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初めての映画作り体験をした中高生達は驚くほど成長していく…!『ワイルドツアー』三宅唱監督に聞く!

2019年5月6日

山口情報芸術センター(YCAM)で実施されている植物図鑑を作るワークショップを物語の起点に、10代の若者たちが自然に触れ成長する姿を描く『ワイルドツアー』が、5月4日(土)より関西の劇場でも公開されている。今回、本作を手掛けた三宅唱監督にインタビューを行った。

 

映画『ワイルドツアー』は、三宅唱監督が、ほぼ演技経験のない10代の中高生たちとともに脚本や演出を考えながら撮影を重ねて完成させた青春映画。山口情報芸術センター(YCAM)が実施する映画制作プロジェクト「YCAM Film Factory」によって製作された。山口県山口市にあるアートセンターでおこなわれている「山口のDNA図鑑」というワークショップに進行役として参加している大学1年生の中園うめ。このワークショップでは、参加者が自分たちの暮らす街を歩きまわり、どんな植物が生えているのかを調べていき、採取した植物からDNAを抽出し図鑑を作成する。うめは中学3年生のタケとシュンとともに「新しい種」を求めて近くの森を探索していく。

 

本作は、一見ドキュメンタリーかと思うような始まりによって展開していく。三宅監督は「場合によっては、最後までドキュメンタリーのつもりで騙そうかな」と告白しながら「日常と地続きのまま、どこまで遠くに行けるか。スタート地点は極めて自分達の日常に近いところから始めた」と解説していく。監督がWebサイト「boidマガジン」内で公開しているビデオダイアリー「無言日記」は日常そのものを捉えており「映画を作る行為自体を大げさにせず、日記を書く気持ちで映画を作れないかなと思っていた。『ワイルドツアー』もその気分のまま作っていますね」と明かした。

 

制作にあたり、三宅監督は、中高生達が野山に行き、恋が生まれる設定だけは決めており「そこから先はキャスティングが決まり、彼らのキャラクターや彼らが考えてきたアイデアで肉付けしていった」と説明。脚本のクレジットについて「僕が独占するのではなく、彼ら全員の名前を入れるべきだったかもしれない」と思う程に、出演者達に感謝している。作品へのアイデアを沢山取り込んでおり「アイデアは皆とのやり取りで生まれていく。ある時点からは、どちらのアイデアかわからない」とまで語る。例えば、自分の役名を自分で決めたキャラクターがいたり、劇中に出てくるラブレターの文面は三宅監督の下書きに訂正が入ったりしていた。目に映る様々なアクション等も映画にもたらしている。他にも、カメラ目線のインタビューのようなシーンは、監督が思っていなかったようなレベルまで映画のテーマを簡潔に力強く宣言してくれる台詞もあった。言語表現のジェネレーションギャップを感じながらも言葉の強弱を踏まえ表現方法を考えてながら、本作は制作されていく。

 

ヒロインを担った伊藤帆乃花さんは撮影当時では高校3年生だったが、俳優事務所に所属しており、今作への意欲を感じオファー。中学3年生のタケとシュンを演じた2人はYCAMに親しんでおり「僕のような他所からきた年上の男にもフラットに話せるキャラクター。彼らとなら友人のように一緒に映画を作れるんじゃないかな」と考え、主演をお願いした。3人の中で、伊藤帆乃花さんは憧れのお姉さんであることを自覚しており「18歳ながら大人の女性として、年下の男の子からどのように見られているか理解したうえで、ヒロインとして振舞ってくれた」と感謝している。

 

今作で中高生と仕事をしていく中で「彼らを子どもと呼ばないと決めていた。中高生の方が僕らより頭の回転速度が速いので、経験なくとも、トライアンドエラーをいくらでも出来る」と捉えており、大人も必死になって追いかけた。「映画を作っている人間が中高生に映画を教えるのではなく、僕が必死についていく。中高生は正直なので、ぼくがつまらないアイデアを出すと、露骨に評価する」と理解し、監督自身の引き出しが明けられ、緊張感のある現場を体験していく。そんな撮影現場を監督は楽しみ「初めて映画を作る経験をする彼らは、初めての海外旅行のような楽しさがある。目の前で映画のおもしろさを発見している人達がいる」と気づき、皆と一緒になって作品の出来上がりを喜んだ。

 

なお、出演した中高生達は平日は学校があり、受験前の時期でもあったため、撮影は土日のみ。10日しか撮っておらず、夜遅くまでの撮影も行っておらず、健康的な現場となった。その日毎の短編をまとめ、60分から70分程度を最初から考えており、結果的に67分の作品として完成。前作『きみの鳥はうたえる』撮影した2ケ月後、山口県に8ヶ月間滞在して撮影しており「地続きのような兄弟のような映画になった」と感じている。

 

また、前々作、前作に続いて、Hi’Specさんが音楽を担当。出来上がった素材を観たHi’Specさんは「映っている中高生達が自分の生身で勝負している」と刺激を受け「僕も自分で楽器を鳴らして音楽を作ってみたい」と提案。通常のトラックメイカーはサンプリングベースにビートを作っているが「今回は、サンプリングをしていない。一緒に楽器屋さんを訪れ、カリンバを使って奏でてMPCに取り込んで作っていました」と明かし「自分達も新しい挑戦ができた」と楽しんだ。

 

なお、今作でYCAMの映画制作プロジェクトは終了する。もし、またYCAMで映画制作する場合について尋ねてみると「滞在前から、YCAMはSF映画に登場する謎の組織みたいな場所だと感じていた。メディアアートに用いるコンピュータなどがあった。エンジニアもしっかりしている」と印象を伝えた上で「『ワイルドツアー』もDNA採集というSFだと思っている。SF映画は興味あるジャンルなので、やるかもしれないですね」と胸を躍らせていた。

 

映画『ワイルドツアー』は、大阪・九条のシネ・ヌーヴォと京都・出町柳の出町座で公開中。また、6月1日(土)からは、神戸・元町の元町映画館でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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