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「沖縄戦の図」は時空を超えて現代に訴える力がある…『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』河邑厚徳監督に聞く!

2023年7月28日

丸木位里さんと丸木俊さんによる大作「沖縄戦の図」の全14部を多角的に紹介していくドキュメンタリー『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』が7月28日(金)より関西の劇場でも公開される予定です。今回、河邑厚徳監督にインタビューを行った。

 

映画『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』は、画家の丸木位里さんと丸木俊さんの夫妻が1980年代に手がけた大作「沖縄戦の図」の全14部を紹介するドキュメンタリー。広島・長崎の原爆投下の惨状を全15部で描いた「原爆の図」をはじめ、「南京大虐殺の図」「アウシュビッツの図」など、その生涯で一貫して戦争の地獄絵を描き続けた丸木夫妻。最晩年には沖縄という題材に取り組み、現地に6年間通い続けて体験者の証言を聞き、地上戦の“現場”に立ちながら連作「沖縄戦の図」を完成させた。戦争の愚かさを余すことなく伝え、地上戦を生き延びた人々の「ヌチドゥタカラ(命こそ宝)」の精神が込められた14部の絵画を通し、丸木夫妻の「人間といのち」への深い鎮魂と洞察の軌跡をたどる。『大津波 3.11 未来への記憶』『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』等の河邑厚徳さんが手掛けた。

 

丸木位里さんと丸木俊さんは、現代の作家として日本の多くの人に知られており、外国でも「原爆の図」の巡回展が開かれており、「原爆の図」=丸木さんと考えられていた。その二人が晩年、取り組んだテーマが沖縄戦であり「八十代に6年間かけて沖縄戦を描いた。どうして最後に沖縄戦をテーマにして描いたのか」と探求。14部の絵画を見ながら「14部も書いていること自体が凄く大事だ」と感じ「2人が沖縄の人達から話を聞き、様々な現場を見て色々な思いが重なり、ある歴史の事実を絵画として表現する叙事詩のような壮大な新しいストーリーが見えるのではないか」と仮説を立てていく。断片的に見つめておらず「時間軸に沿って見つめていけば、物語があることに気づくはずだ」と確信し、ひたすら佐喜眞美術館に通って絵画を見ながら「丸木さん達がどうして次にこれをやろうとしたのか」と熟考。次第に1つの作品の形が分かるようになり「最初から分かっていたわけではないが、1番目から14番までは追いかけていこう」と構想した。

 

「どのようにして絵画を見れば良いのか」という視点を以て見つめ「沢山の戦死した人達が描かれている絵画の前に立っていると、頭が空っぽになるほどのインパクトに打たれ、ぼーっとしてしまった」と打ち明ける。「向こう側に書かれている人は、絵を見ている私に向かって伝えたいことがあるはず」と思いを馳せながらも「その声は全然聞こえなかった」と一度は挫折してしまう。だが、時間をかけて取材をしていく中で「その声が聞こえるようになったら、作品のメッセージが伝わってくる」と期待し、絵画を見ながら対話していった。「どこを見ていいか分からない程大きな絵。4m×8.5mの大きな絵なので、短時間で見て理解した気になるのも難しい。どこを見ていいか分からない。様々な状況が書かれているので、絵画と対話する時間を徹底的に設けよう」と佐喜眞美術館に20~30回も通うことに。最初から頭の中にストーリーは無かったが絵画を見ているうちに発見があり「凄いことが描かれている」と分かってきた。沖縄戦の状況は、歴史書や様々な資料に残っている。「絵画に描かれている戦死者が何を言いたかったのか」「誰かに話をしたかったんだろうな」と徐々に自身の感覚を通して絵画の中に入りこむように耳を澄ませることで理解できてきた。

 

制作にあたり「美術を鑑賞する見方とは違う。感性に訴えていく必要がある」と認識。また、音楽を重要視し「音楽で作品が決まっていく」と受けとめた。ジョン・カビラさんがナレーターを担っており「素晴らしかった。沖縄の方ですので、自分事として感じている。怒りや戦争への個人的な思いもあり、客観的なコメントを語るナレーターではない良い表現でした」と話す。

 

「14の作品を軸にするため、時間軸に並べ、そこに、どんな物語があり、どんなことが描かれ、どんな背景があるのか、共有したい」と考えながら「1番から14番まで時間軸で並べた時、観た人が『14の作品たっぷり見たな』という満足感を得てほしい」と願ってやまない。制作にあたり、徹底的に絵画だけで全てのストーリーを構成しようとしていたこともあり「戦後の読谷村まで辿り着いた2人が『これで沖縄戦を描ききった』という達成感があるに違いない。日本だけでなく、世界が1mmでも戦争に近づかないようにしないといけない2人の願いがある。映画を観た人が、自然に感じてもらえれば、丸木さん達も喜ぶだろうな」と期待している。

 

既に沖縄の映画館で公開されているが「沖縄の方は那覇から遠い場所にある佐喜眞美術館をあまり知らない。誰もが、沖縄戦の図があると知っているわけではない。沖縄戦の話は皆が知っているけど、見るのは辛い。自分たちの家族が亡くなったことへの思いがあると、沖縄戦の図がある佐喜眞美術館に足を運ばなかった」という感情も察した。だが「丸木さん達は残酷な出来事や生々しい遺体を描いていない。原爆についてはリアルに描いているけど、沖縄戦は大変な亡くなり方をした人も綺麗に書いている。顔の表情もいい。1つ1つ観ていくと、染色や織物の技術がある沖縄の着物の柄が綺麗。沢山の登場人物がいるけど、全部描き込んでいる。亡くなった人達にリスペクトしている」といった芸術家としての考え方をふまえ「戦争の被害を伝えるのではなく、丸木位里と丸木俊の2人の天才画家の素晴らしい力量を以てこそ成せるアート作品が素晴らしかった。何度も繰り返してみていくと歴史の中に入っていける」と信じている。改めて「沖縄戦の図」について「昔の話を描いているように見えるけど、実はそうじゃない。まさに今を描いている。アートは時空を超えている。過去のことを描いているけど、今のこととして観た皆が感じている。普通の記録映画とは違う、芸術が持っている力がある」と語った。

 

なお、河邑監督は次回作として、フォトドキュメンタリー『鉛筆と銃 長倉洋海の眸(め)』が公開予定だ。報道写真家の長倉洋海さんが40年近くアフガニスタンに通っていた中で、ソ連と戦ったゲリラの若き司令官であるマスードと出会い、アメリカ同時多発テロ事件の2日前にイスラム原理主義者の自爆テロで殺されてしまったことに絶望したが、マスードが暮らしたパンシール渓谷にある小さな山の学校にスポットをあて希望を見出していく作品になっている。

 

映画『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』は、関西では、7月28日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、7月29日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、8月11日(金・祝)より神戸・新開地の神戸映画資料館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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