死の意味を知ることが今を生きることに繋がる…『みとりし』榎木孝明さん、白羽弥仁 監督、柴田久美子さんを迎え舞台挨拶開催!
交通事故で突如娘を失い、やがて看取り士となる男の姿を通して、その仕事の全貌や死ぬこと、生きることなどを見つめ直す『みとりし』が9月13日(金)より全国の劇場で公開中。9月15日(日)には、榎木孝明さんと白羽弥仁 監督、原案の柴田久美子さんを迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『みとりし』は、温かい死を迎えるために、本人の希望する形で旅立つ人の心に寄り添いながら見届ける「看取り士」を描いたヒューマンドラマ。定年間際のビジネスマン柴久生は交通事故で娘を亡くし、自殺を図ろうとしていた。そんな彼の耳に聞こえた「生きろ」の声。その声は柴の友人・川島の最期の時の声だと、川島の看取り士だった女性から聞かされる。それから5年後、岡山・備中高梁で看取り士としてのセカンドライフを送る柴は、9歳の時に母を亡くした新人・高村みのりたちとともに、最期の時を迎える人びとを温かく支えていく。
本作は、一般社団法人「日本看取り士会」の会長を務める柴田久美子さんの経験を原案に、主演も務める榎木孝明さんが企画から携わり映画化した。柴役を榎木孝明さん、みのり役を村上穂乃佳さんが演じるほか、斉藤暁さん、つみきみほさん、宇梶剛士さん、櫻井淳子さんらが脇を固める。監督は『ママ、ごはんまだ?』の白羽弥仁さんが担う。
上映後、本作の嶋田豪プロデューサーを司会に、主演の榎木孝明さんと白羽弥仁 監督、原案の柴田久美子さんが登壇。満員立ち見状態の中、穏やかな舞台挨拶が繰り広げられた。
榎木さんと柴田さんが12年もかけて企画し映画となった本作が公開を迎え、榎木さんは「全ての始まりは私と日本看取り士会の会長である柴田さんとの出会いから始まりました」と明かす。12年前に島根県の小島で柴田さんが看取り士として自宅を開放されて看取られていた頃に、榎木さんが尋ねて話を聞き感銘を受け「いつか映画を作りましょう」と約束していた。別れ際に「尊い現場についてはドキュメンタリーでは難しいから、ぜひ映画としてやりましょう」と受けた柴田さんはずっと心に残っていたが「実際にはなかなか動けなかったんです」と打ち明ける。3年前に、がん告知を受け「この命が果てるとしたら何を残しただろう」という思いの中で、榎木さんとの約束を思い出し「2025年問題が微力でも解決に向かえば」という思いで思い立ち、ガンは完治に至った。団塊世代が後期高齢者に多くなられて国や病院が対応できないと危惧されているという2025年問題がある中で、榎木さんは「私達の意識を変えていくことで、民衆の立場でこの問題を解決できないか」と話しており「映画を通じて真剣に考える時間を作っていきたい」と本格的に映画に取り組んでいく。
映画制作の依頼を受け、白羽監督は「ドキュメンタリーじゃないんですか」と確認。劇映画と云われ「確たるストーリーがあるわけではない。様々な亡くなった方の事例と柴田さんの人生があるだけだった。これを映画のストーリーにする必要があり、四苦八苦した」と当時を振り返る。「柴田さんが幼い頃、お父さんを亡くし色々な思いがあった。バリバリと働くようになり、某フードチェーンの幹部になり大いに働いたが精神を病み自殺未遂の経験もあった。その後、看取りの仕事を始めた」と柴田さんの人生の取り上げ「少女時代は村上穂乃佳さんの役柄、働いていた時代を榎木さん、つみきみほさんが看取り士となって、同じ世界を生きている構成が出来る」思いつき、以降は一気にシナリオを書き上げた。
死のイメージについて気になっていた榎木さんは「皆の死生観が戦後は失われつつある中で、暗く辛く悲しく怖いイメージで塗り固められていること自体が違うんじゃないか」と違和感を抱き続けており「死に対してもっと開放的になり、死の意味を知ることが今を生きることに繋がる」と確信している。看取り士の研修として、看取られる側を体験させてもらった白羽監督は「臨死体験と云えば大袈裟になりますが、本当に死ぬような気分になりました」と貴重な体験を感謝していた。榎木さんも受けており「本当のお見送りがこのようになされたら、決して暗く考える必要はない」と訴える。「人間の魂は死んで終わりじゃない。私は鹿児島の片田舎で生まれ育ったので、輪廻転生について話していました。そのことを分かっていくと本当の人生の意味が分かってきます」と述べ、映画を通して家族で死に関する話し合いをしてほしいと提案した。なお、死を扱っている作品ではあるが、撮影現場は明るい雰囲気となっていたようだ。看取り士の方が常に現場で指導しており「忙しい現場で助監督が寝る時間もなく『俺、もう死にそうだよ』が休憩時間にバタンと倒れて横になったら、すぐ隣にいた看取り士さんが『いつでも私達がいますからね』と見事なフォローで現場は大爆笑でした」といったエピソードまで明かしていく。
最後に、榎木さんは「私達の歴史は人間の意識が作ったとも云えます。私達の意識が変わると世の中が変わっていきます。民衆レベルの意識がどう変わっていくかによって次の新しい時代が来る」と信じており「今を生きることは大事なことです。過去を悔んだり未来を心配したりするよりも今をいかに生きるかが一番大事です。そんなことを考えるきっかけにこの映画がなったらとても素敵だなと思っています」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。
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- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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