”手本引き”には殺陣に勝るとも劣らない迫力がある…!『カスリコ』石橋保さんと高瀨將嗣監督を迎え舞台挨拶開催!
どん底に落ちた元料理人の男が、賭場の下働き“カスリコ“となり、人生を賭けた大勝負に挑んでいく姿を映し出す『カスリコ』が関西の劇場でも8月24日(土)より公開。初日には、大阪・十三の第七藝術劇場に石橋保さんと高瀨將嗣監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『カスリコ』は、昭和40年代の高知県土佐を舞台に、賭博の終着駅とも称される“手本引き“を題材に裏社会で生きる人びとの姿を描く人情ドラマ。高知在住の脚本家である國吉卓爾さんがシナリオ大賞に入賞した脚本を高知全編ロケ、多数の高知出身俳優出演で映画化。賭博にのめり込み、高知一とも言われた料理店を手放して身を滅ぼした岡田吾一。途方に暮れる吾一の前にヤクザの荒木五郎が現れる。五郎は吾一に賭場で客の使い走りをして、わずかばかりの祝儀を恵んでもらう「カスリコ」の仕事を世話してやるという。物乞いのような仕事ではあるが、行き場のない吾一はカスリコとして再び賭場に出向いてく。吾一はプライドを捨てて懸命に働くが、賭場の人びとの生きざまを目の当たりにしていく中で、人生を賭けた最後の大勝負に挑む。吾一役を石橋保さん、五郎役を宅麻伸さんがそれぞれ演じる。監督は殺陣師としても活躍する高瀬将嗣さん。
上映前には、高瀨將嗣監督が登壇。「短く説明できる映画が名作と云われています」と踏まえた上で「カスリコというのは賭場の稼ぎだけで生きている下働きを意味する隠語です。手本引きというギャンブルに嵌って没落した男がリベンジを目指すけども悉く失敗して最後はどうなるか」と、本作について説明。手本引きについて「博打の終着駅とも云われる、高いレベルのギャンブル。親が一から六までの札を隠して示す。子は一から六のどれを親が示したのか当てる」と説明し「単純ですが、心理戦を行う。丁半博打とは比べ物にならないせめぎ合いがあります。虚々実々の駆け引きをお伝えできれば」と本作に対する思いを述べていく。
高瀬監督は殺陣師としてデビューしており「私が今までに撮ってきた監督作品でアクションシーンが無い作品はなかった」と解説した上で「一切の殴り合いや血が出るシーンがない初めての作品です。札のやり取りが格闘シーンに勝るとも劣らない迫力を醸し出しています」と本作の魅力を訴える。さらに、実際に手本引きの説明をしながら実演披露し、お客さんに本作を鑑賞して頂いた。
上映後、石橋保さんと高瀨將嗣監督が登壇。大阪出身の石橋さんは「地元ってやりにくいですね」と苦笑い。「良かったですか?」と尋ねると、拍手を受け、ホッとしていた。
シナリオを読んだ第一印象として、石橋さんは、演じた吾一について「阿保な男やな」と断言。高瀬監督は「吾一は酷い男。あれだけ立派な腕と才覚を持ちながら家族を路頭に迷わせていく救いのない話」だと解説していく。とはいえ、豪華なベテラン俳優との共演となり、石橋さんは、紙芝居屋役の沢田誠志さんが印象に残っている。高瀬監督は「沢田さんには、土佐弁を上手に駆使して方言指導もして頂いた」と感謝していた。
手本引きについて、石橋さんは「難しいですね。最初はさっぱり分かりませんでした」と告白。撮影前には、高瀬監督の道場に出演者が集められてイチから賭け方の説明を受けた。手本引きの張り方には、1点張りから、4点張りまであり、札の置き方によっても配当が変化する。全て作品の中で見せようとすると2時間は必要となるため、石橋さんは「最初は全ての賭け方を頂いて全部やるのか」と思い緊張。今作では4点張りのみとなり、ひと安心していた。
今作は全編高知ロケであり、クランクインからアップまで高知で撮影。石橋さんは「高知はとにかくカツオです。まずカツオ。次の日もカツオ。ずっとカツオでした」カツオ三昧。「最後に、物凄い美味しいカツオが出てくると聞いて、ずっと我慢していました」と毎日楽しみにしていた。食べた方についても「普通はポン酢で食べますが、塩で食べるとなおさら美味しい」と絶賛する。登場する街並みは、昭和40年を見事に再現しており、高瀬監督は「制作部さんが骨を折ってくれました」と感謝を伝えていく。さらに「撮影した家屋や風情のある喫茶店は、現在は再開発で整地されてありません。材木屋さんを居抜きで不動産屋さんに作り変えてロケセットにしましたが、今は閉店してします」と、昭和の匂いを残した高知を描いた貴重な作品であることが伝えられた。
なお、高瀬監督が個人的に印象に残っているのは、かつてのライバル同士だった吾一と源三が久々に再開し川で話す件。「温暖なイメージがある高知ですが、撮影した11月末は寒かった」と振り返る。石橋さんも「僕は下働きの雰囲気を出すため足袋も履かず裸足で演じた。言わなければよかった」と後悔ぎみ。高瀬監督は「簡易型のストーブを用意していたが、源三役の高橋長英さんが『僕は要らない』と役柄を意識して演じて頂いた。石橋さんも応じて頂いた」と役者冥利に尽きる本作だと物語っていた。
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- 映画ライター
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