝撃を受ける。聖歌隊のアーティストであるCANTUSのLIVE演出を依頼され、飴屋さんは演出家の立場として齋藤さんに出演を依頼した。聖歌隊とろう者を対峙させた即興による舞台で、齋藤さんは現場で出てきた言葉を拾っている。河合監督にとっては衝撃的過ぎて「改めて考え直さないといけない」と感じて、少しずつ齋藤さんに出会っていった。その後、『ほんとうのうた 朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って」を撮った時には、お互いが東日本大震災後に宮沢賢治に関する作品を撮っており、TwitterのDMで話し合い「根底としてに通じ合えるものがある」と感じ、仲良くなっていく。

 

当初、撮影期間やテーマ等を特に決めず「飴屋さんの公演を再解釈するためには、齋藤さん本人と接することで分かるんじゃないか」と河合監督は考え、齋藤さん本人の魅力を知るために、友達の立場として撮り始めた。次第に齋藤さんが持つ力に惹かれていく中で「齋藤さんにとって”うた”とは何だろう」とテーマを持ち始めていく。齋藤さんの友人として、共に悩み考えながら撮り続け「齋藤さんが変化していく様子がこの映画には描かれている。信頼関係を築けたからこそ撮れた」と十分な期間を以て撮影出来たことに満足している。だが、編集作業は大変な過程となった。「彼にとって”うた”は永遠のテーマ」であると認識し、自身も「ろう者や当事者を撮り、どのようにして世に出して伝えるか」を永遠のテーマであると捉え、熟考していく。「誰かに声をかけられなかったら、ずっと編集していた」と打ち明け、今回、絶妙なタイミングで配給会社に声をかけてもらい、完成まで辿り着いた。

 

なお、本作には、出産シーンまで含まれている。齋藤陽道さんとパートナーの盛山麻奈美さんは二人とも写真家。「撮ることを職業にしており、撮られることに対しても当たり前だと思っている。全然気にしていない。懐が深い」と河合監督は話す。さらに「麻奈美さんはパンクな気質。出産は当たり前のことで誰でも経験することであり、恥ずかしいことでもない」とまで語る。盛山さんは「”よく見せたね”と云われるが、私は普通のことだと思っている。それを河井監督がよく撮ってくれた。映画にとっても大事なシーンになっている」と感謝し「当たり前のことだと捉えてほしい」と伝えた。河合監督も「編集段階においても、必然的に取り入れたシーンです」と述べている。

 

また、本作は、齋藤さんを追いかけた作品であると同時に子育てをテーマにした作品として意義深い。齋藤さんが誕生した樹君を育てていくと同時に、樹君に教わったことがいくつもあった。まさに、齋藤さんと樹君がお互いに成長していく過程に遭遇できる作品であり、河合監督も成長できたと感じている。また「うたの映画としても観てほしいし、コミュニケーションの原点を考えさせられる映画でもある」と捉えており「SNS等での表層的なコミュニケーションが多いので、子守唄は、親子の関係を大事にするコミュニケーションは厚情なコミュニケーション」と訴求していく。齋藤さんとのコミュニケーションは筆談で行ったが「一語一語をじっくりと大切に言葉を選んで会話している。言葉や会話の温度感や抑揚によってもお互いを信じ尊敬しあうきっかけにもなるので、この映画でも伝わるんじゃないかな」と期待している。必然的に情報量が多い映画となったが、今作では新しい試みとして、絵字幕を導入してバージョンも制作された。歌の表現は重要であり、齋藤さんから「ビジュアルで歌を表現してくれないか」と依頼を受け、小指さんという作家に歌を絵にして五線譜仕様にして描いてもらい、楽譜のように字幕で表現している。歌の抑揚や温度感を伝えている試みであり「バリアフリーという捉え方だけでなく、新しい表現となっている」と河合監督も今後の展開に期待を寄せていく。

 

本作の公開を迎えた現在、樹君は4歳になった。手話と発語の2言語を話しており「両親には手話、僕には発語します。相手によって話法を替えている」と河合監督は話す。「最初は親の姿を見て手話を始め、周りの人からの声も聞いて言葉を覚えている」と伝え「勉強している量が違う。今後、どのように成長していくのか」と感心していた。本作の制作を振り返り「齋藤さんが樹君に対して『うたを強制せず、自分の意思を持って大切に育ってほしい』と云っていた。齋藤さんも成長したからこそ言葉にしたんだな、と受け取り、この映画が終えられる」と実感している。今後も「樹君が成長していく中で、様々な葛藤を抱えていく。そんな姿を見れるなら撮っていきたい」と彼らの未来に希望を願っていた。

 

映画『うたのはじまり』は、3月27日(金)より京都・九条の京都みなみ会館、3月28日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォと神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts